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43.【サーシス伯爵3 称号剝奪】

プチざまぁ回です。


 今、はっきりとわかった。こいつ(サーシス伯爵)とは一生分かり合えない。


「――そんな考えなら、なおさら伯爵位を与え続けるわけにはいきませんね」


 沈黙を破ってシャル様が声を上げる。


「アーノルド=サーシス。『称号剝奪法』にのっとり、貴方に資格の是非を問います。枢密顧問官の調査が終わるまで、大人しくしていなさい!」

「なっ!」


 サーシス(・・・・)が膝から崩れ落ちた。


 称号剝奪法とは、貴族としてふさわしくないと嫌疑がかけられた者に対して、2名以上の枢密顧問官が調査を行い、結果ふさわしくないと判断されれば、その称号を剥奪する法律だ。


「バカな……そんな……ありえない……」

「――はぁ。こちら側にまだこんな輩がいたとは……害虫駆除はきりがないですね……」


 崩れ落ちたサーシスを見てシャル様がつぶやいた。


(こちら側? どういう意味だ? それに害虫駆除って……)


 称号剝奪法は公布されたから最近まで全く使用されることのなかった法律だが、ここ最近、複数回使用されたと聞く。


(シャルさんが使用したのかな? なんにしても助かっ――痛っ!)


 立ち上がろうとしたが、足に痛みを感じ、よろけてしまう。


「アレンさ――キャッ!」


 慌ててクリス様が支えようとしてくれたが、俺を支えられるほどの力はない。俺はクリス様を巻き込んで倒れてしまった。


「あらあら。大丈夫?」


 母さんが心配して声をかけてくれるが、俺は返事をすることができない。倒れた際にクリス様をかばって下敷きになったため、全身を打ち付けてしまった。ただでさえ、電撃で痛めつけていた身体が悲鳴を上げている。


「アレン様! アレン様しっかり!」

「――クリス様。アレン様が心配なら、まず彼の上から降りてあげなさい」

「え? あっ! ……す、すみません!」


 心配するクリス様にシャル様が声をかけた。慌ててクリス様が俺の上から降りる。痛みは少し引いたがそれ以上になぜか残念だった。


「さて……お久しぶりですね。アレン様」

「お久し……ぶり……です。……シャル()

「あら? 面接のときのように『シャルさん』と呼んでくださってもいいんですよ?」

「い、いえ。そういう……わけ……には……」


 もう面接の時とは違い、俺は面接官ではないし、シャル様は応募者ではない。シャル様が上流階級の貴族であることは、昨日、ミッシェルさんに確認している。これ以上、『シャルさん』と呼ぶのはまずいだろう。


 現に、俺が『シャルさん』と呼んでいたことを知ったクリス様は目を見開いていた。


 本当は立ち上がるべきなのだが、とてもではないが立てそうにない。とはいえ横になったままというわけにもいかず、何とか身体を起こそうとする。


「ああ、まずは治療が先ですね。治しますのでしばらくそのまま横になっていてください」


 そう言ってシャル様は俺に手を向けた。次の瞬間、俺の身体が暖かい光に包まれる。まるで全身ぬるま湯につかっているような心地よい感触だった。


 しばらくすると、シャル様が手を下げる。俺を包んでいた光は消えたが、暖かさは残っていた。


「終わりました。いかがですか?」


 俺は少しずつ身体に力を入れていくが、どこも痛むことはない。恐る恐る立ち上がったが、問題なく立ち上がれた。


「ありがとうございます! どこも痛くないです!」


 俺がお礼を言うと、シャル様はにっこりとほほ笑む。


「ミッシェル様もありがとうございます! おかげで助かりました」

「かまへんよ。むしろ助けるんが遅くなってもうて痛い思いさせてもうたな。かんにんや」

「いえ、それでも予定より早く来てくれて助かりました。あと少しでも遅かったら危なかったです」


 ミッシェルさんに依頼していたことは、魔道具を貸してもらうことと、助っ人を呼ぶ手伝いをしてもらうことだった。


 武力面では、母さんさえいれば心配ない。シャムルさんに俺の家に転移してもらい、今日と明日はこちらにいて欲しい、と伝えてもらう。


 権力面では対抗できるのは、シャル様しか思いつかなかった。面接の様子から上流階級の貴族令嬢だと思ったのだが、ミッシェルさんに聞いてみると、シャル様なら十分すぎると言われたのだ。


 問題はどうやってシャル様を見つけるか、だったのだが……


「シャル様が馬車を貸してくださったおかげね。ありがとうございます」

「いえいえ! イリス様のお力になれたのなら感激です!」


 なんと、シャル様はクランフォード家にいたのだ。母さんに伝言し、戻ってきたシャムルさんが教えてくれた。


 なぜ? と思ったが、なんでもシャル様は母さんに憧れているらしい。昔色々あったのだとミッシェルさんが教えてくれた。今も、母さんにお礼を言われてとても喜んでいる。


「……み、認めん。認めませんぞ!」


 ずっとうわ言をつぶやいていたサーシスが、突然大声を出した。


「称号剝奪なぞ、我は認めませんぞ! 我には嫌疑をかけられる謂れはありません! 嫌疑が無ければ、枢密顧問官の派遣すらできぬはずです!」

「――この期に及んでまだあがきますか……。通行税の極端な値上げ、罪なき商会への破壊行為、従業員の貴族令嬢の誘拐未遂、支店長への暴力行為。貴族としてふさわしくないと嫌疑をかけるには十分な内容です」

「は、破壊行為など……扉の建付けが悪く、力を籠めたら、つい魔道具が暴発してしまったのです! それに、誘拐未遂や暴力行為など行っておりません! そんな証拠はないはずです!」


 腐っても伯爵として、上流階級に属していただけはある。俺が回復した今、残っている証拠は店内の惨状だけだと思ったのだろう。よくもまぁそんな言い訳が思いつくものだ。


「はぁ。嘘発見の魔道具を使うのも面倒ですね。さて、どうしますか……」

「――シャル様こちらを」


 俺はシャル様に1つ目の魔道具を差し出した。


「これは?」

「ミッシェル様にお借りした録音用の魔道具です。サーシスが来店してからの様子を録音しています」

「――なっ! 貴様!」


 意外なことに、自分の行いがバレるとまずいという自覚はあるようだ。俺を睨んだかと思ったら、魔道具を奪おうと向かってきた。


「あらあら。まだこりて無いようね」


 すぐに母さんがサーシスの足を払い転ばせ、腕を背中にひねって拘束した。


「ぎゃゃぁぁああ!!」


 サーシスが悲鳴を上げる。腕をひねられたくらいで情けないと思ったが、よく見ると先ほど握りつぶした部分を掴んでひねり上げていた。


(あれ……絶対わざとだよな。まぁ自業自得か)


 悲鳴を上げているサーシスを無視して、俺は魔道具をシャル様に渡す。


「お願いします」

「ありがとうございます。手間が省けました」


 シャル様が受け取った魔道具を操作すると録音された音声が流れだす。


「――『あんさんはああいう子が好みやったんやね。てっきり胸の大きいんが好みやと思って娘を派遣したんやけど』

『……胸の大きさで女性を区別したりしません! そういうのとは別にクリス様は素敵な方です!』……………」


 流れてきた音声にその場の全員が固まる。クリス様だけは顔を真っ赤にして座り込んでしまった。

『称号剝奪法』は実在する法律ですが、本作品での法解釈は実在するものと異なります。

今更ですが、本作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。


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