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192【断罪7 更生】

「モーリス王太子。カミール王子が改心されました」

「ほう! 思ったより早かったな。流石はアレンの作った魔道具だ。効果抜群じゃないか!」

 

 魔道具を起動してからもう2時間以上が経過している。正直、俺なら5分も持たずに心が折れる自信があるので、カミール王子はよく耐えた方だと思うのだが……。


(ま、そこは王族のプライドってとこかな)


「よし! では、最後の仕上げと行くか」


 モーリス王太子が2回手を叩いた後、声を張り上げた。


「皆の者、楽しんでいる所申し訳ないが余の話を聞いて欲しい。今しがた、カミール王子が今までの行いを悔いて()()したようだ。生まれ変わったカミール王子を皆で迎えようではないか!」


 モーリス王太子の言葉に歓声が巻き起こる。


「この短時間でカミール王子を更生させるとは……流石はモーリス王太子ですな!」

「モーリス王太子、万歳!」

「「「モーリス王太子、万歳!」」」


 歓声を受けて、モーリス王太子がゆっくりと頷く。


「うむ! 皆の者ありがとう! ではアレン。生まれ変わったカミール王子を『転移』してくれ」

「はっ! ()()()()()()()


 俺はモーリス王太子の言葉を受けて、手元の魔道具を操作する。次の瞬間、カミール王子が叫び声をあげながら『転移』してきた。


「あああぁぁぁああーーー!!! あ……ああぁぁ……あぐ、あ……こ、ここは……」

「おかえりなさい、カミール兄上。ご機嫌はいかがですか?」

「ひっ! も、モーリス! あ、いや、モーリス王太子様! す、すまなかった! 俺が悪かった! た、頼む! 助けてくれ!」


 モーリス王太子がカミール王子に声をかけると、カミール王子はモーリス王太子の前に跪き、許しを請うた。プライドも何もあったものでないその様は、()()カミール王子からは想像もつかない物であり、皆、あっけに取られていた。俺達とモーリス王太子を除いて。


「すまなかった。俺が悪かった。だからもうあそこには――」

「――まぁまぁ兄上。落ち着いて下さい。大丈夫ですから。その腕の魔道具は()()が意図しない限り、起動しません。兄上がこの国のために頑張ってくださる限り、もうあそこに行く必要はありませんよ。ですが、また何か悪さをすれば……分かりますね?」

「!? い、嫌だ……嫌だぁぁああ!! う、腕……これか! この魔道具が……!」


 カミール王子は自分の腕にはめられている魔道具を取り外そうとする。だが、自力で外せないという事が分かると、()()()()()()()()()()()()()


「兄上。それを外そうとされるのであれば、またあそこに送ることになりますよ?」

「ひっ! そ、それは止めてくれ! 分かった、外さない! 外さないから!」


 カミール王子の腕には、くっきりと歯形が着いている。モーリス王太子が止めなければ、本当に腕を食いちぎっていただろう。


「結構です。ふふ、さて、カミール兄上。これからは国のため、民のためにしっかりと働いて下さいますね?」

「あ、ああ! もちろんだ! もちろん働くとも!」

「当然ですが、もう女性に乱暴するのは厳禁ですよ?」

「分かっている! もう絶対に乱暴などしない!」


 カミール王子の変わり様と奇行に、周囲はドン引きしていた。だが、モーリス王太子は、それに気づいていない。それどころか、カミール王子が従順になった事を嬉しそうに受け入れている。


「素晴らしい! さて、兄上。色々あって疲れたでしょう。お部屋を用意したので、そちらでお休みください」

「ひっ! 部屋は……部屋は……」

「ご安心ください。そこそこ広さのある明るいお部屋ですよ。少ししたら我々も行きますから」

「あ、ああ。分かった……」


 カミール王子から、色々話を聞くために、別室に移動しようとしたのだが、カミール王子が怯えだした。あの場所に長くいたため、閉所恐怖症になってしまったのだろう。あらかじめ、モーリス王太子に『もしかしたら、カミール王子は戻ってきたとき、閉所恐怖症になっているかもしれない』と伝えておいてよかった。


 カミール王子が衛兵に連れられて会場を後にすると、モーリス王太子が再度声を張り上げる。


「さて、皆の者。聞いての通りだ! カミール兄上はこの国のために尽くすと誓ってくれた。この国の事を真に思う王子に生まれ変わったのだ!」


 モーリス王太子の言葉にまたしても歓声が上がる。


「さ、流石はモーリス王太子!」

「モーリス王太子、万歳! カミール王子万歳!」

「「「モーリス王太子、万歳! カミール王子万歳!」」」


 その歓声には、本来、腹芸が得意である貴族達をもってしても拭いきれなかった恐怖の感情が混じってのだが、浮かれているモーリス王太子はそれに気付けない。


「うむ! 皆も、カミール王子と同じように余を支えて欲しい! さて、余はこれからの事についてカミール王子と話してくるので、これにて失礼するよ。あぁ、余と踊る約束をしていた子達は、次の機会に優先して踊るので許しておくれ」


 モーリス王太子が次に踊る予定だった令嬢に話しかけると、その令嬢は顔を青くながらもなんとか微笑み返す。令嬢の恐怖の感情を、緊張と勘違いしたのか、モーリス王太子はにっこりとほほ笑んだ後、会場を後にした。


(よし。これでモーリス王太子への復讐の下準備は出来た。上手くいけばグランツ嬢の憂いも一緒に解決できるかも。まぁ、そこは後でマークさんと相談しよう……それにしても、モーリス王太子は知らないのかな? 独裁政治や恐慌政治を行った権力者がろくな最後を迎えないってのは、物語の定番だろうに……)


 今の所、俺はモーリス王太子に直接被害を加えるつもりはない。モーリス王太子が、俺に直接何かをしたわけではないからだ。とはいえ、モーリス王太子が良くない道を歩んでいるからといって、正してあげる義理もない。破滅するなら勝手に破滅すればいいとさえ思っている。


(まぁ、泥船に乗り続けるつもりはないけどね)


 そんなことを考えながら、俺もモーリス王太子を追って会場を後にした。

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