25.【帰宅 お土産は夜のお供】
本日2話目です。
ベーカリー・バーバルに入ると、店内はだいぶ込み合っていた。その中をアリスちゃんが素早く動き回って接客していた。
「いらっしゃいませ! あ、アレンさん! 来てくれたんですね!」
アリスちゃんが俺に気付いて声をかけてくれた。
「アリスちゃん、お疲れ様! すごい人気だね」
「ありがとうございます。でも、クランフォード商会には負けますよ。大繁盛じゃないですか!」
「昨日、アリスちゃんやトムさん達が開店準備を手伝ってくれたおかげさ。改めてありがとね」
「いえいえ! 困ったときはお互い様ですから!」
話しながらもアリスちゃんはパンを運んでいた。あまり邪魔するのも悪いだろう。
俺はトレイにカレーパンとフルーツパン、それとユリが食べていたホットドッグを買ってお店を出る。
「それじゃ、またね」
「はい! ありがとうございました! ……いらっしゃいませ! あ、マイクさん! お久しぶりです! 半年ぶりですね!」
そう言って俺と入れ違いに入ったお客さんの対応を始めるアリスちゃん。お客さんはにっこりと笑っている。
(半年ぶりって……半年前のお客さんの名前覚えているのか!? 凄いな)
アリスちゃんの接客スキルに驚きながら、俺は支店に戻って行った。
その日の午後は、大きな問題はなく営業することができた。アナベーラ商会から来てくれた従業員達が優秀で多少の問題は自分たちで解決してくれる。おかげで俺の出番はなかった。
従業員達と閉店作業を進めていると、父さんとユリが帰ってきた。
「「ただいまー!」」
「お帰り! どうだった? アナベーラ商会は?」
「凄かった!」
ユリが興奮して答えた。よほどすごかったらしい。
「流石としかいいようがないな。品ぞろえや店の雰囲気も最高だが、従業員の質がいい。お客さんを満足させようといろいろと工夫しているのが伝わってきた。あの商会でうちの商品を取り扱ってもらえることが誇らしいぞ」
父さんも興奮しているのが伝わってくる。
「そんなに凄かったのか。俺も行きたかったな」
「ああ、そういえばアナベーラ会頭から伝言だ。2日後、フィリス工房に行った帰りにアナベーラ商会に寄って欲しいってさ」
「あ、本当? 良かった」
「店の方はどうだった? 問題なかったか?」
「問題なかったよ! むしろ従業員の皆が優秀で暇だったくらいだもん。明日はみんなで帰ろう!」
閉店作業を終えた従業員を集めて帰りのミーティングを行う。俺の両隣に父さんとユリがいる。
「お疲れ様でした!」
「「「「お疲れ様でした!」」」」
「皆様のおかげで本日の業務を問題なく終えることができました。明日もよろしくお願いします。なお、明日、私達は本店にいます。明日の業務は皆様だけで行っていただくことになりますので、よろしくお願いします」
そう言って俺は店舗の鍵を男性従業員に預けた。お昼に裏口ですれ違った男性従業員だ。
「えっと。マグダンスさんですよね」
「はい! 覚えて頂けて光栄です!」
「マグダンスさんに商会の鍵を預けます。朝の開店作業をお願いしますね。リバーシはフィリス工房から直接納品してもらえることになってます。支払いは済んでますので、安心してください」
「承知しました!」
「それから明後日は朝9時に新しい従業員の面接があります。その前に開店準備をお願いいます」
「存じております。お任せ下さい」
「よろしくお願いします。それでは本日の業務は終了です。皆さん、お疲れ様でした!」
「「「お疲れ様でした!」」」
そう言って解散した。
マグダンスさんが店舗に鍵をかけたのを見届けてから、父さんとユリと一緒に家に帰る。
「そういえば、母さんへのお土産って何買ったの?」
「んー。ないしょー!」
「ユリが選んでくれたから俺も知らないんだ。帰ってからのお楽しみだな」
しばらくすると家の明かりが見えてきた。数日帰っていないだけなのにずいぶん久しぶりな気がする。
「「「ただいまー!」」」
俺達は家のドアを開けた。
「あら、おかえりなさい。早かったわね」
「母さん! アナベーラ商会と専属契約結べたよ!」「お母さん! ミッシェル様が私に看板描いてくれって!」
