172【家族との会話】
「ええい! いい加減離れんか! 話が進まんじゃろが!」
おばあちゃんが一喝して、ユリとマナを引き離した。
「まったく……おぬしら、狙われとるという自覚があるのか?」
「大丈夫です。ユリピもお義兄様もは私が守ります!」
「誰が、お義兄様だ」
マナのボケをスルーしていると、いつの間にか外堀が埋められている可能性があるので、ちゃんと訂正しておく。
「とにかく! おぬしらは強大な敵に狙われとる。ちゃんとその事を意識して単独行動は避けるんじゃぞ? ええな?」
「「「はい!」」」
休憩室に皆の声がこだまする。今いないメンツには後で俺から伝える予定だ。
「うむ! それから……おぬしがバミューダかの?」
「はい! ……です!」
おばあちゃんがバミューダ君を頭の先からつま先まで、じっくり眺めた。
「ふむ……心身ともによく鍛えられとる。もう少しで導かれるじゃろな……おぬし、普段のトレーニングはイリスに教わったのか?」
「はい! ……です! お母さんが教えてくれた! ……です!」
「なるほどの。流石イリスじゃ。これならわしが教える事はないの。これからも精進するがよい」
「はい! ……です! ありがとう! ……です!」
「うむ! おぬしとアレンとユリ、それから、ナタリーもいるんじゃったな? であれば、護衛は店の外だけで大丈夫かの」
「はい。皆優秀ですから」
俺を頭数に入れていいのかは微妙だが、他3人がいるだけで、戦闘力としては申し分ないだろう。
「ふふふ。ええ、仲間を作ったの。確かにこれだけの戦力があるなら、自分を囮に情報収集を……と考えるのも分からなくはない。じゃが、もう危険な事はするでないぞ?」
「分かっています。約束は守りますよ」
「……約束、ですか?」
クリスが訝し気に聞いてきた。
「ああ。復讐のは俺達に任せてくれる代わりに、情報収集は王妃様とおばあちゃんに任せる事になったんだ」
「「「――!? 王妃様!?」」」
皆が一斉に叫んだ。
(……そう言えば、王妃様が俺達のために情報収集してくれるってとんでもない話だよな……色々あって感覚がマヒしてたよ)
「アレン……その、なぜ、王妃様が……」
「あー、うん。王妃様と母さんって、昔は友人だったんだって。それで、王妃様が今回の事を気に留めてくださったんだ」
「そう言えば……授与式でもそのような事をおっしゃっていましたね。なるほど、王妃様にとってもご友人の敵討ち、というわけですか……」
クリスが補足してくれた事で、他の皆も一応、納得してくれたようだ。
「ま、そういうわけじゃから、おぬしらはしばらく普通に生活しとってくれ。焦って敵に付け入るスキを与えるでないぞ」
「「「分かりました!」」」
「うむ! ……さて、堅苦しい話はこれで終わりじゃ。後は、おぬしらの話を聞きたい! 普段どんなことをしておるのか、どのような事が好きなのか、色々話させてくれ!」
そう言っておばあちゃんは皆の前に座った。マナが皆の分のお茶を淹れてくれる。
その後、俺達はおばあちゃんと色々な話をした。自分達の事も話したし、おばあちゃんの事も聞いた。途中でマグダンスさん達が休憩に来たが、クリスとマナとミーナ様が交代してくれて、俺とユリとバミューダ君に『せっかくだからおばあちゃんと話してて』と言ってくれたので、甘える事にする。
そうこうしていると、あっという間に日が暮れて、おばあちゃんは王宮に帰る時間になった。俺も一緒に『転移』して王宮まで送ろうかと思ったが、泣いてしまうからいいと言われたので、支店の中でお見送りをする事にした。
「今日は招待してくれてありがとの。おぬしらと話せて良かったのじゃ」
「こちらこそ。色々ありがとうございました。また来てくださいね」
「おばあちゃん、また来てね!」
「また、お話ししたい! ……です!」
「ふふふ。嬉しい事を言ってくれるの……あー涙腺が限界じゃ。すまぬが、送ってくれるかの?」
「あ、待ってください! おばあちゃんに渡したい物があるんです!」
俺は急いで店長室に行き、目当ての魔道具を持って戻ってくる。
「これ、持って行ってください。俺が開発した『遠くにいる人に音声を届ける』魔道具です」
「……は? 音声を届ける……じゃと?」
おばあちゃんは魔道具を見て茫然としてしまった。
「ええ。これがあれば、遠くにいても俺と会話ができます。市販するつもりはありませんが、おばあちゃんには特別です」
(おばあちゃん用のと、モーリス王子用のを間違えないようにしないとな)
現在、『遠くにいる人に音声を届ける』魔道具は、糸電話のように1対1でしか使用できないので、話す相手によって魔道具を変えなければならないのだ。間違った魔道具を使うと、別の相手につながってしまう。
さっそく、おばあちゃん使い方を教えると、今度はあきれた表情をされてしまった。
「なんとまぁ……わしらも定時連絡用に似たような魔道具を使用しておるが、それよりはるかに使いやすいのう。個人でこのような魔道具を作り出すとは……流石はアレンじゃ」
(あ、そっか。マークさんが作った失敗作でも、連絡する時間をあらかじめ決めておけば使い道はあるんだ。ん? あれ?)
「もしかして、おばあちゃん。マークさんを知っていますか?」
「ん? おお、知っておるぞ。魔法使いであやつを知らんもんはおらんじゃろ。それに、わしはあやつとは元同僚じゃからの」
「「え!?」」
俺とユリが驚きの声を上げる。
「そう驚く事でもあるまい。あやつは『国営魔導書貸出店』に勤めておるんじゃぞ? 前職が王宮勤めでもなんらおかしくないじゃろ」
言われてみれば確かにその通りだ。だが、どうしても、マークさんが王宮に勤めている姿を想像することが出来なかった。
「ま、その話はまた今度じゃな。さて、名残惜しいがそろそろ送ってくれるかの?」
「分かりました! またね! おばあちゃん!」
「またね……です」
「また連絡しますね」
「ああ。またの」
ユリが『転移』を使うと、おばあちゃんの足元が光り出す。おばあちゃんが転移する直前、おばあちゃんの眼に涙が浮かんでいたが、見なかったふりをした。
次話で第5章終了の予定です。
話の展開が遅くてすみません。もう少しお付き合いください。