36.【朝礼 爆弾】
おはようございます! 少し長めです。新キャラも出せましたし、そろそろ物語を進めたい……
次にやってきたのはマナだった。同時に、身支度を整えたユリも降りてくる。
「おはようございます! ユリピー! おはよう! 今日も可愛いね!」
「おはようございます! あ、マナちゃん! おはよう! 今日からよろしくね」
(こいつ、まさかユリが降りてくるタイミングを狙ってきたんじゃ)
「2人ともおはよう。もうすぐみんな来ると思うから、自己紹介はその時にな」
「「わかったー!」」
2人とも休憩室に入り、椅子に座ろうとした。マナの横を通ったとき、マナの独り言が聞こえてくる。
「はぁー。ユリピー今日も尊いよ。可愛いよー。なんて可愛いんだろ。これから毎日一緒に働ける。ぐふふ」
(こいつ! 変態か!)
昔からユリとマナが2人で遊ぶことはよくあったが、普通の仲のいい友達だったはずだ。思わずマナを見つめる。俺の視線に気付いたマナは『ベッ』っと舌を出して小悪魔のような顔をした。
(あえて俺に聞かせたのか!? 何のために? …………わからない……こいつは昔から本当にわからない……)
マナの目的は分からなかったが、警戒は怠らないようにしようと心に誓った。
集合時間の5分前にニーニャさん、マグダンスさん、ナタリーさんがやってきた。3人がそろって挨拶をする。
「おはようさん。今日からよろしゅう頼んます」
「「おはようございます。改めてよろしくお願いします」」
相変わらず、マグダンスさんとナタリーさんの息はピッタリだ。綺麗にハモっていた。
「こちらこそよろしくお願いします。皆さん揃ってから自己紹介していただくので、とりあえず座ってお待ちください」
3人が座る際に、マーサさんがお茶を淹れなおしてくれる。3人に出されたお茶は、ぬるそうに見えた。
(あ、もうすぐ時間で、早く飲む必要があるからぬるめに出したのか。さすがだ)
3人もそれを理解しているのだろう。マーサさんに感謝の言葉を告げている。
集合時間ちょうどにクリス様が来られる。その後ろには、なぜかミーナ様も一緒だった。
(ミーナ=ミルキアーナ男爵令嬢? 面接では何も言っていないはずだけど……なんでここに?)
俺が疑問に思っていると、クリス様が挨拶された。
「おはようございます、アレン様。本日からよろしくお願い致します」
「おはようございます、クリス様。こちらこそよろしくお願いします。ところで、なぜミルキアーナ様と一緒に?」
クリス様に聞いたのだが、ミーナ様が激高する。
「なぜってなんですの!? 今日からここで働くからに決まっていますわ!」
「……面接では特に何も申していないと思うのですが、なぜミルキアーナ様が働くことになっているのですか?」
俺の言葉が理解できないのか、ミーナ様は黙ってしまう。そこへ、クリス様が助け舟を出される。
「……あの、アレン様。ミーナ様は読み書きも計算も問題なくできます。面接でどのようなことがあったかは存じませんが、雇っていただくことはできませんでしょうか」
何か事情があるのか、クリス様はミーナ様の肩を持った。クリス様にそう言われたら無下にすることはできない。
「――クリス様が推薦されるのでしたら、再度面接を実施させて頂きます。さすがに無条件で雇うことはできませんので、ご了承ください」
「それで構いません。ご配慮、感謝します。ミーナ様もよろしいですね?」
「…………クリス様がそうおっしゃるのでしたら仕方ありませんわ」
渋々といった様子で、ミーナ様が了承された。
「それでは、ミルキアーナ様は応接室にご案内しますので、そこで少々でお待ちください。他の方は朝礼を開始しますので、ここで待っていてください」
ミーナ様を応接室に案内して、ソファーに座って頂く。すぐに朝礼に戻る必要があったが、俺は気になることをミーナ様に聞いてみる。
「今日は侍女のリンダさんは一緒ではないんですね」
「……先ほどまで一緒でしたわ。クリス様に止められたので、私一人で来ましたの」
今回、募集に応募されたのはミーナ様のみでリンダさんは応募されていなかった。そのような方を開店前の店内に入れることはできない。しかし、男爵令嬢の侍女に対し、平民である俺が拒絶することは難しいだろう。クリス様のおかげで、無駄なトラブルを避けることができた。
(男爵令嬢が一人でお茶を淹れられる……わけないよな)
「それでは、私の方でお茶を淹れておきます。朝礼が終わり次第戻りますので、こちらでお待ちください」
「……わかりましたわ」
――気のせいだろうか。ミーナ様がおびえているように見える。
(侍女がいなくて寂しいのか……もしくは1人ここにいることが不安なのか……どのみち、朝礼終わるまでは待っててもらうしかないな。なるべく急ぐか)
俺は応接室を出て、従業員用の休憩室に戻り、皆に呼びかける。
「お待たせしました。それでは朝礼を始めます」
俺の声に皆が立ち上がってこちらを見た。
