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166【裁判】

 俺とマークさんとユリの3人で、脱出用の魔道具を作成し、首飾りの下に隠しておく。さらに、マークさんが『鑑定』を阻害する魔道具を貸してくれたので、首飾りの裏に付けておいた。これで、首飾りを服の下に隠せば、相手にバレる事はないだろう。


 他の皆には、情報収集をお願いした。クランフォード商会の遊具の特許権が、何者かに奪われたことは市井の人々に広まっている。ネットが普及していないこの世界では口コミは数少ない情報源だ。てっきり、敵側も『俺が特許権を不当に譲渡した』というデマを流してくると思ったのだが、今の所その様子はない。


 その後も情報収集を続けてもらったのだが、俺やクランフォード商会に対して、悪意ある噂は聞こえてこなかった。敵の策が見えない状態が続き、何とも言えない不安が増してくる。


 そして、あっという間に1週間が経過した。




「それじゃ、お兄ちゃん。忘れ物はないね? ちゃんと全部()()した?」

「もちろんだよ。何度も確認したし、大丈夫さ」


 今日に備えて1週間準備してきたのだ。魔法銃やダンビュライトの首飾りはきちんと装備したし、隠し玉も用意してある。支店の皆に緊急時の対応も伝えたし、準備に抜かりはない。


「それじゃ、いくよ!」

「おう!」


 俺はユリの『転移』によって、王都のお店に移動する。


「……とりあえず大丈夫そうだね」

「そうみたいだな」


 『転移』した直後、ユリと二人で周囲を警戒したが、襲われるようにな事はなかった。敵の手として、転移した俺達を捕えて強制的に出頭できなくし、犯罪者に仕立て上げるというが考えられたので警戒していたのだが、どうやら大丈夫の様だ。


「行こう」

「うん!」


 『転移』直後が大丈夫だったからといって、その後襲われないとは限らない。俺もユリも警戒しながら王宮へ向かったが、問題なく門までたどり着けた。


「大丈夫、だったね。それじゃ、お兄ちゃん。後は頑張ってね」

「任せて! 行ってくる!」

「行ってらっしゃい」


 ユリの見送りに背中を押され、俺は王宮の門番に話しかける。


「アレン=クランフォードです。出頭命令に従い、登城しました」

「……確認した。ついてこい」


 門番はじろりと俺を見て簡単な身体検査を行った後、王宮の中に入って行った。俺も門番に続いて、王宮に入る。王宮の中を歩いていると、急に孤独感や無力感が押し寄せてきた。


(これは……この装飾品のせいか。そういえば、こんな気持ちで王宮を歩くのは初めてだな)


 もともと王宮には、王族の威厳を示すためにとても大きな装飾品が飾られている。モーリス王子と謁見するときや、『ロイヤルワラント』を授与された時は、ただ圧倒されただけだった。だが、ここが敵地だと認識した今、大きな装飾品からは圧力の他に強い圧迫感を感じる。まるで、装飾品が迫ってきているような錯覚を覚えた。


(落ち着け……いざとなったら『転移』で魔法銃を呼び出せるし、逃げる事だってできるんだ。この装飾品だって、魔法銃の一発で木端微塵だ。それに……俺には皆がついてる)


 俺の帰りを待っている皆を思い浮かべて、無力感と孤独感を振り払う。同時に、ダンビュライトが、俺の心を温かくしてくれるのを感じる。


(はは、そうだな。お前もいるし大丈夫だな!)

(肯定! 主、守護!)


 ダンビュライトにも励まされて俺は顔を上げた。大きな装飾品を見ても、もう何も感じない。


 そのまま少し歩くと、門番から扉の前に案内される。何度か王宮を訪れてはいるが、その扉は俺の知らない扉だった。


「ここが控室だ。準備が整うまで、この中にいろ」


 門番に言われて、俺は自分で扉を開けて控室に入る。控室の中は、簡素な椅子が4つ置かれているだけで、王宮の中とは思えないほど殺風景だった。


(基本罪人が使う部屋だし、こんなもんか)


 俺は椅子の1つに腰かけて、出頭命令を読み直して時間をつぶす。




 1時間程立っただろうか。控室の扉が、ノックもなしに開けられ、近衛兵が入って来た。


「アレン=クランフォードだな?」

「はい、そうです」

「ついてこい。皆様がお待ちだ。ほら、早くしろ!」


 近衛兵に急かされてながら、控室の近くの大きな扉の前に連れていかれる。


「ここが『裁きの間』だ。『裁きの間』では、平民のお前は許可なく発言する事は禁じられている。中に入ったら、許可がない限り黙っているんだ。いいな?」

「分かりました」


 許可なく話せない事はクリスから聞いていた。俺が了承すると、近衛兵が2人掛かりで大きな扉を開けたので、俺は『裁きの間』に入って行く。


 『裁きの間』はまるで裁判所のような部屋だった。真ん中に被告人用の机が置かれていて、その正面に、我が物顔の側室が座っている。側室の両脇には、カミール王子とサーカイル王子が座っており、さらに被告人用の机を取り囲むように、大勢の貴族達が座っていた。


(見覚えのある貴族はほとんどいないな。西()()派閥の貴族達か)


 この場が完全にアウェーである事を実感するが、意外と心は落ち着いている。失礼な態度にならないよう気をつけながら、中央に置かれたの机の前に進んだ。


「ようやく来ましたね。待ちくたびれましたよ」


 俺が机の前に立つと、側室がおもむろに口を開いた。近衛兵に呼ばれてからここに来るまで、そんなに時間はかからなかったはずだが、発言の許可をもらっていない俺は、反論することが出来ない。


(許可なく話せないって予想以上に辛いな……)


「さて……それでは裁判を開始します。被告人はそこの平民。罪状は我が子、モーリスが『ロイヤルワラント』を与えた商品の特許権を、勝手に他人へ譲渡したことによる、モーリスへの不敬罪です。告訴人は私、ブリンダ=ルーヴァルデン。なお、カミールとサーカイルも同意しています」


 側室が言い終わると、貴族達の間にどよめきが起こる。


「モーリス王子から受けた恩を仇で返すとは……」

「なんと恥知らずな」

「所詮は金に卑しい商人か」

「モーリス王子もお気の毒に」

 

(こいつら……普段はモーリス王子と敵対しているくせに)


 貴族達はモーリス王子に同情的な姿勢を示し、中には涙を流す者もいた。面の皮が厚いとはよく言ったものだ。だが、ここで反論しようものなら、許可なく喋ったとして、それだけで有罪となってしまう。俺は貴族達の演技を黙って見ていた。


「さて……被告人から弁護が無ければ、そこの平民を不敬罪による絞首刑とし、裁判を終了しますが、何か反論はありますか?」


 貴族達に何を言われても、俺が反論しないと分かったのか、側室は裁判を先に進めた。俺は手を挙げて発言の許可を求める。


「発言を許可して頂けますか?」

「許可しません」


(……は?)


 しかし、側室からの返事は、『発言を許可しない』という物だった。

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