159【悪夢10 再び家へ】
150話から本話までのタイトルを変更しました。本文は変わっていないので安心してください。
「本当にアレンの家ですね……いえ、疑っていたわけではないのですが……」
「2人同時に『転移』出来るだけで、貴族から重宝されますのに……ユリ様は凄いですわ」
クリスとミーナ様はユリの『転移』に驚いていたが、バミューダ君は『何となく出来ると思ってた……です』と、特に驚いた様子もなかった。
皆揃ったところで、玄関から家の中に入る。
「――! これは……」
「ひっ! な、なんなんですのこれは!?」
居間に放置してきた、侵入者達の死体を見て、クリスとミーナ様が驚愕の表情を浮かべる。
「犯人の仲間だよ。こいつらは、俺とユリを誘拐しようとして、俺に殺された連中さ」
「アレンが? ………………そうですか。ご無事で何よりです」
クリスは意外そうに俺を見たが、何も言わずに、俺の背中を撫でてくれた。
「アレン様……その、この方々……身体の一部がありませんが、これをアレン様がやったんですの?」
「ええ。後でちゃんと説明しますが、新しい護身用の魔道具の力です」
魔法が使えるようになった事は、ここに来る前に皆に話していたが、『創作』でどんな魔道具を作ったかまではきりがなかったので話していない。
「な! こ、こんな凄まじい威力を発揮する魔道具を開発されたんですの!? そ、そんなものが世に出回ったら……」
「ご心配なく。この魔道具は販売する予定はありませんので」
俺が言うと、ミーナ様はほっとした様子を見せる。ちなみに、クリスやミーナ様の護身用に作る事も考えていたのだが、『扱いきれる自信がないし、奪われたら困るから』と断られた。
「こちらの方々の遺体はどうするのですか?」
「こいつらはこのまま放置する予定です。こいつらの仲間が様子を見に来た時に、牽制になるので」
「なるほど。ではお父様とお母様のご遺体についてですが、よろしければ、わたくしが『属性』魔法で状態を維持するようにしましょうか? 明日まででしたら現状を維持できると思います」
幸いにもこの時期は、昼間でもそこまで気温が高くならないので、父さん達の遺体が腐るような事はなかったが、出来るだけ綺麗な姿で送り出してあげたかったので、クリスの申し出はありがたい。
「そうだね。お願いするよ」
「はい。任されました」
クリスが父さん達の遺体に手をかざすと、遺体が青い光を放った。
「お父さんもお母さんも眠っているみたい……です」
「そう、だね……」
ハンカチがかかっていて、父さん達の顔が見えないバミューダ君の言葉が、俺の胸に突き刺さる。
(ハンカチをかけておいてよかった。あんな顔、バミューダ君には見せたくない。あの顔を知っているのは、俺だけで十分だ)
2人の顔を、犯人への憎悪と共に心に刻んだ。父さんの苦しそうな顔を。母さんの絶望に満ちた顔を。
「ねぇ、お兄ちゃん。お父さん達、別の場所に移動させてあげようよ。お家でって思ってたけど、ここじゃ、2人が可哀そうだよ」
ここは、家族で過ごした場所だが、同時に2人が拷問された場所でもある。確かに、お別れをするのであれば、別の場所の方が良いだろう。
「確かに……でも、どうやって移動しようか」
「移動先さえ決まれば、私が、床板を切り取ってから『転移』で床板ごと移動させるよ。どこに移動しよっか?」
「うーん……」
父さん達の部屋、玄関、お店等色々考えたが、しっくりくる場所はなかった。そんな時、クリスが俺に提案してくれる。
「あそこはどうでしょう? わたくしとアレンが初めてデートした……」
「! そうだね。そこにしよう。ユリ、頼める?」
「分かった! マーキングしてくるね!」
ユリが部屋を出て、転移先をマーキングしに行った。その間に、部屋の中を改めて見回して犯人の手掛かりになる物が無いか、探してみる。
(……こいつらの装備品は一般的な物か。近衛兵ってことを隠すためかな? 直接命令を受けたのは隊長さんだけって事だけど、命令書とかはさすがにないか………………ってあれ?)
隊長の遺体を見ていたら、何かを訴えかけてくるような気配を感じた。
(何だ? この感じ……もしかして)
俺は『鑑定』を発動してみる。
(………………ダンビュライト、お前か?)
ダンビュライトが必死に俺に訴えかけているのを『鑑定』を発動すると、はっきりと知覚できた。
「……なんだよ? どうして欲しいんだ?」
「?? アレン?」
突然声を出した俺を、クリス達は訝しげに見る。だが、俺は全神経を集中して、ダンビュライトが訴えていることを聞き取ろうとした。
(…………魂…………現世…………切り離す…………天の国…………送る)
「父さん達の魂を現世から切り離して天の国に送るってくれるのか?」
俺が声に出して答えると、ダンビュライトは嬉しそうに肯定する。
(確かダンビュライトの石言葉に『霊性』、『神性』、『高潔』、『浄化』だったな)
「………………どうして欲しい?」
いつの間にか戻って来たユリや他の皆が1人で話し続ける俺を心配そうに見つめているが、そちらに気を配る余裕がない。
(…………離れる…………主…………貴方…………つける…………認める…………完全…………力)
「首飾りを今の持ち主から離れて俺がつければ、完全な力を発揮できるって事か? 認めるってのはなんだ?」
(…………つけて…………つけて…………つけて…………つけて)
そこから先は『つけて』という意思しか感じなくなってしまった
「……分かったよ」
俺は隊長の首元からダンビュライトが施された首飾りを外す。それだけでダンビュライトの力が強まったのを感じた。
「お兄ちゃん。それ、つけるの?」
ユリが汚らわしい物を見る目で、首飾りを見ている。ユリはこの首飾りに自分の魔力を封じられているのだ。嫌な顔になるのも理解できる。それ以前に俺が隊長の遺体から首飾りを盗ったのを、快く思っていないのかもしれない。
「ああ。こいつがつけて欲しいんだってさ」
そんな盗人の常套句のようなことをいいながら、俺は首飾りを、自分の首につけた。