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38.【ミーナ様の真意】

昨日、もう1件レビューを頂きました。本当にありがとうございます!

「お騒がせしました」


 ミーナ様が俺とユリに頭を下げる。まだ目元は腫れていたが、表情はだいぶ落ち着いていた。


「頭を上げてください。誤解が解けたのなら、大丈夫ですから。ただ、よろしければ、事情を説明していただけますか?」


 俺の横で、ユリがまだ、俺のことを冷たい目で見つめている。俺がミーナ様に乱暴したわけではないということは分かってもらえたようだが、それでもまだ納得できていないようだ。


「そう、ですわね……お話しさせて頂きますわ」


 そう言ってミーナ様は俺が淹れなおしたお茶を飲まれる。優しい味になるよう心掛けて淹れたお茶なので、さらに落ち着いてもらえるだろう。


「わたくしはお父様に『アナベーラ商会が気に入った商会があり、そこの子供はお前(ミーナ)と年が近い。そこで働けるようにしたからそこの子供と結婚してこい』と言われてまいりましたわ」

「……『結婚してこい』……ですか?」


(『結婚してこい』って……何を考えているんだ? いや、そもそも働けるようにしたってなんだ? 何も聞いてないぞ)


「ええ。それで、指定された日にお店にお伺いしたら、わたくしの他にシャル様やクリス様がいらっしゃったので……てっきりわたくしは第3婦人になるのかと……」

「――は?」


(なんでそうなる?)


 俺が理解できていないことを察してくれたのか、ミーナ様は詳しく説明してくれる。


「貴族の娘が商家で働く場合は、その家に嫁ぐ場合がほどんどですわ」


(そうだったのか! ……って待て! それってクリス様もそのつもりで? …………い、いや、今はミーナ様の話だ) 


 クリス様の事に意識が行きそうになったが、何とかこらえる。


「裕福な商人なら、複数の妻を持つのは普通ですわ。特に成り上った商人はその傾向が強いとリンダが言ってましたの」


(あの侍女さんか!)


「経緯は分かったのですが、それでなぜ、『妾になる』という話になるんですか?」

「それは……先ほどクリス様とお会いして、クリス様達は今日来るように言われたとお伺いしましたわ。ですから、正式に妻に選ばれた方は今日呼ばれていて、私は選ばれなかったのかなと……」


 面接の合否という意味では正しい解釈だが、妻として選んだわけではない。


「お父様から『ここで働けるようにした』と聞いていたので、私もクリス様についてきましたわ。ですが、アレン様から働けないと言われて、どういうことかリンダに聞きましたの」

「リンダさんに?」


 俺が知る限り、今日、リンダさんはお店に入っていないはずだ。俺の疑問に答えるために、ミーナ様は首飾りを指しながら言う。


「この首飾りは護身用の魔道具ですわ。少しの距離ですが、離れた相手と意思の疎通ができますの」


 それを使い、リンダさんと話をしていたのか。さすがは男爵令嬢だ。しかし、そうなると疑問が残る。


「クリス様が『読み書きも計算も問題なくできるから雇っていただくことはできますでしょうか』っておっしゃっていたと思いますが、それでどうして妾にされると思ったんですか?」


 クリス様の言い方なら、従業員として雇うことを勧めていると思うだろう。


「この魔道具はわたくしとリンダのみの意思疎通しかできませんの。クリス様の言葉はリンダには聞こえていませんわ」


 勝手に携帯電話のような魔道具を意識していたが、どうやらミーナ様の意思だけを伝える魔道具のようだ。


「わたくしが『アレン様ともう一度面接する』と伝えたら『妾として囲うつもりだろうから手籠めにしてもらえば優位になる』と」

「――――は?」


 俺は面食らってしまう。リンダさんの意図が理解できなかったのだ。


 俺にミーナ様を手籠めにさせて、強引に妾にしようとたくらんだのだろうか。それとも、単純に、俺が手を出せば、他の妾候補より優位になれる、という意味だったのだろうか。


 どのみち、怒りが込み上げてくる。


(――人をなんだと思ってる!)


