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31.【面接3 イレギュラー】

今日もよろしくお願いします! 新キャララッシュの第3弾!

 名簿で次の応募者の名前を確認すると、知っている名前が記載されていた。


「コンコン」

「どうぞ」

 

 ドアが開く。入ってきたのは、見覚えのある茶髪の女の子だ。


「マナ=ミルマウス、11歳です。将来は、ユリピと結婚してマナ=クランフォードになる予定です! よろしくね。お義兄ちゃん!」


 名簿を見た時から分かっていたが、彼女は近所に住んでいる女の子だ。ユリの最初の、そして一番の親友である。


「経歴詐称。言葉遣いも悪い。不合格で」

「ちょちょちょ!! 待ってよお義兄ちゃん! いや、お義兄さま! 私ユリピと一緒に働きたいの! ね? いいでしょ? お願い、お義兄さまぁ。私とユリピの初めてあげるからぁー!!」

「でかい声でなに言ってんだ! ユリに言いつけるぞ?」


 ユリにその手の話はタブーだ。こんな話をしていることがバレたら、真っ赤になって発狂するだろう。


「その時は一緒にユリピに殺されよう。死ぬ時は一緒だよ!」

「俺は死にたくないから逃げる」

「薄情者ー!」


 こんなやりとりをしているが、名簿のマナの隣にはすでに丸印をつけていた。ユリの友人であり、身元の保証もしっかりしている。実は頭がよく、計算や読み書きも問題なくできる。雇わない理由がないのだ。


「ったく……まぁいいや。働く時はちゃんとしろよ?」

「がってんでぃ!」

「ちゃんとしろ!!!!」

 

 意図して言葉を強めたことを察し、すぐにまじめな表情になる。


「承知しました、アレン様。今後とも、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い致します」

「……違和感が凄いな。ひとまず、面接は終了だ。明日の9時にまた来てくれ。お疲れさん」

「まったねー! にゃはははは」


 笑いながらマナは部屋を出て行く。俺は丸印をつけたことを少しだけ後悔していた。




 その後も面接を続けるも、クリス様やマナほどの人材がなかなかいない。読み書きはまだしも、計算ができる人が極端に少なかった。


(困ったな。ユリもマナもできたから、当たり前だと思ってたけど、計算ができる人って結構レアなんだな。最低でも5、6人雇う予定だったけど今のところ2人しかいない。バミューダ君は、計算はできないし困ったな)


 名簿の次の欄を見る。そこには『シャル 12歳』とだけ書いてあった。


(ファミリーネームは空欄っと。訳あり……だよな)


 面接で訳ありだと思われると雇ってもらえないことが多い。そのため、よほどの事情がない限り、ファミリーネームを空欄にすることはない。


「コンコン」

「どうぞー」

「失礼します」


 ドアが開く。入ってきたのは、侍女を連れた金髪金眼の美少女だった。。


「はじめまして。わたくしの名前はシャルと申します。今年で13歳になります。訳あってファミリーネームは明かせません。こちらは侍女兼護衛のターニャです。よろしくお願い致します」


 凛とした声で自己紹介を済ませる。にっこりとほほ笑んではいるが、お辞儀はしない。そのためか、クリス様の時に感じた暖かさは感じなかった。


(うん、間違いなく貴族令嬢だな。ファミリーネームを明かせないのは何か事情があるのか? とりあえず面接を進めるか)


「そちらにお座りください」


 対面のソファーに着席を促し、自分も座る。ターニャさんはシャルさんの後ろに控えるようだ。


「面接官のアレン=クランフォードです。こちらこそよろしくお願いします、シャルさん」


 ターニャさんがぴくッと反応する。おそらく、さん付けが気に入らないのだろう。空気がピリピリする。


(今の時点で、シャルさんの身分は明かされていない。面接官として、正しい対応をしているはずだ!……多分!)


 冷や汗をかきながら、面接を続ける。


「早速ですが、シャルさんはどのようなお仕事ができますか?」

「基本的なことは何でもできます。計算はできますし、5か国語は扱えます」


(ちょっと待て。今5か国語って言ったか。幼いころから優秀な家庭教師がついていなきゃそんなの不可能だよな。この子もしかしてかなり上流階級のお嬢様なんじゃ…………)


 内心焦りまくった俺は、そのまま面接を続けてしまう。


「遠方にお住いの場合は、寮で生活していただくことになります。よろしいですか?」

「はい、大丈夫です」


 シャルさんはにっこりとほほ笑んで答えてくれたが、後ろのターニャさんが極寒の視線を向けてきた。視線に強い圧力を感じ、身体の震えが止まらない。


(無礼が過ぎたか!? 殺される!!)


 なんとか平静を装おうとするが、汗が吹き出し、口が震えて声も出せない。歯を食いしばり、身体が震えないようにするので精一杯だった。


「ターニャ。控えなさい」

「――はっ! 失礼いたしました、クランフォード様」


 途端に圧力が消え、空気が弛緩する。主に命じられたか、ターニャさんの言葉からは、先ほどの極寒の空気は一切感じなかった。


「あ……いえ…………」


 俺は何とか口を動かして返事をする。


「わたくしの侍女が失礼いたしました、クランフォード様。どうやら、わたくしが住み込みで働くことは許されないようです。今回はご縁がなかったということで、これで失礼させて頂きます」


 そう言って、シャルさんはほほ笑みながら出て行く。俺は何とか立ち上がり、二人を見送った。


 ターニャさんが扉を閉めるまで、まともに呼吸ができていなかったのだろう。扉が閉まったときに大きなため息をついてソファーに倒れこむ。


(し、死ぬかと思った。それにしても何だったんだ? 尋常じゃない圧力だったぞ。シャルさんもすんなり出て行くし……もともと受かる気がなかったのか?)


 クリス様の時とは違う疲労感を感じながら、名簿のシャルさんの隣にバツ印をつけようとするも、手が震えてしまい、筆が持てない。あまりの緊張で、血が十分に通っていなかったのだろう。手の先が冷たくなっていた。


 深呼吸を繰り返し、身体が回復するまで名簿を眺める。


(クリス様とマナは即戦力だよな。バミューダ君は裏方として働いてもらうとして……最低でもあと3人は欲しいな)


 身体が回復してきたのを感じ、再度、バツ印をつけようとするが、なぜかシャルさんの名前の横にバツ印が書けない。書こうとすると、ターニャさんの極寒の視線を思い出して、書くのを躊躇してしまう。頭の中のターニャさんが『まさかバツ印なんて書かないよな』と、圧力をかけてくる。シャルさんは辞退したのだが、頭の中のターニャさんは、俺ごときがシャルさんに不合格の烙印を押すことを許してくれないようだ。


(――ま、まぁ空欄でも別にいいよな!)


 俺はごまかすことにした。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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