209【結婚式6 初夜】
「終わったね」
「終わりましたね」
俺はクリスと一緒に家に帰り、2人でくつろいでいた。周りには、まだ荷ほどき出来ていない荷物が散乱している。
「あんなに頑張って準備したのに……当日はあっという間に終わったね」
「そうですね。楽しい時間はあっという間に過ぎるって言いますけど……それにしても早かったです」
披露宴の後、式に来てくれた人達を見送ってから、俺とクリスは2人で王都に購入した新居に入居した。王都に店を出す時に約束した通り、2人で探した新居だ。
「会場凄かったですね。ユリちゃんのプレートのおかげで本当に空にいるような気分でした」
「めっちゃ気合入れて作ってたからね。皆も感動してたよ」
「ですねぇ」
2人で選んで購入したソファーに座り、たわいのない会話を続けていた。
「「……」」
しかし、だんだんと会話のネタが尽きて、2人共無言になってしまう。心地いいものの、少しだけ気まずい沈黙が2人を包んだ。
「「あ、あの……」」
俺とクリスが同時にお互いに話しかける。
「あ、えっと……クリスから」
「いえ! アレンからどうぞ」
「いや、その……そろそろ、さっぱりしようかって……」
「え? あ……そ、そうですね! そうしましょう!」
明らかに言葉足らずだが、クリスは俺の言いたいことを察してくれた。
俺もクリスもかなりテンパっている。だが、それも無理はないだろう。なにせ、今日は2人で迎える初めての夜になるのだから。
「えっと……い、家にお風呂があるのっていいよね」
「え、ええ。ふふ、ずっと言ってましたもんね。『大きなお風呂のある家がいい』って」
「一日の終わりにゆっくりお風呂に入れるかどうかで、生活のクオリティは全然違うんだ。俺がお金稼ぎ始めたきっかけの1つは、毎日お風呂に入りたかったからだしね」
「そうだったんですね……では、良かったらお先に入って下さい。わ、わたくしは色々用意がありますので……」
「あ……う、うん。分かった。それじゃ、先に入らせてもらうね」
クリスに先に入ってもらおうと思っていたのだが、用意があるというのであれは俺が先に入った方が良いだろう。俺は荷物の中から着替えとバスタオルをもって風呂場に向かった。
「ふー………………あー、気持ちいい」
木でできた、手足を存分に伸ばせる湯船につかりながら、俺はこの後の事について考える。
(……こ、この後が……い、いわゆる初夜ってやつだよな。つまり、今日、俺はクリスと………………うおぉぉ! めちゃくちゃ緊張する!!!)
バシャ!
結婚式の時と同じかそれ以上の緊張を感じて、俺は思いっきり湯船に顔を沈めた。
(落ち着け……大丈夫。こういう時こそ、前世の知識を活かして…………な、なんも思い浮かばない! え、俺、前世童貞で死んだの!? 前世と今世合わせても最初の相手がクリスって事か? いや、それはそれでロマンチックでいいけど……AVの知識は当てにならないらしいし……くそっ! 知識チートが役に立たない!!)
水中で考えを巡らせていたが、有益な事は何も思い浮かばない。どういうふうに誘えばいいのか、何を準備しておけばいいのか、何に気を付ければいいのか……。疑問はどんどん浮かんでくるのに、答えは全く分からない。
何も思い浮かばなかったが、息が苦しくなってきたので、とりあえず顔を上げる。
「ぷはっ!」
「――キャ!」
「………………え?」
俺が湯船から顔を出すと、女性の悲鳴が聞こえた。驚いた俺がそちらを見ると、そこには、小さいタオルで身体を隠した裸のクリスが立っている。おそらく、俺がいきなり顔を出したので、驚いてしまったのだろう。
(いや、そうじゃなくて!)
