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165【出頭命令】

 『魔導書貸出店』を後にした俺達は、ユリの『転移』で支店に戻り、来店して頂いたお客さんの対応を行う。


それから数日は、異様なほど静かな日常を過ごす事が出来た。実家に放置していた侵入者達の死体がいつの間にか消えていたので、俺達への襲撃が失敗に終わったことは、黒幕には伝わっているはずだ。バミューダ君とユリ、それにナタリーさんが交代で見張りを行い、24時間体制で警戒してもらったのだが、一向に敵は現れない。


 なぜ敵が襲ってこないのかは分からないが、おかげで新しい商品販売の体制を整える事が出来た。ユリに看板や宣伝版を描いてもらい、支店と王都のお店に設置する。


フィリス工房で生産してもらった魔道具のサンプルも、問題ない出来だったので、量産体制に入ってもらった。支店での販売は、俺の誕生日の2週間後、王都での販売は、1ヶ月後を予定している。


 ミッシェルさんも、チェスやリバーシ等の遊具を販売することは出来なくなってしまったが、新しい魔道具は問題なく販売できるので、それらの販売を口実に、西側の貴族にコンタクトを取っている。


 俺の誕生日から2週間が経過し、支店を再開すると今まで以上のお客さんが来てくれた。人が大勢押し寄せてくるので、この中に暗殺者がいないか警戒していたのだが、それも無駄骨に終わる。黒幕からしたら面白くない状況のはずなのだが、なかなか動きを見せない。


 そして、それからさらに1週間が経過した日。王城から俺宛に、出頭命令が下された。




「王城からの出頭命令、か。敵さんも考えよったな」


 ミッシェルさんがため息を吐きながらつぶやく。


 出頭命令が下されたその日、俺はユリに『転移』してもらって、ミッシェルさんやマークさんを、俺の研究室に来てもらった。盗聴の心配がなく、関係者全員を集めるとなると、研究室が都合良いのだ。実験室の中には、外から制御装置の指輪を使って『転移』させたテーブルとソファーを用意しており、クリスとミーナ様、それにバミューダ君はすでに研究室に入ってもらっている。


「起訴内容は『不敬罪』ですか。『ロイヤルワラントを授与された商品の特許権を譲渡する事は、王子に対する不敬にあたる』、と。そして、告訴人は側室。ふふふ、分かりやすい罠ですねぇ」


 マークさんも出頭命令が書かれた礼状を冷め切った目で見ながらつぶやいた。


「モーリス王子とは連絡取れたの? ほら、お兄ちゃんが開発した()()で」

「出頭命令が届いた事は伝えたよ。起訴内容を伝えたら驚いてた。側室に掛け合って起訴を取り下げさせるって言ってたけど……期待は出来ないかな」


 義理とはいえ、モーリス王子の母である側室には、モーリス王子が侮辱された場合、『不敬罪』を適用する権利がある。モーリス王子がどれだけ本気で動いてくれるかは分からないが、仮に本気で動いてくれたとしても、側室が起訴した内容を取り下げさせる事は難しいだろう。


「モーリス王子をどこまで信用してええんか分からんとなると、王城の中で、アレンはんの味方はおらんっちゅうことになる。アレンはんが成人しとるから、同伴も認めんゆうとるし、敵地に単身で乗り込む事になるで?」

「ですが、出頭命令に背けばアレンは本当に犯罪者となってしまいます。姑息な罠ですが、無視するわけにはいきません」


 出頭命令に背くという事は、起訴内容を認めたという事になるため、無条件で有罪となってしまう。その場合、王家が自らの威信にかけて犯人を捜すため、出頭命令に背くという選択肢は、()()はない。


「別にええやん。ここまで王家に睨まれたら犯罪者になっても変わらんやろ。アナベーラ商会が全力でアレンはんを匿ったるわ。快適な逃亡生活を約束したるで? それに、幸いモーリス王子は敵やないんや。モーリス王子が王太子になった時にアレンはんの罪状も解いてもらえばええ」

「で、ですが……その……」


 クリスが口ごもりながら俺を見る。何か言いたい事があるのは分かるのだが、上手く言葉を出せないようだ。


「あー、ブリスタ子爵令嬢としては、アレンはんが犯罪者になってまうのはまずいんか。そないな事になったら、婚約破棄せなあかんなるもんな」

「……え?」


 ミッシェルさんの言葉に驚きながらクリスを見ると、顔を真っ赤にしてうつむいている。


(そっか……子爵令嬢の婚約者が犯罪者じゃまずいもんな)


「それだけではありませんわ。アレン様が犯罪者になってしまったら、バミューダ様は犯罪者の弟になってしまいますの。その場合、私達の婚約も……」

「! それは嫌だ! ……です!」

「そうだね。俺もそれは嫌だから出頭しない事は考えていないよ」

 

 俺がそう明言すると、クリスとミーナ様、それにバミューダ君はほっと胸をなでおろした。


「せやけど……ほな、どうするつもりや? さっきも言うたけど、王城の中は敵だらけかもしれないんやで?」

「まずは、普通に起訴内容に反論します。両親の死亡届は受領されてますし、特許権は譲渡したのではなく、奪われたのだと説明するつもりです。そこから先は相手の出方次第ですね。ただ、万が一に備えて脱出用の魔道具を開発しておくつもりです」


王宮には、『転移』防止の魔道具が設置されているらしいが、ダンビュライトを持つ今の俺なら、『転移』防止の魔道具の動きを阻害して、強引に『転移』する魔道具を作れるだろう。


「強引やなぁ」

「それでこそ、アレンさんです。私は賛成ですよ」

「私も賛成! 犯罪者になるとしても逃げるより、正面突破した方が良いよ!」

「……そうですね。わたくしも賛成です。正面から戦って……それでもダメだった時は、家を捨てる覚悟を決めます」


 クリスがきっぱりと言い切ってくれる。家族が大好きなクリスが、家族より俺を選んでくれた事に、喜びを隠せない。


「で、でも……」

「大丈夫ですわ、バミューダ様。その時は私も家を捨てる覚悟を決めますわ!」

「ミーナ様……うん、ありがとう……です。お兄ちゃん、頑張って! ……です!」


 バミューダ君的には、婚約破棄されてしまう事が心配なのではなく、ミーナ様に家を捨てさせてしまう事が嫌だったようだ。ミーナ様もそれは分かっているのだろう。2人共、覚悟を決めた眼をしている。


「皆、ありがとう。出頭は1週間後になってるけど、ユリの『転移』を使えば一瞬で行ける。ぎりぎりまで、準備して()()に挑もう!」

「「「おー!」」」


 こうして俺達は、出頭に向けて準備を進めた。

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