「今日から皆さんにはクランフォード商会の従業員として働いて頂きます。毎朝、9時にここに集合してください。朝礼を行い、開店作業に取り掛かって頂きます。なお、今日は初日ですので、皆さんの紹介を行います。順番に名前を呼ぶので、呼ばれたら返事をしてください。ユリ=クランフォード!」
「はい!」
皆の視線がユリに集まる。
「ご存じかもしれませんが、ユリは俺の妹です。商会ではデザインを担当しています。お店が忙しいときは運用を手伝ってもらうこともあると思うので、よろしくお願いします」
「ユリ=クランフォードです! よろしくお願いします!」
ユリが頭を下げると皆が拍手をしてくれた。
「次、バミューダ=バルス君」
「はい……です」
皆の視線が今度はバミューダ君に集まる。
「バミューダ君には主に荷物整理や商品の運搬など、力仕事を担当してもらいます」
「はい……です」
「それから、時間を見つけて俺が計算と読み書きを教えます。少しずつ勉強していきましょう」
「!?」
バミューダ君は迷っているようで、なかなか返事が返ってこなかった。
「ぼ、僕には……無理――」
「大丈夫だよ!」
諦めの言葉を口にしたバミューダ君を遮ってユリが優しく語り掛ける。
「私も最初は計算も読み書きもできなかったけど、お兄ちゃんに教えてもらってできるようになったんだ。だからバミューダ君もきっとできるようになるよ!」
「で、でも……僕はゴミだから――」
「バミューダ君はゴミじゃないよ! 自分でそんなこと言っちゃダメだよ!」
ユリが俺と同じことを言った。俺はなるべく優しい口調でバミューダ君に話しかける。
「バミューダ君。面接のときに俺が言ったこと、覚えてますか?
「あ、はい……です」
「もう一度言います。バミューダ君はもうクランフォード商会の従業員です。クランフォード商会にゴミはいません。バミューダ君はまだ、できることが少ないかもしれませんが、それはこれから増やしていけばいいんです」
「……」
「――勉強、一緒に頑張りましょうね」
「……はい……です」
バミューダ君に自信を持ってもらえるようになるのはまだまだ先だろう。
(少しずつ変わってくれればいいさ。彼はもうクランフォード商会の従業員なのだから)
俺が拍手をすると、皆も拍手してくれる。バミューダ君はなぜ拍手されるのかわからないのか、驚いた顔をしていた。
「次、クリス=プリスタ様」
「はい」
クリス様は面接のときと同じように、洗礼された仕草でお辞儀をする。
「クリス様は貴族のご令嬢ですが、皆さんと同じように働いて頂きます」
「皆さん、はじめまして。クリス=プリスタと申します。プリスタ子爵家の三女です。計算や読み書きは問題なくできますが、商人として働いた経験がありません。ご迷惑をおかけすることもあるかと思いますが、なにとぞ、よろしくお願いします」
皆が笑顔で拍手をしてくれる。子爵家の三女と聞いて何人かは驚いていたが、挨拶の様子からクリス様の人柄を察したのだろう。貴族という身分への畏怖を頂いている人はいなさそうだった。
「次、マナ=ミルマウス――」
「はいはいはーい!」
俺が名前を呼び終わるった瞬間に大きな声で返事をしてきた。
「……っ! 元気いいな……ゴホン! マナはユリの友人で、昔からの顔なじみです。こう見えて計算も読み書きも問題なくできます」
「こう見えては余計だよ!」
「マナ、ちゃんと挨拶しろ」
相変わらず俺の声の機微は敏感に察せるようだ。俺が語尾を強めた途端に真面目な顔になる。
「皆様、お初にお目にかかります。マナ=ミルマウスとも申ます。計算や読み書きなどは問題なくできます。若輩者故、ご迷惑をおかけしてしまうこともあるかもしれませんが、なにとぞよろしくお願いします」
そう言って深々と頭を下げた。あまりの豹変ぶりに皆ぽかんとしていたが、慌てて拍手をしてくれる。
「こいつが何かしたら、私までご連絡ください」
「にゃははは!」
実際にマナが何かをするとは思っていないが、念のため言っておいた。
「次、ニーニャ=アナベーラさん」
「はいな」
アナベーラという名前にクリス様が反応されたように見える。
「皆さん、お察しかもしれませんが、ニーニャさんはアナベーラ商会会頭の娘さんです。ですが、忖度するつもりはありません。皆さんと同じように働いて頂きます」
「ニーニャ=アナベーラいいます。皆はんよろしゅう頼んます。計算も読み書きも、商人としての基礎知識も親に仕込まれたさかい、頼りにしてや」
そう言ってお辞儀をした。皆が拍手をしてくれる中、ニーニャさんはいたずらっ子のような表情で続ける。
「ちなみに、わての目標はアレンはんの子を授かることや。アレンはん、そっちもよろしゅう頼んます」
いたずらどころか、とんでもない爆弾を落としてきた。
もう少しだけ新キャラの掛け合いにお付き合いください。これからもよろしくお願いします!
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
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