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191【断罪6 グランツ嬢とマークさん】

 マークさんの言葉がモーリス王太子への牽制になったのは間違いない。モーリス王太子は、明らかに動揺しているのが分かる。


「そ、そうか。特定の女性を作らなかった貴殿にも、ついにパートナーが出来たのか」

「ええ。なかなか、パートナーにしたいと思える女性に巡り合えなかったのですが、幸運にも、ユリさんと出会う事が出来ました。()()()素晴らしい女性と巡り合えて良かったですね」

「――! あ、ああ。そうだな……」


 マークさんの言葉に、モーリス王太子はさらに顔をゆがませた。モーリス王太子がグランツ嬢の事を大事に思っていれば、今の言葉は嬉しい言葉のはずだ。だが、そうでなければ、ただの嫌味でしかない。


 グランツ嬢の笑みに、少しだけ感情が戻った気がする。


「ソルシャさん……おっと、失礼。グランツ嬢も優秀な女性だと伺っておりますが、ユリさんもなかなか聡明でしてね。モーリス王太子のおっしゃる通り。きっと、お話が合うでしょうね」

「そ、そうだな」


 マークさんの言葉に、モーリス王太子はただ合意する事しかできない。


「あらまぁ。ふふ。それでは、ユリ様。ぜひ仲良くしてくださいね」

「こちらこそ! 身に余る光栄に感謝致します。ソルシャ様」


 そう言ったグランツ嬢の笑みには、明らかに感情が戻っていた。まだ、どこか暗い影がある笑みだが、先ほどまでの無表情の笑みに比べれば、よほど柔らかい笑みだ。


(ユリの身を守りながら、グランツ嬢の気も晴らす……か。流石、マークさんだな。だけど……演技……なんだよな?)


 ユリとマークさんのかもし出す柔らかい雰囲気に、思わず俺まで、2人が本当の恋人同士であるかのような錯覚を受けてしまう。


「さて、我々だけで本日の主役を独占するわけにはいきませんので、名残惜しいですがこの辺で失礼させて頂きますね。行きましょうか、ユリさん」

「分かりました! 御前を失礼致しますね。モーリス王太子、ソルシャ様」

「あ、ああ。またな」

「またお会いしましょうね」


 ユリとマークさんがモーリス王太子達に挨拶をして、この場を離れて行く。その様子は、どこからどう見てもお似合いの2人だった。


「(アレン。わたくし達も)」

「(あ、うん。そうだね)」


 クリスに耳打ちされて、俺はモーリス王太子に声をかける。


「それでは、私達も失礼しますね」

「そ、そうだな。ゆっくりと楽しんでくれたまえ」


 モーリス王太子に挨拶をした後、俺達はユリ達と合流し、バミューダ君達の元へ戻った。


「お疲れ様……です。大変だったね……です」

「ただいま、バミューダ君。いやほんと危なかったよ。マークさんのフォローが無ければ、どうなっていたか……」

「ほんと、ナイスフォローでしたわ。これで、ユリ様に変なちょっかいをかけてくる者はいなくなるでしょう。それに、モーリス王太子のあのお顔。ふふ、傑作でしたわ!」

「ね! ね! 私、上手く出来てたよね! あー、良かった……マークさんもありがとうございます! 色々助かりました!」

「いえいえ、これくらいお安い御用ですよ。それに、モーリス王太子には私も思う所がありましたからね。多少なりとも意趣返しが出来て良かったです」


 そういう2人の表情は、いつも通りの表情だ。そこに男女の仲は感じられない。


(あ、やっぱりあの立ち回りは演技か。2人共やるなぁ)


 これで、モーリス王太子や他の貴族達が、ユリに変なちょっかいをかけてくることはないだろう。ユリに本当に好きな人が出来た時に困るかもしれないが、その時はその時だ。


「これで、ソルシャさんの心労が少しでも軽くなるといいんですが……」


 そう言って、マークさんは心配そうにグランツ嬢を見つめた。グランツ嬢はモーリス王太子の隣で、俺達の次に挨拶に来た者と対峙していたが、その者は、モーリス王太子に自分の娘を売り込んでいるようだった。というより、この後挨拶に来るものの大半は、モーリス王太子に自分の娘を売り込むだろう。グランツ嬢の目の前で。


(どう考えても辛いよな……あれ? そういえば、マークさん、さっきもグランツ嬢の事を『ソルシャさん』って……)


「もしかしてマークさん、グランツ嬢とはお知り合いなんですか?」


 俺が聞くとマークさんは悲しそうに微笑んで答えてくれる


「ええ、そうですよ。彼女は貴方達の姉弟子にあたります。意味は分かりますね?」


 俺達の姉弟子、つまり、俺達の魔法の師匠であるマークさんの弟子という事だ。


「なるほど……そうだったんですね」

「ええ。……とても、優秀な子でした。貴方達ほどではありませんが、かなりのスピードで魔導書を読み進めていたんですよ。家の都合で、()()()を諦める事になり、その後疎遠になっていたのですが……まさかこんな事になっているとは、ね」


 マークさんが再びグランツ嬢の方を見た。グランツ嬢はダンス直後ほどではないが、再び表情から感情が無くなりつつある。婚約者に娘を紹介する貴族達と笑顔であいさつしなければならないというのは、それだけ辛い事なのだろう。何とかしてあげたいという気持ちはあるが、()()()に俺達に出来る事は無い。とはいえ、このままというのは正直、気分が良くない。


「(……マークさん。後でご相談が)」

「(ええ。()()()()()()()()()())」


 マークさんは俺の狙いに気付いたようだ。だが、お礼を言われる話ではない。俺は自分の気持ちをすっきりさせるため、動くだけなのだから。



 その後、何人かの貴族と挨拶を交わしたり、クリスと一緒にダンスを踊ったりして、時間をつぶしていると、手元の魔道具が、とある通信を捕まえた。


(お、ようやく心が折れたか。思ったより長かったな)


 それは、カミール王子に付けた腕に付けた魔道具からの通信だ。この通信が来るという事は、カミール王子の心が根っこから折れて反抗心が無くなった事を示している。


(それじゃ、カミール王子を呼び戻すかな。モーリス王太子は、っと)


 カミール王子を呼び戻すのは、モーリス王太子が皆に演説してから、と決めていた。そのため、俺はモーリス王太子を探したのだが、モーリス王太子はフロアで見知らぬ貴族令嬢とダンスを踊っていた。


(んー……ま、ダンスが終わるまでは待つか)


 あまり待ちすぎると、廃人になってしまうかもしれないが、もう少し位なら大丈夫だろう。


 俺は、モーリス王太子がダンスを終わるのを待ってから、モーリス王太子に声をかけた。

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