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163【提案】

「えぇぇ……いきなりそんな事言われても」

「つべこべ言うなや。あんさんらやて、クランフォード商会からの発注が無くなったら困るやろ?」

「それは……そうですが」

「なら話は決まりや。4日後には魔道具の生産に精通しとるもんを連れてくるさかい、受け入れ準備しておくんやで?」

「4日後ですか!? 早すぎません!?」

「工房の設備は今のままで問題ないやろ。部品はわてのツテで、6日後には搬入できるようにしといたる。1週間後にサンプルを、2週間後には大量生産できるようにしとくんや。ええな?」

「そ、そんなぁ……」


 フィリス工房に着くなり、ミッシェルさんはマリーナさんを呼び出して、フィリス工房で魔道具の生産を請け負って欲しいと()()()した。急な事に戸惑うマリーナさんを置いてきぼりにして、とんとん拍子で話が決まっていく。


(マリーナさん、大丈夫かな? 完全にこっちの都合を押し付けちゃったけど……)


「あの――」

「――大丈夫ですよ、アレン様」


あまりに強引過ぎると思い、口を挟もうとしたら、ミケーラさんに止められた。


「え……大丈夫なんですか? マリーナさん、てんやわんやしてますけど……」

「突然の事に戸惑っているだけです。冷静に考えれば、ミッシェル様のご提案が素晴らしいものである事に気付きますよ」


 そうは言われても、あれだけてんやわんやしているマリーナさんを見ると、申し訳なくなってしまう。


「姉はあれで工房長ですからね。工房の皆に対する責任があります。昨夜から色々考えていたみたいですし、即決は出来ないのでしょう」

「……色々すみません」


 フィリス工房は、ここ数年、リバーシやチェスの販売に特化した工房としてうんようしてくれていた。それがいきなり、『生産できなくなりました』と言われたら、経営者としては、対処に困るだろう。


「あ、いえ! アレン様の責任ではありません! お気になさらないでください。それに――」


 ミケーラさんがマリーナさんを見た。


「分かりました! 分かりましたよ! 明々後日までに準備を整えます!」

最初(はな)からそう言えばええんや。ほな、よろしゅうな」

「うぅ……よろしくお願いします……」


 どうやらマリーナさんが決断してくれたようだ。


「――これからもお世話になるのですから」

「そうですね」

「フィリス工房をよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 こうして、フィリス工房で魔道具を作ってもらえる事になった。魔道具の作り方については、すでにミッシェルさんに伝えてあったので、俺は、1週間後にサンプルの確認だけしてくれればいいとの事だ。色々やることがあったので、甘えさせてもらう。


 その後、支店に戻って、ユリとこれからの事について相談した。


「王都に戻ろうと思う」

「え? 急にどうしたの?」

「モーリス王子やマークさんと色々相談したいんだ。色々と……ね」

 

 モーリス王子には、『音声を届ける』魔道具は渡している。待ち合わせは『音声を届ける』魔道具で行うが、事の詳細を話すのは対面の方が良いと思ったのだ。


「そっか……うん、分かった! すぐ行く?」

「早い方が良いと思う。モーリス王子次第だけど、なるべく早く行こう!」


 モーリス王子に相談したい事があると『音声を届ける』魔道具で連絡すると、『今日の昼にメン屋で』と返事があった。


 急いでクリス達に事情を説明し、ユリの『転移』で王都に向かう。


「前は1週間近くかかったのにね」

「本当にな」


 王都のお店の前で、ユリがつぶやいた。


 まだ、お昼までは時間があったので、先にマークさんに会いに、『魔導書貸出店』へ向かう。


 『魔導書貸出店』に入ると、マークさんが出迎えてくれる。


「おや? アレンさんにユリさん。予定より早いお戻りで――!?」


 マークさんは俺の首あたりを凝視すると、途端に険しい顔になった。


「それは……その首飾りをどこで手に入れたのですか!? いや、それより何があったのですか!? 説明してください!」


 普段は冷静なマークさんが、ここまで声を荒げるのは初めて見る。


「これは、俺とユリが実家に着いた時に襲ってきた近衛兵がつけていたものです。順番にご説明しますね――」


 俺は、ミッシェルさんに急いた説明と同じ内容の説明をマークさんにも繰り返した。


「――そんなわけで、状況を確認しに、モーリス王子と相談したかったのと……このダンビュライトについて、マークさんに教えて頂きたくてやって来ました」


 俺はダンビュライトの首飾りを外して、服の中から取り出そうとしたのだが、マークさんが遮る。


「首飾りはそのままで大丈夫です。ダンビュライトもその方が喜ぶでしょう……しかし、ダンビュライト……しかも、加工済み……となると……」


 マークさんは何かを考え込んでしまった。


「王族……それにしては……共闘? いや、あり得るのか?」


1人で考え込んでしまったマークさんに俺とユリが何も言えないでいると、俺達の視線に気付いたマークさんが、話し始める。


「すみません。考え込んでしまって……お二人とも辛い目に会われましたね。ルークさんと、イリスさんのご冥福をお祈りします。お二人とも、立派な方でしたのに……惜しい方を亡くしました」


 マークさんはそう言って、一度、頭を下げた後、俺の首飾りを見ながら話し続けた。


「そして、そのダンビュライトが施された首飾りですが、かなり質の良いダンビュライトが使用されています。()()が近衛兵に貸し出している物で間違いないでしょう」


 マークさんが、公爵や侯爵でなく、王族と断言してくれる。モーリス王子との話し合いの前に、それが分かって良かった。


「そう、ですか……ありがとうございます。そうかもしれないと思ってはいたんですが、確信が持てなくて……」

「アレンさん。確信が持てたら、どうするんですか?」

「……え? どうするって……」

「復讐するのですか?」


 マークさんが鋭い視線で聞いてくる。その視線は、消して怒ったり、批判しているわけではなく、ただ、しっかり考えて答えを出す事だけを強要してきた。


 俺は一度、深呼吸をしてから答える。


「はい。実行犯と黒幕に、自分達がしでかしたことの大きさを実感してもらいます」


 俺が答えると、マークさんの眼は鋭さを増したが、俺はマークさんの視線から目を逸らさなかった。


 しばらくにらみ合いが続いた後、マークさんが大きく息を吐く。


「ふー。なるほど、強い意志をお持ちだ。一時の感情で言っているわけではないようですね」


 マークさんの視線から鋭さが消えて優しく微笑んだ。


「分かりました。それでは、私もアレンさんをお手伝いしましょう」

「いいんですか!?」

「ええ。私も、愛弟子を殺されて、黙っているわけにはいきませんからね」


 マークさんはほほ笑んではいるものの、眼が全く笑っていない。内心が怒りに満ちていることが十分に理解できた。


「まずは黒幕探しからですかね?」

「ええ。そのためにこの後、モーリス王子と話すことになってます」


 モーリス王子が黒幕だとは思っていないが、黒幕がカミール王子かサーカイル王子の可能性が高い以上、モーリス王子に話を聞くのが、得策だろう。


 色々話しているうちに、お昼の時間になったので、ユリを追いて、『魔導書貸出店』を後にする。


「お、アレン! ()()だな! 一緒に飯でも食うか!」


 俺が、『魔導書貸出店』を出た直後、モーリス王子に声を掛けられた。

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