174【もう一人の実行犯1 被害者】
第6章スタートです。
本話と前話の間に、1話と2話が入ります。まだ読まれていない方は、1話と2話を読まれてから、本話をお読みください。
「おかえりなのじゃ」
ミルマウス男爵領から『転移』してきた俺達をおばあちゃんが優しく迎えてくれる。
「首尾はどうかの?」
「ばっちりだよ。隊長の証言も取れたし、嘘発見器にも反応はなかった。『転移』の魔道具も上手く動作したしね」
そう言って、俺は懐から4つの魔道具を取り出した。4つはそれぞれ、『虫よけ』『噓発見』『転移』そして『録音』の魔道具だ。その中から『録音』の魔道具をおばあちゃんに渡して、残りの魔道具は懐にしまう。
「指示を出していたのは、第1王子のカミール王子だ。隊長の証言はこの中に入ってる」
「そう、か。あやつがのう。という事は……」
「うん。背後にまだ誰かいるって事だね」
隊長の口から出た人物がサーカイル王子なら、指示を出していたのも黒幕もサーカイル王子で間違いないだろう。だが、カミール王子が黒幕というのは考えにくい。あの王子に特許権を奪うなんて知恵が回るわけないのだ。背後に別の黒幕がいるとしか考えられない。
「一番怪しいのはサーカイル王子かのう?」
「そうだね。側室やモーリス王子って可能性もあるけど、一番可能性が高いのはサーカイル王子だと思う」
側室はそこまで知恵が働くタイプではないし、モーリス王子も信用は出来ないが敵対しているわけじゃない。となると、一番怪しいのはサーカイル王子だ。
「どうするの? 次は第1王子を『転移』させる?」
ユリが指をもしゃもしゃさせながら聞いてきた。『蟻の中に転移させちゃう?』と言いたいのだろう。
「いや、今の時点でカミール王子を狙うのはリスクが高いよ。カミール王子は自分が黒幕だと思い込んでいるかもしれない。そうなると、蟻の中に突っ込んでも意味がない。むしろ、本当の黒幕を助ける事になっちゃう」
ここで俺達がカミール王子を殺せば、黒幕はカミール王子に全責任をかぶせて逃げ切ってしまうだろう。それではダメなのだ。
「それじゃあ、どうするの?」
「もう少し王妃様に調べてもらう。6割がたサーカイル王子だとは思うけど、万が一って事もあるからね。サーカイル王子を追い詰められるだけの客観的な証拠が出ればベストだけど、最悪、状況証拠でレベルでもいい」
「分かった。わしから王妃様に伝えておこう」
「お兄ちゃん、王妃様を使っちゃってるよ……」
「あ……。慣れって怖いね」
この2年、おばあちゃんを通して王妃様とは色々話し合ったので、つい、気が緩んでしまった。気を付けないと、また、不敬罪の疑いをかけられてしまう。
「あはは。まぁ、王妃様は気にされんじゃろうがな。むしろ今みたいな方が喜ばれると思うぞ」
「それでも気を付けとくよ……それで、俺達だけど、もう一人の実行犯は今日はいないの?」
「ああ。あやつは王宮からあまり外には出ん。じゃからあやつについてはあまり知られていなかったんじゃよ」
「……って事は」
「その通りじゃ。王妃様が調べてくださってようやく分かった。あやつも被害者じゃったのじゃとな」
「? どういう事?」
「詳しい話はおぬしの実験室でしよう。皆も待っておるのじゃろ?」
「あ、そうだった。じゃあ、まずは行こうか。ユリ頼む」
「分かったよー!」
俺の持っている『転移』の魔道具は2名までしか『転移』出来ないため、ユリに頼んで、3人で支店の裏口に『転移』する。『転移』してきた俺達を、バミューダ君が出迎えてくれた。
「お兄ちゃん、おねえちゃん、おばあちゃん。お帰り……です」
「ただいま、バミューダ君」
「たっだいまー!」
「ただいまなのじゃ」
バミューダ君と一緒に支店の中に入る。おばあちゃんが軽く手を振ると、どこからともなく護衛の人が裏口の警備にあたってくれた。ちなみに、ユリとバミューダ君はこの警備の人の気配もきっちり掴んでいるらしい。
裏口の警備を護衛の人に任せて俺達は休憩室に向かう。休憩室に俺の実験室への扉があるのだ。店内は閉店作業を終えており、皆、すでに実験室へ移動を済ませていた。俺達が休憩室から実験室へ入ると、皆が出迎えてくれる。
「おかえりなさい、アレン! 怪我しなかった?」
「その顔……上手くいったんやな?」
「お疲れ様です、お二人とも。辛いでしょうが、まずはお話を聞かせてください」
実験室には、クリス達従業員の他に、ミッシェルさんとマークさんにも来てもらっている。これからの事を決めるために、知恵を貸して欲しいと言ったら、二つ返事で了承してもらえたのだ。
皆の前で、俺は分かったことを話していく。
「……と、いうわけでカミール王子の背後に黒幕がいると考えます。それに、実行犯ももう一人残っている状況です。ただ、この実行犯については、おばあちゃんが情報を持っているそうなので共有してもらいます。おばあちゃんいい?」
「うむ。まず最初に明言しておこうかの。アレンにも言ったのじゃが、最後の実行犯は被害者じゃとわしは思っておる。名はダーム=マグゼム。ルーク殿から奪った特許権を保持している男じゃ」
「――!?」
俺も含め、その場の全員が驚きを隠せなかった。何となく、特許権を保有しているダーム=マグゼムは敵だと思っていたからだ。それが、被害者とはどういう事だろうか。
「簡単に言えばこのダームという男は妹を人質に取られてやりたくもない事をやらされとるのじゃ。イリスとルーク殿を襲ったのもこやつの意思ではないのじゃろう」
「――! でも! ……だからって!」
おばあちゃんの言葉に俺は思わず声を荒げた。仮に妹を人質に取られていたとしても、俺の両親を殺していい理由にはならない。
「落ち着くのじゃ、アレン。わしも最初、こやつを許す気はなかった。じゃが、色々調べているうちに、こやつは本当に被害者なのじゃと分かったのじゃよ」
「……どういう意味?」
仮にどんな事情があったにせよ、父さんと母さんを殺した相手を許すつもりはない。そう思っていたのだが……。
「諸悪の根源は、カミール王子じゃな。あやつは他人の身体を乗っ取り、意のままに操ることが出来るのじゃ。王宮にいたまま……な」
「なっ――」
おばあちゃんから聞いた事情は、想像だにしていない物だった。