 貴族令嬢にとって、家のために結婚することも、好きでもない男の子を産むことも普通の事なのだろう。平民よりいい暮らしをして大事に扱われているのだ。恋愛の自由がないとしても、仕方ない。


 頭では理解できるが、感情が追い付かない。しかし、ここで怒りをあらわにするわけにもいかない。


 誰が悪いわけでもない。むしろ、間違っているのは、俺だ。そう言い聞かせて心を落ち着ける。


「――申し訳ありませんが、ミルキアーナ様を妾として囲うことはできません」


 覚悟していたのだろう。ミーナ様はゆっくりと頷いた。


「もちろん、妻として迎えることもできません。ですが、従業員として雇うことはできます」


 予想外だったのか、ミーナ様が驚いた表情を浮かべる。


「……いいんですの?」

「かまいません。他の方達と同じように働いてもらいますが、それでもよろしければ歓迎します」


 俺がそう言うと、ミーナ様は考え込んでしまった。


「…………一度お父様と相談しますわ。1週間ほどお時間頂けるかしら」


 貴族令嬢にとって、当主の意見は絶対だ。ミルキアーナ男爵から『結婚してこい』と言われたのであれば、従業員として働いてもいいか確認する必要があるのだろう。


「もちろんです。ミルキアーナ様と働ける日を楽しみにしています」

「………………ミーナ」

「はい?」

「……と、特別にミーナと呼ぶことを許して差し上げますわ」


 ミーナ様は顔を真っ赤にして続ける。


「勘違いしないでくださいね! 名前で呼ぶことを許すとはいえ、あなたを慕っているわけではありませんから!」


 ツンデレの照れ隠しのように聞こえるが、おそらく本心だろう。それでも、嬉しかった。


「承知しました。これからはミーナ様と呼ばせて頂きます」

「結構ですわ」


 そう言ってミーナ様はほほ笑んだ。



 その後、ミーナ様を出口まで案内した。出口のすぐ外にはリンダさんが控えていて、馬車の用意もされている。リンダさんから侮辱の視線を向けられるかと思ったが、そんなことはなかった。むしろ、丁寧にお辞儀をされる。


「失礼な態度を取ってしまい、申し訳ありません。非礼をお詫びします」


 リンダさんに謝罪された俺はとっさに返事ができなかった。まさか、謝罪されるとは思っていなかったのだ。


「い、いえ。誤解が解けて何よりです」


 俺は何とかそれだけ返した。ミーナ様もこちらを向く。


「それでは、アレン様、ごきげんよう。1週間後にまたお会いしましょう」

「楽しみにしています。ミーナ様もお元気で。またお会いしましょう」


 挨拶を終えると、ミーナ様は馬車に乗りこみ、リンダさんの指示で馬車が走り出す。馬車が見えなくなるまで見送った後、俺達は店内に戻った。


 店内では、開店作業を終えた皆が、開店に向けて待機していた。開店時間まで、まもなくだったが、ミーナ様の事が気になったのか、クリス様が話しかけてくる。


「ミーナ様は雇われなかったのですか?」


 やはり、クリス様としては、ミーナ様を雇って欲しかったようだ。


「私としては雇うつもりですよ。従業員(・・・)として一緒に働いて欲しいとお伝えしましたら、お父様と相談されるとおっしゃっていました。1週間後にどうされるか決めるようです」

「……そう、ですか……あの、アレン様。恐れ入りますが、閉店後にお時間いただけますでしょうか。お話ししたいことがあります」


 俺もクリス様と話がしたいと思っていたので、ちょうどよかった。


「かまいませんよ。閉店後に店長室に来ていただけますか?」

「ありがとうございます。伺わせて頂きます」


 そう言って、クリス様は業務に戻られる。閉店後のクリス様との会話を楽しみに、俺も自分の業務を行うため、店長室に向かった。

ミーナ様がリンダさんと会話をしたのは、アレンがお茶を淹れているタイミングです。

この時のミーナ様の心情は、本編完結後の別視点で書こうと思います。



なお、従業員の仕切りはマグダンスさんにまかせていますが、その他の仕事はアレンが自分で行っています。店長室で、遊んでいるわけではないですよ。

次回はクリス様の話です! お楽しみに!

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