29.【面接1 バミューダ君登場】
新キャラ登場です。ここからどんどん登場していきます。
筋肉痛に悶えていたが、少しすると身体を起こせるようになる。壁伝いで何とかリビングに向かうとテーブルに突っ伏しているユリがいた。
「お、おはよう……」
「あ、お兄ちゃん…………おはよう」
ユリも筋肉痛がひどいのだろう。いつもは朝から元気なユリだが、今日は元気がない。
「あらあら、2人とも若いのに情けないわねぇ」
「いや…………まぁ……うん……2人とも大丈夫か?」
昨日、俺達以上に動いたはずの母さんはぴんぴんしている。
「な、なんとか……」「大丈夫! だと思う……」
「まぁ、そんな感じだよなぁ」
俺もユリもやる気はあるが、身体が大丈夫ではなかった。
「あらまぁ。それじゃ朝食は食べやすいものにしますか」
そう言って母さんが朝食の準備を始める。
「――さて、支店のことで話がある。話しても大丈夫か?」
そう言われたら支店長としてダメとは言えない。
「大丈夫だよ。今日の面接の事?」
「それもある。支店の左隣の店舗だが、空き店舗だっただろう?」
「うん」
「昨日役所に確認したら、元は旅館だったらしいんだ。そこをクランフォード商会の従業員寮にしようと思う」
「「従業員寮!?」」
大きな商会であれば従業員寮があるところも多い。寮があれば、住み込みで働いてくれる従業員を募集できるからだ。
「旅館の清掃は前の持ち主がやってくれている。明後日には入れるようになるそうだ。ちなみにその人は、そのまま寮の管理者として雇用する契約だ」
「凄い! でもなんで急に?」
「……まぁ、その……なんだ。実は昨日、従業員の応募状況を確認しに隣町に行ったんだがな」
父さんが珍しく歯切れが悪そうに話し出した。
「募集要項に『通いで働ける者』って書かなかっただろ? そのせいで遠くからの応募が数件あったんだよ」
「え!?」
確かに、募集要項には書かなかった。そもそも通いで働けない者が応募してくるとは思わなかったからだ。
「そんなの、今からでも断ればいいんじゃないの?」
「……どうやら貴族からの応募があるらしい」
「「貴族!?」」
それこそ、大きな商会であれば、従業員として、貴族の子供を雇っている所もある。けれどもそれは、王都に店舗を構えるような大商会だ。
「父さんのミスだな。アナベーラ商会の影響力と…………母さんの影響力を甘く見ていた」
「母さん?」
なぜここで母さんが出てくるのだろう。
「『アナベーラ商会会頭が気に入った商会が従業員を募集している。しかもその商会はイリーガル家の令嬢が嫁いだ商会だ』と聞いて、応募してきたらしい」
「そ、それは…………」
「募集要項に書いてない以上、貴族からの応募を断れない。応募を受ける以上、寮を用意しておかないとまずいことになる。仮に面接で断ったとしても、『受け入れる体制ができてなかったから断ったんだ』と言われてしまうからな」
貴族とはそういう生き物だ。
「それで急いで寮を準備したの?」
「ああ、そうだ。まぁ急で大変だったが、悪い話じゃないさ。従業員に貴族の子がいるというのはステータスになる。今後、貴族相手に商売することもあるかもしれない。隣が旅館だったのもラッキーだな」
確かにクランフォード商会としてはいい話だろう。
「俺、貴族の子を部下に持つの?」
俺としてはたまったもんじゃないが。
「………………ま、まぁあんまりひどいようなら面接で断ればいいさ。気楽にいけよ」
そう言って父さんは俺の肩を叩く。
「ぎゃーーーー!!」
「あ…………悪い、忘れてた」
叩かれた肩が筋肉痛を訴えていた。
その後、何とか朝食を取り、隣町行きの馬車に乗り込む。いつもは心地いい馬車の揺れもこの日の俺達には激痛だった。
死にそうになりながら支店に着くと、すでにマグダンスさん達が開店準備を始めていたので、声をかける。
「――おはようございます」
「あ、店長おはようございます……って大丈夫ですか!? ひどい顔をされてますが……」
マグダンスさんが驚いた顔をする。そんなにひどい顔をしているのだろうか。この後面接なのにそれはまずい。
「昨日、ちょっと……かなり運動したら筋肉痛で……休み明けにごめんね。悪いけど開店準備は任せるよ」
「もちろんです。この後、面接ですよね? 頑張ってください」
その場をマグダンスさんに任せて応接室に向かう。面接が始まる前に少しでも回復しておかないと。
応接室に着くと、昨日父さんからもらった応募者の名簿を用意し、テーブルに着く。
「父さん。悪いけど面接の準備をお願い。来てくれた人は隣の部屋で待っててもらって、時間になったら名簿の順番に案内して」
「おう」
予想以上に応募者がいたため、順番の後ろの方はかなり待ってもらうことになるが仕方がない。ちなみに名簿の順番は応募順だ。貴族の子達も待ってもらうことになるが、それに文句を言うようなら一緒に働くのは難しいだろう。
「ユリは隣の部屋で、面接を受けに来た人のふりをして待ってて。もし、文句を言う人や騒ぐ人がいたら教えて」
「わかった!」
ユリも動くのは辛いだろう。なるべく動かない仕事を割り振る。これで面接の準備は完了だ。俺は、最後の問題である身体の回復に専念した。
時計を見ると間もなく面接の時間だ。応接室の鏡を見て、顔色を確認する。万全とは言い難いがひどい顔色ではないはずだ。クランフォード商会の支店長として心を切り替える。
(よし!)
