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194【断罪9 対策】

 会場に戻った俺は、ユリ達と合流する。


「ただいま。なんか人減った?」

「おかえりー! そうだね。モーリス王太子もいなくなっちゃったし、少しずつ帰り始めてるよ」


 会場内は先ほどより少しだけ閑散としていた。国王陛下や王妃の姿も見えないし、主要な貴族達はもう帰っているようだ。


「そっか。それじゃ俺達も帰るか」

「うん!」


 大事な人とは挨拶を終えていたし、クリスとダンスを踊る事も出来た。もうここにいる必要はないだろう。


「皆もいい?」

「もちろんです」

「大丈夫ですよ」

「僕も大丈夫……です」

「私も大丈夫ですわ」


 皆も問題ないようだ。むしろ早く帰って俺の話を聞きたそうにしている。


 俺達は、歩いて王宮を後にしてから、『転移』で支店に戻った。




 支店に戻った俺はさっそく、カミール王子から聞いた話を皆に共有する。おばあちゃんは仕事中だったので、後で伝える予定だ。


「――と、いうわけで、ほぼほぼサーカイル王子が黒幕で確定です。なので先ほど、魔道具の最後の仕掛けを発動しました。数日もすれば、サーカイル王子の心は折れるでしょう。その後、サーカイル王子から話を聞く予定です」


 俺が説明を終えるとユリがおもむろに口を開いた。


「サーカイル王子から話を聞いて……黒幕だって確定したら復讐は終わり?」

「そうだね。後は定期的に魔道具の機能に問題が無いかを確認して……それで終わりだね」


 王子達に取り付けた魔道具には、4つの特性が備わっている。1つ目が、対象を『転移』させる特性。2つ目が対象を『回復』させる特性。3つ目が、対象が心から屈服した事を確認する特性。そして4つ目が、対象が転移先で経験した内容を、夢として体験させる特性だ。夢と言っても、もちろんただの夢ではない。ちゃんと苦痛も感じるし、決して自力では目覚められない夢だ。常人なら、数回繰り替えされただけで頭がおかしくなってしまうだろう。だが、2つ目の特性が発狂する事も許さない。対象は寿命を迎えるまで、苦しみ続ける事になる。


この4つ目の特性を付与することが出来たから、俺は2人の王子を生かしておく事に決めたのだ。簡単に楽になるなど許さない。王子達には死ぬまで苦しみ続けてもらうつもりだ。


「そっか……後は自死されないように気を付けつつ、魔道具を壊されないようにするって事だね?」

「そういう事。後は王子達のこれからの働き次第かな。真面目に働くようなら、これ以上は何もしないけど、もしまた悪事に手を染めるようなら、その時はまた『転移』させて、もうずっと放置するよ」

「うん! 了解だよ! 私はそれでいいと思う。バミューダ君は?」

「僕もそれでいい……です。お義兄ちゃん、ありがとう……です」


 俺と同じく、両親を殺されたユリとバミューダ君も復讐内容に納得してくれた。2人もこれで満足ならば、復讐はここまででいいだろう。


 これで、復讐は終わり。そんな空気が漂う中、クリスが遠慮がちに聞いてきた。


「あの……モーリス王太子はどうするのですか?」

「あー、モーリス王太子については、まだわからない部分が多いから、今の所、直接何かをするつもりはないよ。グランツ嬢の事は、何とかしたいと思ってるけどね」

 

 正直、モーリス王太子については、何がしたいのかがよくわからないのだ。完全に俺の味方ではない、という事は分かっているのだが、かといって明確に敵というわけでもない。


 目的が、『ざまぁ』と『ハーレム』というのは分かっているが、それにしては意図が読めない動きが多いのだ。


 心が折れたサーカイル王子から話を聞けば、何か分かるかもしれないが、サーカイル王子の身柄を俺が確保することを、モーリス王太子が黙認している以上、あまり期待もできない。


 そんな状態なので、怪しいとは思うものの、警戒する以上の事は出来ずにいるのだ。


「ソルシャさんの事でしたら、思ったより心配する必要はないかもしれませんよ」


 グランツ嬢の事を一番気にしていたマークさんが意外な事を言う。


「? どういうことですか?」

「おや? 狙ってやったわけではないのですね。ふふふ」

「……え?」


(俺、なんかしたっけ?)


 全く心当たりがない。そんな俺に、マークさんは楽しそうに説明してくれた。


「アレンさんが皆さんの前で、カミール王子を『転移』してくださいましたからね。カミール王子の狂行を多くの人間が目撃したのですよ」

「――! ああ、なるほど!」


 自分の腕を嚙みちぎろうとしたカミール王子の狂行は、あの場にいた者に恐怖を与えただろう。そしてその恐怖の対象は、俺に向けられたものもあったかもしれないが、それ以上にモーリス王太子に向けられただろう。事実、あの後モーリス王太子とダンスを踊る予定だった女の子は、顔を青くしていた。


「ええ。モーリス王太子はあの場に、側室となりうる女性を多く招待していたはずです。ですがあれでは、あの場にいた者の中から側室を選ぶのは難しいでしょうね。いやはや、お見事と思ったのですが、まさか偶然だとは。ふふふ、さすが、アレンさんです」

「……それ、褒めてます?」

「もちろんですよ。他の誰にもこんな事できないでしょうね」


(絶対褒めてないじゃん!)


 とはいえ、嬉しそうな様子は、本当の様だ。それだけグランツ嬢が心配だったのだろう。


「ま、まぁ、そんなわけだから、モーリス王太子は一旦放置で。サーカイル王子の心が折れるのを待ちます。他に何か質問ありますか?」


 皆の顔を見渡すが、誰も質問はないようだ。


「それじゃ……お疲れ様でした!」

「「「お疲れ様でした!」」」


 ようやく、王子達への復讐が実行できたその日。俺は久しぶりにぐっすりと熟睡する事が出来た。そのせいで、夜中に俺を心配して寝室にやって来たクリスに気付く事が出来ず、翌朝、驚きの光景を目にする事になるのだが、それはまた別のお話。




 それから数日は、特に大きな問題は起きなかった。


 ()()したカミール王子は、意外にもしっかりと働いていると聞く。しかし、毎晩うなされているのに、朝になると万全の体調で働きに行く様が、皆のモーリス王太子への恐怖心を増大させているようだ。


 それもあってか、たまにモーリス王太子から、『女性達に避けられている』という愚痴の通信が届いた。どうやらマークさんの読み通り、側室選びは難航しているようだ。俺は原因が分からないふりをしつつ、適当に返事を返す。ちなみにモーリス王太子からの愚痴は全てマークさんに共有しているのだが、愚痴を聞くたびに、マークさんは楽しそうにしていた。




 そうして1週間が経過したある日。俺の手元の魔道具にサーカイル王子の心が折れた事を伝える通信が届いた。

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