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160【悪夢11 最後の夜】

遅くなってしまい、申し訳ありません! ギリギリ間に合いました。

 首飾りを付けた瞬間、空気が澄んで周囲が明るくなったように感じる。


「うわぁー」

「これは……」


 そう感じたのは俺だけではないようで、他の皆も驚いていた。


(加工! 束縛! 解放! 感謝! 感謝! 感謝!)


 ダンビュライトから感じる意思が、歓喜しているのが分かる。


「そりゃよかったな」


(魂、浄化。怨念、消失。両親、穏やか。明日、昇天)


「――!? もしかして……父さん達の魂はまだここにあるのか?」


(肯定。怨念、呪縛、天の国、昇る、不可。浄化、完了。お別れ、時間、待機。切り離し、明日)


「……怨念があると、天の国には行けない。だから、お前が浄化してくれて、しかも現世から切り離すのも明日にしてくれたのか? 俺達がお別れを済ませられるように?」


(肯定!)


「まじか……」


(……お礼。感謝)


 ダンビュライトからは恥ずかしそうな照れているような感情も感じられた。


「お礼を言うのはこっちだよ……ありがとう。これで父さん達は安らかに眠れる」


 俺は、ダンビュライトにお礼を言って、首飾りをそっと撫でる。俺の言葉を聞いていた皆もダンビュライトが悪い物ではないことが、分かったのだろう。ダンビュライトに感謝の視線を向けている




 その後、ユリに床板と父さん達の遺体を『転移』させた。転移先は、俺とクリスが初めてデートした場所であり、その後もちょくちょく訪れていた場所。そして、父さんと母さんの一番の思い出の場所だ。


「俺達も行こうか」

「うん!」

「ええ、行きましょう」

「はい! ……です!」

「分かりましたわ」


 『転移』で行っても良かったのだが、皆でゆっくり歩いて行く事にした。何となく、父さんと母さんを思い出の場所で2人にさせてあげたかったのだ。


 俺達は、家の近くにある森に入って行く。その森の奥にある少し開けた場所に、父さんと母さんの遺体が横たわっていた。とても綺麗な青いバラに囲われて。


「……笑ってる」


 転移された影響か、風の影響か、父さんと母さんの顔にかけていたハンカチがずれて2人の顔が見えていた。一瞬、父さん達の苦悶の表情が見えてしまうと慌てたのだが、父さん達の表情は安らかな物だった。


(両親、苦しみ、消失。家族、揃う、歓喜)


「ダンビュライトが教えてくれたけど、俺達が来て喜んでるみたいだよ」

「そっか……お父さん! お母さん! 私、魔法を使えるようになったの! この力で皆をちゃんと守るんだ! だから、私達はもう大丈夫だから! 今までありがとね!」


 ユリが両親に語りかけた。


「お父さん、お母さん。短い間だったけど、本当に楽しかった! ……です! 2人の事、守りたかった……です。ごめんなさい……です。でも、これ以上家族は奪わせない! ……です! 僕が守る! ……です! だから、安心して! ……です! 本当にありがとう……です」


バミューダ君も泣きそうになりながら両親に語りかける。


「お義父様、お義母様。バミューダ様との婚約、認めて頂き、感謝しておりますわ。今後は、私がバミューダ様を支えますの。どうぞ、安心してくださいませ」


 ミーナ様もバミューダ君の隣に立って、語りかけた。


「お義父様、お義母様。アレンとの婚約を認めて頂き、ありがとうございます。わたくしも、全力でアレンを支えていきます。だから、安心してくださいね」


 クリスも俺の後ろに立って語りかける。


「父さん、母さん。今まで育ててくれてありがとう。父さんがユリを連れてきて、義妹が出来たし、バミューダ君が養子になって義弟も出来た。バミューダ君は、ミーナ様と婚約して、俺もクリスと婚約して……あっという間に大家族になったね。俺達は、父さんと母さんみたいに、互いを守りながら、支え合って生きていくよ。もう、これ以上は絶対に奪わせない。だから、安心して……ね」


 最後に俺が語り掛けると、父さんと母さんがほほ笑んだように感じた。ダンビュライトの言う通り、俺達の声が、父さんと母さんに届いたようだ。2人共、拷問されて殺されたとは思えないほど安らかな表情をしている。




「ねぇ! せっかくだから、お兄ちゃんの昔の話、聞かせてよ!」


 ユリが父さんの隣に腰かけて、俺に言ってきた。


「僕も聞きたい! ……です! お兄ちゃん昔の話、聞きたい! ……です!」


 バミューダ君も母さんの隣に腰かけて、せがんでくる。


「いいですわね! せっかくですわ。幼少期のご両親との思い出を共有して下しまし!」


 ミーナ様もバミューダ君の隣に腰かけて、話を聞きたがった。


「そうですね。わたくしも、アレンの幼少期の思い出はあまり聞いていません。ぜひ、聞かせてください」


 クリスも、ユリの隣に腰かけて、俺に向かってほほ笑んだ。


「分かった。それじゃ、覚えている限り話すよ。最初の記憶は3歳の頃かな。父さんに――」


 俺は皆の前に立って、話し始めた。父さんと母さんに色々な場所に連れて行ってもらった事。勉強を教えてもらった事。父さんがユリを連れてきて、なかなか心を開いてくれなくて苦労した事。母さんが、ユリが描いた家族の絵を大事そうに飾っていた事。リバーシを販売する時に父さんは俺の好きにさせてくれた事。上手くいかなくても、怒らなかった事。そして、色々フォローしてくれて、商会を立ち上げた事。隣町からの帰り道に俺とユリにアイスを買ってくれた事。なぜかいつも母さんには内緒だと言われた事。父さんが、フィリス工房でマリーナさんと二人でお酒を飲んでた事が母さんにバレて、ひと悶着あった事。翌日、母さんがつやつやしていて、父さんが寝不足気味だった事。ユリがミッシェル様から貰った栄養ドリンクでさらに父さんが大変な事になった事。家でのんびり過ごしていたら、襲撃されてそれを母さんが簡単に撃退した事。それがきっかけで、ユリと一緒に、母さんにトレーニングしてもらった事。


 皆が知らなかった父さんと母さんの話を順番に話していく。


 皆、俺の話を静かに聞いてくれた。お茶目な父さんの言動について話した時は、笑顔を見せてくれたし、母さんのトレーニングについて話した時は、クリスとミーナ様は引きつった顔を見せた。話が支店を開いてからの事になり、話の中に自分が出てくると嬉しそうにしたり、恥ずかしそうにしたりと、様々な反応を見せてくれた。


(本当に……最高の両親だったな)


 話しながら改めて実感する。


 そして、夜が明けた。

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