158【悪夢9 これから】
従業員の皆と話し終わってから、俺は1人でこれからの事を考える。
(結局、誰も辞めなかったな。これから……俺はどうすればいいんだろ。金は……まぁ、このまま収入が無くても数か月は問題ない。でも、もう遊具のアイディアなんてないぞ……)
この3年で思いつくだけの遊具は作り切った。けん玉や福笑い、竹馬や凧と片っ端から作っていったのだ。新しいアイディアと言われても、もう浮かんでこない。
(他の遊具……『テレビゲーム』。いや、作れるわけない。『ビリヤード』。平らな台さえあればいけるか? でもなぁ……『ダーツ』。んー、なんかピンとこないな。それなら『射的』とかの方が……あ)
そこまで考えてふと思い出したのだ。
(そうだ! マークさんに預けてた、魔道具の特許権がある!)
色々ありすぎて忘れていたが、マークさんに預けている特許権は奪われていないはずだ。販売はミッシェルさんに任せるつもりだったが、こうなった以上、クランフォード商会で売り出してもいいかもしれない。
(ミッシェルさんが来た時に、相談してみよう)
お店を続けるめどは立った。となれば次だ。
(父さんと母さんの復讐……)
これについては、手掛かりが無さすぎる。分かっているのは、王宮に勤めている近衛兵が実行犯だったという事だけだ。いっそのこと近衛兵を皆殺しにする事も考えたのだが、それだと無罪の人も殺してしまうし、何よりそれで始末できるのは、実行犯だけだ。もちろん、実行犯を許すつもりはないが、その命令を出した黒幕だって許すつもりはない。
ただ、いくら王宮の近衛兵を動かせる人間は限られているとはいえ、それでも該当する人間はたくさんいるだろう。
(戻ったらもう一度、家の中を調べてみるか)
正直、昼間に家に戻った時はショック過ぎて家の中を細かく見る余裕が無かった。今も、両親の遺体を見て、冷静でいられる自信はないが、初見の時よりはちゃんと見ることが出来るかもしれない。
そんなことを考えていると、店長室のドアがノックされた。
コンコン
(あれ? 誰か忘れてたかな? ……いや、全員と話したはず。誰だろ?)
「アレン君、ちょっといいかな?」
ノックをしていたのはおじさんだった。
「え? あ、すみません! 今開けますね!」
一応、店長という身分上、誰かが訪ねてきても自分で扉を開けることは無かったのだが、相手がおじさんなら話は別だ。俺は慌てて店長室の扉を開ける。
扉を開けると、そこにはおじさんの他におばさんもいた。
「おばさん? あ、どうぞ、中へ」
「すまんね」
2人を店長室のソファーに案内して、俺は向かいに座る。
「えっと……どうされました?」
「アレン君。妻から聞いたのだが、侵入者どもがダンビュライトを所持していたというのは本当か?」
「え、ええ。本当です。『鑑定』したので間違いありません」
「――!? 君は『鑑定』を使えるのか!? いや、それよりも、侵入者どもはダンビュライトを使って魔法を無効化していたのか!?」
「ええ。していました」
「…………そうか、本当によく無事だったな」
「ユリのおかげでどうにか助かりました。それより、ダンビュライトがどうしたんですか?」
「そ、それは……」
おじさんが言いよどむ。
「教えてください、お願いします! あの強力なアクセサリーについて、少しでも情報が欲しいんです!」
俺が懇願すると、おじさんはおばさんと顔を見合わせた後、口を開いた。
「いいかい、アレン君。ここから話すことは国家機密だ。注意してくれ」
「分かりました」
俺は一言も聞き漏らすまいと、おじさんの言葉を注意して聞く。
「ダンビュライトのアクセサリーは希少な物だが、貴族であれば持っていても不思議ではない。だが、魔法を無効化する特性を持たせるには、ダンビュライトに特殊な加工を施さなければならず、それが出来るのは、ごくごく限られた人間だけだ」
「………………という事は、犯人は」
「ああ。大分絞られる」
親父さんの言葉に集中したいのに、心臓がバクバクうるさい。
「ただでさえ、王宮の近衛兵を動かせる人間は限られている。さらにダンビュライトのアクセサリーを持つ近衛兵を動かすとなると、伯爵位を持つ者でも無理だ。最低でも侯爵位、いや、公爵位や王族でないと無理だろうな」
黒幕は、公爵か王族。大分絞られた。だが、それでもまだ複数いる。その上、相手が、公爵や王族となると、これ以上の情報を仕入れるのが難しい。とはいえ、大分前進したのも事実だ。
(公爵位や王族で怪しい動きをした者がいないか、モーリス王子に聞いてみよう)
復讐の相手探しについても、方針は決まった。あと、やらなければならないのは、家にある父さんと母さんの遺体の対応だ。
「情報ありがとうございます。……あの、おばさん、父さん達の遺体ですが……」
「死亡届は受理されたわ。事情を説明したら、明日の早い時間に教会の方が来て下さるそうよ。なるべく綺麗な状態で送りだしてあげましょう」
遺体は時間が経つとどんどん痛んでいく。父さん達はただでさえ、遺体の発見までに1日かかってしまっている。なるべく早く埋葬してあげるべきだろう。
「そうですね。ユリとバミューダ君を連れて、家に戻ります」
「それがいいわ。あ、それと、家から必要な物を運び出していつでも逃げれる準備をしておいた方がいいわね。侵入者の黒幕が、事態に気付くまでにまだ数日はかかると思うけど、いつまでもあの家にいるのは危険よ。あぁ、侵入者どもの遺体は放置しておきなさい。あれは良い牽制になるわ」
「……え? 家の中に放置するんですか?」
「大丈夫よ。数日中に回収部隊が来ると思うから。家の中で腐るような事にはならないわ」
回収部隊の後をつければ、黒幕にたどり着けるかもしれないと思ったが、『転移』で移動するので、まず無理との事だった。ならば、牽制の意味も込めて、そのままにしておくのがいいだろう。
「分かりました。色々とありがとうございます」
「いや、これくらいしか出来ないが、これからも頼って欲しい」
「困ったことがあったら、何でも言ってね」
2人の暖かい言葉に、また泣きそうになりながらお礼を言った。
その後、休憩室にいた皆のもとに戻り、ユリとバミューダ君を連れて、最後のお別れをしに家に向かう事を伝えると、クリスとミーナ様が一緒に来たいと言い出した。2人共もう家族のようなものだったし、お別れを言いたいのだろう。
ユリ曰く、2回に分ければ、5人を『転移』させることは可能との事なので、最初に俺とクリスを『転移』してもらい、次にユリとバミューダ君、そしてミーナ様が『転移』する。
こうして俺達は、皆で家に戻って来た。