27.【確保 噓発見用の魔道具】
本日2話目です。
少しすると、詰め所が見えてくる。
「――すみません! 店が襲われました! 犯人は6名! すでに捕まえてますので、連行をお願いします!」
詰め所に入るなり、父さんが大きな声で言った。
治安部隊の人達は、店が襲われたと聞いて素早く出動準備を済ませてくれる。一瞬だけ緊迫した空気が漂っていたが、声を出したのが父さんだと分かると、なぜか空気が弛緩した。
治安部隊の人達を連れて急いで家に戻る。
「ルーク! 久しぶりだな。強盗でも来たのか?」
途中で治安部隊の人が話しかけてきた。
「トマスさん、毎度お世話になります。今回はリバーシに目を付けた他の商会ですね」
「あぁ、お前のせがれが開発したっていうゲームか。なるほどな。犯人共は生きてるんだろうな?」
「ええ。私達が店を出た時には生きてましたよ」
「かっかっか! 相変わらずだな。そっちがお前のせがれ達か?」
トマスさんが俺達を見た。
「初めまして。アレンです。」
「初めまして! ユリです!」
「おう! 元気がいいな! 俺は治安部隊隊長のトマスだ。よろしくな!」
隊長だった! なんで治安部隊で一番偉い人が父さんと知り合いなんだろう?
(そういえば、さっき今回はって言ってた)
「トマスさんにはよくお世話になってるの?」
気になって父さんに聞いてみた。
「そうだな。昔めちゃくちゃお世話になったぞ。主に母さんが」
(あ、やっぱり?)
「護衛も雇ってない新規の店だからな。いいカモだと思われたんだろ。ある日、強盗がやってきたんだ」
父さんが遠い目をする
「母さん、当時は今と違って手加減が苦手でな…………まぁ……その……どうしても過剰防衛になったんだ」
「かっか! お前が初めて飛び込んできたときは驚いたぜ。なんせ飛び込むなり『すぐに来てくれ、強盗が妻に殺される!』だもんな。意味が分からず駆けつけたら両腕を切られた強盗がいてな。マジでビビったわ。今でも何人かトラウマにしてるぞ」
いくら治安部隊の方々でも両腕を切られた人間を見る機会はそうそうないだろう。
「それは! その……お騒がせしました……」
「かっかっか! まぁ奥さんのおかげでこの辺の治安はだいぶ良くなったからな。むしろ感謝してるぜ」
トマスさんが笑って言う。そうこうしているうちに家が見えてきた。トマスさんを先頭にお店の入り口から中に入る。
「――イリスさん。無事か!?」
トマスさんにつづいて、俺達も店内に入る。店内には無傷の母さんと縛られ、床に転がされたヤムダ達がいた。
「あら、トマスさん。毎度お世話になります。安心してください。今回は誰も殺していませんよ」
(なんか違う!)
「俺は犯人の心配をしたわけじゃないんだがなぁ。まぁいい。お前ら! 連行するぞ!」
トマスさんが治安部隊の方々に指示を出す。
「――待て! わしはマダック商会の会頭、ヤムダ=マダックだぞ! わしを捕まえる気か!」
「会頭だろうが何だろうが、強盗に入りゃ捕まるんだよ。覚えとけ、おっさん」
往生際悪く、ヤムダが叫んだが、トマスさんは全く意に介していないようだ。
「強盗に入る? なんのことだ? わしは買い物に来ただけだぞ。むしろそこの女に暴力を受けたんだ! そいつを捕まえろ!」
ヤムダが母さんを指さして言った。
「あーめんどくせぇなぁ。おい! あれ持ってこい!」
トマスさんが指示すると治安部隊の方が何かを持ってきた。俺の視線に気付いたのか、トマスさんが説明してくれる。
「これはな、嘘発見用の魔道具だ。嘘をつくとここが赤く光る」
ミッシェルさんが尋問で使ったって言っていた物だ。これで、ヤムダは逃げられないだろう。
「さて、もう一度聞くぞ。お前はこの店に強盗に入ったな?」
「ち、違う! わしは強盗には入っていない!」
魔道具は反応しなかった。ヤムダがニヤリとする。
「嘘だ!」
俺は思わず叫ぶ。すると、魔道具が赤く光った。
「そんな! 俺は嘘なんかついてない!」「お兄ちゃんは嘘ついてないよ!」
俺とユリが同時に叫ぶが、魔道具は光り続けている。
「あー、この魔道具はちょっと癖が強くてな。2人ともちょっと黙っててくれ」
そういうとトマスさんは魔道具の光が消えるのを待って再度、ヤムダに質問する。
「お前はこの店の従業員を傷つけたか?」
「そんなことはしていない」
魔道具は光らない。
「お前は、この店の従業員を傷つけるよう指示を出したか?」
「していない」
「お前は強盗の目的で、この店に来たのか?」
「違う」
魔道具は光らない。
(なんで!? 壊れてるんじゃないか?)
トマスさんに黙っているように言われたが、このままでは俺が嘘をついたことになってしまう。声を出そうとしたが、後ろから父さんに止められた。
「大丈夫だから。もう少し待ってろ」
耳元で父さんがささやく。そうしている間に、トマスさんの尋問は続いていた。
「お前は、この家の者を殺すつもりだったか?」
「違うと言っているだろう。くどいぞ」
「そうは言ってもお前達が武器を持ってこの家に押し入ったのは事実だしな」
「護身用の武器を持っているのは当然だろう!」
「この武器は護身用なのか?」
「そうだ!」
ヤムダが答えた時、魔道具が赤く光った。ヤムダは『しまった』という顔を浮かべ、トマスさんはニヤリと笑う。
「――ほう、この武器は護身用ではないようだな。では、何用だ?」
「い、いや…………それは……」
「護身用でない武器を持って、店に押し入ったんだ。もう観念しな」
そう言ってトマスさんはヤムダを連れて行く。ヤムダは、トマスさんに引きずられながらも何かを叫んでいた。
「どういうこと?」
一連の流れが理解できず、俺は父さんに聞いた。
「あの魔道具は明確に嘘でないと反応しないからな。特許権の譲渡を迫るのは『強盗』じゃない。譲渡に同意した場合は俺達を『傷つけないよう』に指示している。ヤムダ自身は俺達に『傷をつける気』はない。だから嘘にはならないんだ。噓発見用の魔道具を知っている者はそうやってごまかす。だから尋問するのは色々大変なんだよ」
嘘発見用の魔道具は万能化と思いや、意外と融通の利かない魔道具だった。
「でも、『手下に母さんを刺すよう指示しただろ』って聞けばよかったんじゃないの?」
「直接そういう指示をしてなければ、『違う』と言っても嘘にはならないんだ。『母さんとは指示してない』とか、『刺すじゃなくて殺すだ』とかな」
(めんどくさい!)
トマスさんがめんどくさがった理由が理解できた。
嘘の基準って難しいですよね。