父さんに言って最初の方を連れてきたもらう。しばらくするとドアをノックする音が聞こえる。面接スタートだ。
「コンコン」
「どうぞ」
「失礼します……です」
ドアが開く。入ってきたのは、少し汚れた格好をした男の子だった。
「バミューダ=バルス、10歳……です。よろしく……です」
「よろしくお願いします。そちらにお座りください」
俺がそう言って目の前のソファーを指さした。すると、何を思ったのかバミューダ君はソファーとテーブルの間の床に正座した。
「あ、あの…………ソファーに座って頂けますか?」
「いいの?……です。」
「もちろんです」
俺が言うと恐る恐るといった感じでソファーに座った…………ように見えたが、よくよく見ると、ソファーに触れないように空気椅子をしていた。
「座っていただいて大丈夫ですよ?」
「殴らない?……です」
一瞬ぽかんとしてしまった。バミューダ君の言っていることが理解できなかったのだ。
「もちろん殴りません。その姿勢は辛いでしょう? 楽にしてください」
「は、はい……です」
バミューダ君は意を決したようにソファーに座った。ぎゅっと目をつぶって身体はこわばっている。まだ殴られると思っているのだろうか。
「大丈夫ですか? 楽にしていいんですよ?」
「本当に殴らない?……です」
「ええ。絶対に殴りません」
俺がそういうと、バミューダ君は目を開けた。その目には不安とわずかな期待が宿っていた。
「それでは面接を始めますね。バミューダ君はどのような仕事ができますか?」
「力仕事が得意……です。丈夫だから殴られても平気……です。丈夫だから魔道具の実験に耐えられる……です」
うすうす感じていたが、だいぶひどい扱いを受けていたようだ。
「……他に得意なことはありますか?」
「ない……です。僕のとりえは丈夫なこと……です。それ以外はゴミ……です」
「そんなことない!」
俺は我慢できなくなった。店長としての仮面を脱ぎ捨て、本心で話す。
「バミューダ君はゴミなんかじゃない! 自分でそんなことを言っちゃいけない!」
バミューダ君はぽかんとしている。今まで他の誰かにそう教え込まれたのだろう。『お前はゴミだ』と。だから俺の言っていることが理解できないようだ。
「で、でも。僕はなにもできない……です」
「……明日の朝9時にお店に来てください。明日からバミューダ君はクランフォード商会の従業員です」
俺は心を切り替えて、店長として対応する。
「あ、ありがとう!……です!」
「その代わり、もう自分のことをゴミだと言うのはやめなさい。クランフォード商会にゴミはいません。いいですね?」
おそらく、今、どれだけ言葉を尽くしてもバミューダ君には響かないだろう。ならば、多少強引でも、自分がゴミじゃないと自覚してもらう。それから少しずつ自信をつけていけばいい。
「え…………えっとあの……はい……です」
「結構です。それでは明日からよろしくお願いします」
俺はにっこりとほほ笑んだ。
最初の新キャラはバミューダ君。子犬をイメージしたキャラです。気に入って頂けると嬉しいです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
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