「く、クリス?」
「す、すすすすみません! いえ、あの……せっかくなので、ご一緒しようかなって……色々お母様達から聞いたので……い、一応外からお声がけしたのですが、返事が無かったので……その…………勝手に入ってしまいました! わ、わたくし、外で待ってますね!」
「待って!」
風呂場から出て行こうとしたクリスの腕を掴んで呼び止める。
「あ、アレン?」
「あ、えっと……その……このお風呂、広くて気持ちいいんだけど……1人じゃ広すぎてさみしいかなぁ……なんて。だからできれば、その……い、一緒に入ろ?」
「あ………………………………はい」
クリスが顔を真っ赤にして頷いた。
「ゆ、湯加減どう?」
「だ、大丈夫です! 気持ちいいです!」
「そ、そう? な、なら良かった」
「は、はい!」
「「………………………………」」
俺とクリスは一緒に湯船に入ったものの、お互い顔を見れずにいた。会話がぎこちなくなってしまうのも、仕方ないだろう。
(うおぉぉ! 何を話せばいいんだ! 前世の知識……は頼れないし。こ、困った……)
「アレン……その……今更ですが、本当にありがとうございました」
「え?」
突然クリスにお礼を言われた俺は思わずクリスを見た。俺に見られたクリスは恥ずかしそうにしながらも、俺を見ながら微笑む。
「貴族であるわたくしをクランフォード商会の従業員として雇ってくださった事、サーシス伯爵に襲撃された時、わたくしを守ってくださった事、ケイミ―ちゃん達の笑顔を取り戻してくださった事、他にも色々。アレンには感謝しかありません」
「そんな……俺の方こそ色々助けてもらって――」
「ふふふ。恩返しがしたくて、色々頑張りましたからね。少しでもアレンの役に立てたのであれば、良かったです」
「少しなんかじゃないよ。ほんと、クリスには助けられてるんだから。俺の方こそ、ありがとね」
クリスがいなかったら、(他の従業員にも言える事ではあるが、)クランフォード商会支店を立ち上げる事は出来なかっただろう。それに、サーシスが襲撃してきた時、俺が頑張れたのは、クリスが素敵な女性だったからだ。『絶対サーシスなんかに渡したくない』。そう思えたから限界を超えて立ち向かえたのだと思う。ケイミ―ちゃん達を癒す事が出来たのも、クリスがいてこそだ。『属性』魔法もそうだが、『開発』中に心が折れそうになって俺を支えてくれたのはクリスだ。あの時クリスがいなければ、たとえ他の『属性』魔法使いがいたとしても、俺は『整形』を開発できなかっただろう。
そして何より、両親を殺された時、クリスが支えてくれなければ、俺は壊れていた。復讐を誓った時、『復讐さえできれば、俺はどうなってもいい』と思わなかったのも、クリスがいたからだ。そうでなければ、俺は復讐と共に燃え尽きていただろう。
「そう言っていただけると嬉しいです。で、ですが、わたくしとしては……その……も、もっとちゃんと恩返しがしたいのです。そ、それで……あの……」
そう言って、クリスは湯船の水に手をかざした。すると、水がうっすらと青い光を放ち、粘り気を持ち出した。
(『属性』魔法? これって……ローション!?)
湯船の水が、クリスの『属性』魔法によりローションのようなものへと変わっていく。
「お、お母様とお姉様達に……その……アレンへの恩返しがしたいとお話ししたら……こ、こうするのがいいって」
「――!!!」
湯船の水がローションに変わり切ったところで、クリスが俺に抱き着いてきた。
「く、クリス!? ――んぐ!」
「んっ……は、恥ずかしいので何も言わないでください……」
俺が声を出そうとすると、クリスがキスで口を塞いでくる。何も言わないで欲しいと言ったクリスの顔は、真っ赤になっていた。
(そ、そんなこと言われたって……これ、クリスの肌が……柔らかくて、すべすべで、ぬるぬるで……き、気持ちよすぎる……)
感覚の全てがクリスの身体で埋め尽くされる。思考も感覚に支配されてしまい、何も考える事が出来ない。
「き、気持ちいいですか?」
「う、うん。めちゃくちゃ気持ちいい」
「よ、良かったです。そ、それじゃ、次に行きますね」
「え、次? く、クリス!?」
「だ、大丈夫です! 貴族令嬢として、ちゃんと学んでますから! ぜ、全部わたくしに任せてください」
「え、いや、あの、えっと…………う、うん。わ、分かった」
貴族令嬢は子孫を残すため、こういう事についてもちゃんと学ぶという話を聞いた事がある。男としては情けない限りだが、クリスの身体が気持ちよすぎて、俺は身を任せる事しかできない。というより、最初こそ、クリスも恥ずかしそうにしていたのだが、途中から何かのスイッチが入ったのか、妖艶な笑みを浮かべて、俺を手玉に取りだした。
俺が悶える様子を嬉しそうに見つめるクリス。俺だけしか知らないクリスの一面を知れたのは嬉しいが、とてもではないが太刀打ちできる気がしない。結局、俺は最後までクリスに身を任せ、求められるまま、何度もクリスと結ばれたのだった。
ただ書きたくて書きたくなったアレンとクリスが結婚し、結ばれた日のお話でした。第7章はプロットも作らず、書きたい事を書いたお話しなので、色々めちゃくちゃですね……でも、悔いはありません。
完結までもう少し。よろしければ最後までお付き合いください。
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