俺とユリは我先にと母さんに報告した。思いついたころから報告したので、話の順番がめちゃくちゃだったが、母さんは黙って聞いていてくれる。
「それでね! 倉庫に行ったらマリーナさんが裸で寝てたの!」
ユリがそう報告した時、空気が変わった。
「へー……そうなの。その時、お父さん…………とアレンは一緒だったの?」
「お父さんは倉庫の外で待ってたよ。お兄ちゃんは一緒だったから私が目隠しした!」
エッヘンと胸を張ってユリが答える。父さんが外にいたという事実に場の空気が柔らかくなる。
「そういえば、お父さん、ミッシェル様に『私も愛する妻と子供達がいる』って言ってたよ!」
ユリが嬉しそうに報告した。場の空気がさらに柔らかくなる。
「あ、ミッシェル様がお父さんに『フィリス工房でお酒飲んでるのか!』って怒ってたけど私が助けたんだよ! もうお母さんが『今夜は寝かさない』って怒ったから大丈夫だって言ったの!」
またしても空気が変わった。
「ユ、ユリちゃん? それはね……その……そういうことは外では言っちゃダメなのよ?」
母さんが顔を真っ赤にしている。
「え? でもミッシェル様も『もうお仕置きを受けてるならいい』って納得してくれたよ?」
「…………」
母さんの顔がさらに赤くなる。ミッシェルさんにちゃんと伝わってしまったことを悟ったのだろう。何も言えなくなっていた。
父さんを見ると父さんも顔を赤くして固まっている。ここは俺がフォローするべきだろう。
「あー……ユリ。ユリだってお仕置きされたことを言いふらされたら嫌だろ? 父さんだって同じだよ。だから父さんがお仕置きされたことを言いふらすのはやめような」
おれは12歳の子供らしく、よくわかっていない風を装って言った。
「あ…………そっか。お父さん、ごめんなさい」
「だ、大丈夫だぞ。分かってくれたならもう大丈夫だ」
そう言って父さんは俺の背中をたたいてくれた。言葉にはしなかったが、『よくやった』と言ってくれた気がする。
「そういえば、アナベーラ商会で母さんへのお土産買ったんだろ?」
「そうだった! ミッシェルさんが勧めてくれたお土産があるんだよ!」
そう言ってユリは荷物から小袋を2つ取り出した。
「はい! これお土産! こっちはお父さんに!」
ユリは小袋の1つを母さんに、もう1つを父さんに渡す。
「まぁ! 何かしら」
「俺にもか! ありがとう!」
母さんが小袋を開けると中にはカラフルな飴が入っていた。
「わぁ、飴ね! おいしそう。ありがとね」
そう言って飴をなめようとする。
「あ、待って! ミッシェル様が、『この飴は夜寝る前になめるように』って言ってた」
「? 夜に??」
「うん! そうすれば、お父さんと仲良しになれるんだって!」
母さんが何かを察したようだ。小袋の中を確認し、一枚の紙を取り出す。その紙には『R18 大人の飴 これをなめれば、あなたも別世界を味わえるでしょう』と書いてあった。
「「………………」」
再び母さんが固まる。俺も声を出すことができない。場の空気を換えてもらおうと父さんを見ると父さんも固まっていた。その手には小瓶が握られている。
「あ、お父さんには栄養ドリンクだって。『一晩中でも元気でいられる』って言ってたよ!」
俺が父さんを見ていたため、ユリも父さんを見たのだろう。手に握られている小瓶をみて、ユリが説明した。
「『いろいろ大変そうだからお父さんに渡してあげて』ってミッシェル様が言っていた!」
父さんも母さんも固まってしまった。俺は顔面の筋肉を総動員して、よくわかっていない風を装い続ける。
しばらくすると、何とかしゃべれるまで回復した母さんが口を開く。
「……あなた? 今度ミッシェル様とお話ししたいから席を設けてくださる?」
「……わかった」
「それと…………今夜は覚悟しなさい」
「………………はい」
その日俺は早く寝ることに全力を注いだが、なかなか寝付けなかった。
ユリちゃんはミッシェルさんの言葉をそのまま信じてます。純粋ないい子なんです。
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