200【王子達5 スカフィズム 】
本日2話目です
引き続き、サーカイル王子視点のお話です。
残酷な描写、気持ちの悪い描写を含みます。
苦手な方はご注意下さい。
【side サーカイル王子】
(く、くそ……くそ、あいつら……絶対許さない!)
下半身は自分の物で何とも言えない感触が、そしてその他の場所は先ほどの白い水がしみ込んでべたべたして気持ち悪かったが、痛みや冷たさからは解放された。僕は少しだけ冷静さを取り戻す。
(それにしても……ここは森の中、か? こんなところに放置してなにを……。――いっ!)
突然、腕に刺すような痛みが走った。何かに噛みつかれたようだ。
「な、なんだ!? ……ひっ!」
腕を持ち上げてよく見てみると、腕に大きな虫が止まっていた。王宮でもたまに虫を見かける事はあったが、ここまで大きな虫は見たことが無い。
「ふ、ふざけるな! 虫風情が! 僕に噛みつくな! あっちに行け!」
腕を振り回してその虫を追い払う。何とか虫を追い払う事に成功したものの、今度は反対側の腕に噛みつかれた。
「――いっ! この! ――!?!?」
またしても、その虫を追い払おうとする。だが、次の瞬間、両手両足そして顔に大量の虫が噛みついてきた。ハエが僕の足に、蛾が僕の腕に、ゴキブリが僕の顔に、
「ひ、ひぃ!! 気持ち悪い! 離れろ! この! この!」
両手両足を振り回し、頭も振り回すが、虫は半分以上がかみついたまま離れない。全身をチクチクとした痛みが襲う。
「や、やめろ! この! んぐ!?」
叫んでいるうちに数匹の虫が口の中に入って来た。必死で吐き出そうとするもなかなか出て行かない。
(気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い! うえ、吐き気が……)
あまりの気持ち悪さに耐え切れず、僕は吐いてしまう。そのおかげで口の中の虫は外に出たが、僕の吐瀉物にも虫が群がって来た。
(な、なんなんだよ、こいつら……ひ、ひぃ! なんで口に!)
ミミズやげじげじが顔の上の這いずり回り、口の周りに集まってきた。身体を固定された状態で吐いたので、僕の口の周りにも吐瀉物がこびりついている。それをめがけて集まって来たのだ。
(やめろ! やめてくれ! くるな! くるなぁ!!!)
必死に懇願したが、僕の願いは通じない。様々な虫達が、好き勝手に僕の全身にかじりつく。
(気持ち悪い! でも吐いたらまた……。うぅ……うううぅぅぅ)
僕はどうする事も出来ず、ただこれ以上、虫達の餌を提供しないように耐えるしかなかった。
そうして耐え続けていると、僕の身体にエサが無くなったのか、虫達は少しづつ離れて行った。
(や、やった……耐えた……耐えたんだ……)
まだ、僕が粗相した物を目当てにする虫はいたが、腕や顔にたかられないだけ、大分ましだ。そう思っていた。
「――!?」
次の瞬間、僕の身体はぐるりと回転する。
(まさか、また『転移』? 今度はどこに……)
ばっしゃーん!
「――!?」
『転移』した直後、僕は白い水の中に突っ込んでしまう。そう、僕が『転移』させられたのは、最初に転移させられた、白い水が貯まっている部屋だった。
「っぷは! ごほっ! ごほっ! ごほっ! はぁ、はぁ……な、なんで……」
とっさの事で、白い水を大量に飲んでしまう。そのせいか、また腹痛が襲ってきた。
(ま、またか! うぅぅ…… ここで漏らすわけには)
全身に力を込めて必死に耐えようとする。きっとまたここで長い時間閉じ込められるんだ。そう思っていた。
だが、意外にも、すぐに僕の身体は『転移』させられる。
(また!? 今度はどこに……まさか!!)
『転移』させられたのは、ボートの上だった。先ほどと同じようにボートに固定された状態で。しかも、先ほど粗相してしまった僕の物が、お尻のあたりに残っている。
(うげぇ……気持ち悪い……)
だが、そんなことを気にしている余裕はすぐに失われた。僕が転移してきたことに気付いたのか、虫達が戻ってきたのだ。
「――なっ!? ひっ! ひぃ!! 来るな! 来るなぁぁああ!!」
ハエが、蛾が、ゴキブリが、げじげじが、ムカデが、またしても白い水を求めて、僕の皮膚にかじりつく。しかも僕が『転移』している間にボートの中にも虫が入っていたらしく、今度は胴体にもかじりつかれた。
「い、嫌だぁぁああ!!」
(僕が……僕が何をしたって言うんだ! ただ皆の期待に応えて来ただけじゃないか! それなのに……それなのに!!!)
両手両足を振り回して虫達を追い払う。排泄物や吐瀉物で虫達の餌を増やしてしまったが、そんな事気にする余裕もなかった。
「うが……うげ……うぅ、なんで……」
なんでこんな目に合わなければならないのか理解できない僕は、その後も『白い水が貯められた部屋』と『ボートが置かれた森の中』を何度も往復する事になる。『白い水が貯められた部屋』に『転移』させられた時に、しょっちゅう白い水を飲んでいるためか、飢える事は無かったが、そのせいで死ぬ事も出来ない。
そうして、何度も『転移』を繰り返しているうちに、身体に異変を感じだ。
(うぅぅぅ……。うぅ? なんだ? 腕がかゆい??)
ボートの上で虫達にかじられているのを耐えながら自分の右腕を見る。
(な、なんだこれは!?)
