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193【断罪8 動機】

 会場を後にした俺は、モーリス王太子に聞いていた部屋に向かう。適度に広く、『防音』の魔道具が設置されている部屋だ。部屋に着いた俺は、ノックをして、自分がアレンであることを告げてから部屋に入る。


 出迎えてくれたのは執事さんだった。部屋の中ではすでに『防音』の魔道具が起動しており、モーリス王太子とカミール王子が話し合いを行っている。執事さんにお礼を言ってから、『防音』の魔道具の効果範囲に入ると、モーリス王太子に声を掛けられた。


「おー、アレン。来たな。ここに座ってくれ」

「……失礼します」


 モーリス王太子が示した場所は自分の隣。つまり、俺とモーリス王太子がカミール王子の対面に座る事になる。


(執事さん、驚きを隠せてないな。まぁ無理もないか)


 この座り方では、モーリス王太子がカミール王子を俺より下に見ていることになってしまう。そんな座り方をモーリス王太は当たり前のように勧めてくるし、それに対しカミール王子は怒っている様子が無い。執事さんからしたら、異常極まりない光景だろう。普段、感情を見せない執事さんが驚きを隠せないのも、仕方がない事だ。


「さて、カミール兄上。国営の話は少し置いておいて、アレンが兄上に聞きたい事があるようなんです。答えてあげてもらえますか?」

「あ、ああ。もちろんだ。なんでも聞いてくれ」


 国営の話より俺の個人的な話が優先されるという、またしても異常な事が起きているが、カミール王子は特に反対はしなかった。


「では、まずは確認です。カミール王子、貴方はダーム=マグゼムの身体を乗っ取り、多くの女性に乱暴した。その中には、私の母も含まれる。違いますか?」

「そ、その通りだ。本当に申し訳ない」


 カミール王子が俺に頭を下げて謝罪する。またしても執事さんが驚きを隠せない表情をしたが、今はそれでどころではない。


 殺してやりたくなる衝動を抑えて、俺は再度カミール王子に質問をした。


「謝罪よりも教えてください。なぜ母を襲ったのですか? なぜ、私の両親に限り、殺したのですか? そしてなぜ、父から特許権を奪ったのですか?」

「それは……その……」

「答えろ。でなければまたあそこに送る」


 カミール王子が迷うそぶりを見せたので、俺は言葉に怒気を乗せて、カミール王子の腕についている魔道具に手をかざしながら催促する。


「ひっ! 分かった、話す! 話すから! サーカイルに言われたのだ。せっかく、イリーガル家の女を襲うなら楽しい方が良いだろうって」

「………………詳しく話せ」

「その……サーカイルと次に狙う女の話をしているときに言われたんだ。『そう言えば、平民になったイリーガル家の女がいるな』って……イリーガル家の女は……その……()()()()って有名だったから、俺も乗り気になって……『じゃあ、魔封じの魔道具を持ってクランフォード家を襲うか』って」

「………………それで?」

「そ、それでその……『せっかくクランフォード家を襲うなら楽しんだ方が良い』ってサーカイルに言われて……俺がどういう意味だって聞いたら……『父親に特許権を譲渡するように迫るんだ。絶対断ってくるからそうしたら目の前で母親を犯してやれ』って……『その方が盛り上がるだろ』って……」

「………………」

「あ、アレン……様……?」

「うるさい、黙ってろ」

「ひっ! す、すまん! い、いや、ごめんなさい!」


 俺は必死になって自分の感情を落ち着けていた。出ないとカミール王子を撃ち殺してしまいそうだったのだ。


(今すぐ殺してやりたい……ダメだ、押さえろ。殺して楽にしてやるなんてぬる過ぎる……)


「………………ふぅ。お前がサーカイル王子にそそのかされて両親を襲ったのは分かった。だが、特許権侵害で訴えたのはなぜだ?」

「え……特許権侵害? 不敬罪ではなく? え、なんの事だ?」

「あ? クランフォード商会を特許権侵害で訴えただろ? 両親を襲った翌日に役所の人間が店に来たぞ」

「し、しらない! それは本当に知らないぞ! 俺は特許権侵害で訴えたりなどしていない!」


 カミール王子は必死で弁明している。俺は懐に忍ばせておいた『噓発見』の魔道具を確認したが、反応はない。つまり、特許権侵害で訴えを起こしたのは、カミール王子ではないのだ。


(どういうことだ? ダームさんが嘘をついているとは思えないし……)


 俺が混乱していると、モーリス王太子がカミール王子に質問をした。


「ふむ……カミール兄上。その『ダーム=マグゼムの身体を操って』というのは、『奴隷化の首輪を使用して』という事ですよね?」

「あ、ああ。その通りだが……」

「奴隷化の首輪にはそれぞれの所有者を示すための、所有者の指輪があったと思いますが、それを誰かに貸しませんでしたか?」

「え……あ! 貸した! そうだ、サーカイルに貸している!」

「はぁ!? そんな大事な事、なんで黙ってた!」


 ダームさんの身体をサーカイル王子も操っていたのなら、訴えを起こしたのはその時だろう。そんな重要な情報を隠し持っていたカミール王子に怒りが隠し切れないほど湧いてくる。


「い、いやその……前からちょくちょくあったんだ。俺が楽しんだ後、サーカイルが楽しむって……だから、その時もそうなのかって思って……」

「……ちっ!」


 言いたいことは山ほどあるが、カミール王子にそれを言っても仕方がない。馬鹿につける薬は無いのだ。


「サーカイル王子はどれくらいダームさんを操っていたんだ?」

「それは、その……分からない。俺達は誰かを操る時自室にこもるし……サーカイルが所有者の指輪を返しに来たのは翌日だから……」

「そうか……分かった」

 

 確証はないが、俺達を襲った黒幕はサーカイル王子で間違いないだろう。少なくとも両親を襲うようにそそのかしたのはサーカイル王子でまちがいない。後はサーカイル王子に直接聞く事にする。


「聞きたかった事は以上です。モーリス王太子、お時間頂き、ありがとうございました」

「おう!」


 俺はモーリス王太子にお礼を言ってから部屋を後にして、クリス達がいる会場を目指す。


(それにしても、やっぱり黒幕はサーカイル王子だったか……なら、いいよな)


 実は、サーカイル王子への復讐については、どこまでやるか悩んでいた。サーカイル王子が何をどこまでしたのかが、明白になっていなかったからだ。もし、俺の両親を襲った黒幕でなければ、俺は最後の仕掛けを発動することはなく、このまま放置しただろう。それでもサーカイル王子の心を折るには十分だと思ったからだ。だが、黒幕であると分かった以上、手加減する必要はない。俺は、手元の魔道具を操作して、最後の仕掛けを発動する。


(さぁ、何日もつかな)


 そんな事を考えながら、俺は会場に戻った。

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