202【王子達7 BSSにはならない】
引き続き、モーリス王子視点の過去の話となります。
もう少しだけお付き合いください。
残酷な描写はありません。
【side モーリス王太子】
貴族院に潜り込ませている部下からの報告を聞いた俺は愕然とする。長年の計画が無駄になってしまったのだ。
(そんな……そんなのありかよ! 早すぎるだろ!)
クリスの事を調べている途中で、クリスが働いている商会の商品がリバースだと知った俺は、開発者であるアレン=クランフォードが、俺と同じ転生者であると確信し、会って話がしたいと思っていた。クリスは俺のヒロインだから、手を出さないように忠告するために。ようやく時間も取れて、『話がしたいから王宮に来て欲しい』とシャルに伝言をお願いしたのだが、アレンと面会する直前に、『クリスを平民と婚約させた』という報告が届いてしまったのだ。
(あーなるほど……これで俺がごねると|BSS《僕が 先に 好きだったのに》になるわけか……はは、クリスにとってのヒーローは俺じゃなくアレンだったというわけか。クソ……)
前世でBSSの小説を読んだときは、『馬鹿じゃねぇの? とっとと告白しないお前が悪いんじゃないか!』とか思っていたが、あのかませ犬達の気持ちが今になって分かった。
告白して振られたなら、まだ諦めもつくのかもしれない。だが、告白のチャンスすらなく失恋した場合、『もし俺が先に告白していたら!』という仮定を想像してしまって、なかなか諦めきれないのだ。しかし……。
(ああ、もういいや! もういい、あー、もういい! 俺はあのかませ犬達のようになるのはごめんだからな。クリスは俺のヒロインじゃなかったんだ。大丈夫。俺のヒロイン達もちゃんと用意されているはずさ!)
俺は気持ちを切り替えて、アレンとの面会に臨む。
アレンとの面会は、おおむね順調に進んだ。アレンの隣にクリスがいても、動揺せずにちゃんと話せたと思う。アレンが転生者である事も確認できたし、俺の目的を伝える事も出来た。アレンも協力してくれることになったし、面会は成功したと言えるだろう。アレンが良い奴で本当に良かった。
それからは、アレンやミッシェルと協力して、俺が王太子になるための準備を進めていく。だが、俺の目標の1つである『ざまぁ』については、問題が発生していた。側室は、兄上のどちらかを王太子にしようと色々やらかしているし、カミール兄上は、貴族令嬢に手を出しているため、簡単に『ざまぁ』出来そうなのだが、サーカイル兄上に大きな問題が見つからず、このままでは断罪する事が出来ないのだ。
しかも、兄上達に関しては、あまり王太子に執着していないのか、俺に突っかかってこないため、『ざまぁ』する理由が見つからない。一応、側室派閥の貴族連中が俺の政策を邪魔してくるため、それに対する『ざまぁ』という形にする事も出来るのだが、それで王子達を『ざまぁ』するのも、何かが違う気がする。
そんな問題を解決してくれたのは、アレンだった。というのも、どうやらサーカイル兄上が、カミール兄上と近衛兵を使ってアレンの特許権を奪おうとしているという情報を掴んだのだ。アレンの両親を拷問して特許権を奪い、さらには妹を人質にしてアレンを奴隷にするつもりらしい。
それを知った時、俺はひらめいたのだ。サーカイル兄上が色々やらかした後に、アレンと妹を助け出せば、兄上達に『ざまぁ』する理由が出来るし、アレンの妹は俺に恋するかもしれない、と。
アレンの妹は貴族ではなかったので、正妻にするのは難しいが、側室の末席に加える分には問題ないだろう。幸い、正妻候補はすでに見つかっている。とある伯爵家の令嬢で、かなり優秀なのだが、魔法の道を極めるために家を出ていたので婚約者がいなかったのだ。彼女を正妻にして公務を全て請け負ってもらえば、他のハーレム要員は平民でも構わない。
やはり、アレンは俺にとって、本当に都合が良い奴だ。俺は兄上達がアレンの家を襲うのを黙って見守る。結果、兄上達はアレンの両親を殺し、特許権を奪う事には成功したものの、妹を人質にしてアレンを奴隷にする事には失敗したらしい。平民であるアレンと妹に負けるとは情けない兄上達だ。だがまぁ、アレンの妹をハーレム要員に加える事には失敗したものの、これで『ざまぁ』する理由は出来た。それでよしとするとしよう。
その後、アレンによってサーカイル兄上の罪も明らかになり、『ざまぁ』を実行する準備が整う。『ざまぁ』の内容はアレンから聞いていたが、とんでもなく過酷なものを用意していた。兄上達がどうなるか、とても楽しみだ。
『ハーレム』についても、公務を丸投げするための婚約者の準備も出来たし、ハーレム要員の選定もすんでいる。後は俺の王太子就任を祝うパーティーで、俺と婚約者の不仲を見せつけて、向こうから寄ってくるように仕向けるだけだ。
『ざまぁ』も『ハーレム』も準備は完了した。そして、俺が王太子に就任したその日。計画は実行された。
まず、王太子の儀式において、俺は、側室とその取り巻き達に軽めの『ざまぁ』を実行する。側室の生家と取り巻き達を会場に呼ぶ順番を最後にしただけなのだが、彼らの悔しそうな顔を見た瞬間、俺は絶頂するほどの興奮を覚えた。
続いて、兄上達を断罪し、『ざまぁ』を実行する。色々わめいていたカミール兄上が見せた怒りに満ちた顔、そして父上にみじめに縋るサーカイル兄上の絶望した顔を見た俺は、この上ない興奮を味わっていた。
さらに、パーティー会場に移動した後は、予定通り、婚約者との不仲を皆に見せつける。なぜか婚約者が泣き出してしまったので、優しくフォローし、自分の人柄をアピールする事も忘れない。
その結果、多くの貴族達が俺に娘を紹介してきた。狙っていた令嬢の他にも、なかなか可愛い令嬢がたくさんいて、俺は片っ端からダンスに誘っていく。俺がダンスに誘うだけで、令嬢は顔を赤くし、幸せそうに微笑むのだ。最高の気分だった。
多くの令嬢とダンスを楽しんでいると、アレンが声をかけてくる。どうやらカミール兄上が改心したらしい。思ったより早く、もっと令嬢とのダンスを楽しみたかったが、カミール兄上がどのように変わったのかも楽しみなので、俺は令嬢とのダンスを中断し、アレンにカミール兄上を召喚するように言った。
それが、俺の人生を狂わせるとも知らずに。