なんと、僕の腕に蛆が沸いていた。他の虫達のようにどこからかやって来たのではない。僕の腕の中から湧いて出てきたのだ。
「ひ、ひぃ!!」
思わず腕を振り回すも、腕の中から湧き出る蛆をどうにかする事は出来ない。だが、今まで感じて来た以上の気持ち悪さに、とてもではないが、じっとしている事は出来なかった。腕を振り回し、水面やボートに叩きつけ、何とか蛆を追い払おうと必死になる。
次の瞬間、右腕に激痛が走った。
「ぐぁっ!! っ! な、なんだ!?」
1匹の鳥が飛んできて、僕の腕の中にいる蛆を食べたのだ。僕の腕の肉と一緒に。その鳥はおいしそうに蛆と僕の腕の肉を咀嚼する。
「い、痛い……くそ! あっちに行け!」
僕は右腕を振り回し、鳥を追い払った。すると今度は、左腕に激痛が走る。
「ぎゃぁ! ぐぅ……く、くそがぁ!!」
さっきの鳥の仲間だろうか。その鳥は、僕の左腕の肉を咀嚼していた。何とか左手を振り回して追い払ったが、その鳥は遠くには飛んでいかず、近くの木に止まってこちらを見つめている。
(左腕に蛆はいないのに何で!? ま、まさか………………)
慌てて周囲を確認すると、先ほどの鳥と同じ種類の鳥達が、木の上から僕を見つめていた。
(もし、さっきの鳥が、僕の肉の味を覚えて仲間に伝えたのだとすると……奴らの狙いは!!!!)
カァー!!
鳥の鳴き声が辺りに響き渡る。すると、周囲の鳥達が、一斉に僕にとびかかって来た。
「や、やめろぉ!!!!」
僕は叫んだが、その声は、鳥達には届かない。僕の身体を鳥達が鋭いくちばしでついばむ。
「い、痛っ! っ! やめ! く!」
特にあまり動かせない顔の柔らかい部分は、鳥達のお気に入りらしい。唇や瞼を喰いちぎり、その中の歯茎や眼球をおいしそうについばんでいく。
「ぎゃぁぁあああーーー!!!」
余りの激痛に、僕は叫ぶのを止められなかった。 そして、あと一突きで僕の眼球の奥にある脳をついばみそうだという瞬間に、僕は再び『転移』する。
ばっしゃーん!
「――!? っぷは! ごほっ! げほっ! がほっ! はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……ぎゃぁぁあああーーー!」
眼や口をついばまれた状態で、白い水から何とか顔を出した僕に、突然、心を冷たい手で鷲掴みにされたような悪寒が全身を駆け巡る。
「い、今のは……そ、そんな!?」
僕は絶望した。『転移』したことにではない。白い水を飲んでしまった事にでも、白い水が冷たい事にでもない。僕が絶望したのは、鳥達についばまれたはずの僕の身体が、元通りになっていたためだ。
(『回復』魔法……それも魔道具をつかったの。それはつまり……い、嫌だ……嫌だぁ!!!!)
このタイミングでの回復魔法。どう考えても、僕により長く苦痛を与えるためとしか思えない。
「嫌だぁぁああ!!」
僕は必死で叫んだ。だが、いくら叫んでも、僕の叫びが彼らに届く事は無い。そして再び僕は『転移』した。
白い水に頭から突っ込み、虫にたかられ、蛆がわき、鳥についばまれる。何度それを繰り返しただろう。またしても死に損ねた僕は、白い水が貯まった部屋に転移してきて、魔道具により『回復』魔法をかけられた。
(なんで……なんでこんな……なんで虫は僕にたかる? なんで蛆は僕に寄生する? なんで鳥は僕の肉をついばむ? ……もうやめてくれ……モーリス。僕がお前に何をしたっていうんだよ)
そこまで考えて、僕はふとあの商人の事を思い出す。
(そうだ……この魔道具を作ったのはあの商人か……アレンとか言ったっけ。なんでこんな事するんだよ……僕はただ……あれ?)
『ただ金儲けがしたかっただけ』。そのはずだった。しかし……。
(僕は……カミール兄上に言ってアレンから特許権を奪った。金儲けのために……そのためにアレンの両親も殺させた……妹も人質にしようとして……あれ?)
僕は自分のした事を見つめなおした。
(自分の物を奪われたら……人は怒る。両親を殺されたら……怒らないわけない。僕のした事は……人から恨まれる事だったのか?)
ここにきて、僕は自分のしてきた事が間違っていたと理解する。
(あ、そうか……これは僕が犯した罪に対する罰なんだ……)
そのことに、ようやく気付く事が出来た。それと同時に、今まで金儲けのために色々奪ってきた民達に贖罪の気持ちが生まれる。
(理不尽に税を上げてごめんなさい。財産を没収してごめんなさい。利権を奪ってごめんなさい。冤罪をかけて罰金を払わせてごめんなさい……)
罰を受けながら、今まで奪ってきた人たちに心の中で謝罪していく。こうして僕は、発狂するまで、この罰を受け続けた。
というわけで、サーカイル王子への罰。後半は、スカフィズムでした。
アレンは、サーカイル王子が黒幕でなければ、ずっと『白い水が貯められた部屋』に閉じ込めて水攻めだけ行うつもりでした。ですが、サーカイル王子が黒幕と分かったため、『白い水が貯められた部屋』と『ボートが置かれた森の中』を行き来する仕組みを作動し、スカフィズムを行ったのです。
王子達への『拷問は』これで終わりです。
次回はモーリス王太子視点の話から始まります。
お楽しみに!
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!
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