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154【悪夢5 侵入者の目的】

「え……俺ですか?」


 予想外の指摘に思わず聞き返してしまう。


「で、ですが、奴らはユリを傷つけないように命令されていましたよ? 実際、俺は蹴っ飛ばされてあばらを折られましたし……」


 どう考えても、ユリの方を大事に扱っていたと思ったのだが……。


「それは、君を操るためにはユリちゃんが無傷の方が都合がいいからさ。『義妹(ユリちゃん)を傷つけられたくなければ、言う事を聞け』と言われれば、君は逆らえないだろう?」

「それは……まぁ……」


(否定できない!)


 隣でユリがにまにましているが今は置いておこう。


「それじゃ、犯人の目的は母さんと俺、という事ですか?」

「……いや、そうじゃないんだ」

「え? じゃあ、父さんと俺?」

「そうとも言えるが……それも正確じゃない」

「――貴方!」


 おばさんがおじさんを制した。だが。おじさんは話し続ける。


「こうなってしまった以上、知るべきだ。辛い事だがな……」

「――ですが! ……いえ、分かりました」


 おばさんはまだ何か言いたそうにしていたが、言葉を飲み込んだ。


「いいかい、アレン君。奴らの目的は君と君がルーク殿に預けていた特許権だ」

「……え?」


(俺が父さんに預けていた特許権? え……待って……それじゃ、父さん達が死んだのって……)


「……俺のせい?」


 てっきり、母さんに何かしらの恨みを持つ者の犯行だと思っていた。もしくは母さんに憧れていた者が父さんを妬んでの犯行とか。だが、違ったのだ。


「俺が……特許権を預けていたから? 俺が……俺のせいで……俺さえいなければ――」

「――違う! 違うぞ、アレン君! 悪いのは君じゃない。自分を責めるな!」


 おじさんが慰めてくれる。だが、俺が特許権を預けなければ父さん達が死ななかったのは事実だ。


「そうよ! こうなる可能性は予想していたのに対処できなかった私達が悪いの! あなたは何も悪くないわ!」


 おばさんも慰めてくれる。だが、俺はこうなる可能性すら予想できなかった。


「お兄ちゃん……」


 ユリは何も言わずに背中に手を当ててくれる。何を言っても慰めにならないことを理解しているのだ。


「特許権……左腕……そっか。そのために母さんは……」


 特許権の譲渡には、保有者が同意している事を魔道具に記録させなければならない。


 おそらく侵入者達は、父さんに特許権の譲渡を迫り、断られたから父さんの左腕を切り落としたのだろう。だけどそれでも父さんが特許権を譲渡しなかったから、父さんの目の前で母さんを辱めたのだ。


 確証はない。でも俺は確信している。


(馬鹿だなぁ……特許権なんて譲渡しちゃってよかったのに……そんなことより、生きて、いて、くれた方が、ずっと……うぅ……)


 あふれ出す涙を止めることが出来ない。


「ぅぅううあああー!!」


 俺は声を上げて泣いた。




 どれくらい時間が経っただろうか。俺は頭を抱えて、ずっと泣き続けていた。おじさん達がずっと慰めてくれたようだが、その声は俺には届がない。だが、背中に感じるユリの手のぬくもりは、俺の心をなだめてくれた。


(なんでこんな事になっちゃったんだろう……)


 少しだけ落ち着いた心で、俺は考える。


(俺が特許権を預けたから? 色々開発したから? 裕福になったから? ……いや違う。俺達は何も間違っていない。こんなことをするクズどもがいるからいけないんだ)


 どんなに悔やんでも、父さんも母さんも戻ってくることはない。再び、彼らのぬくもりを感じることはないのだ。でも、俺にはまだぬくもりが残っている。


(これ以上は絶対に奪わせない。奪われる前に殺してやる!)


 守るためには力が必要だ。そして、力は持っているだけじゃ意味がない。力を誇示して、周囲を牽制しなければ、今回のようなことがまた起きてしまう。


(ユリだけじゃない。クリスやバミューダ君……他にも大勢の大切な人達がいるんだ。彼らを守るためにも、俺は力を示さなきゃいけない。俺の大切な人に手を出した事を、後悔させてやるんだ!)


相手がどこの誰であっても絶対に許さない。この世界はなめられたら終わりだ。やられた分はきっちりやり返す。


 俺は、自分の大切な物を守るために『復讐者』になる事を決意した。




「アレン君、だから、君が――」

「――ありがとうございます。もう大丈夫です」


 慰めてくれるおじさんを制して、俺は顔を上げる。


「取り乱してしまい、すみませんでした。これからの事を話しましょう」

「そ、そうかい? だけど、そんなに焦らなくても大丈夫だよ?」

「いえ、もう大丈夫です。それより、先の事です。どうすればいいでしょうか?」

「そうだな……。まず、イリス様とルーク殿の死亡届を役所に提出する必要があるが、これは私がやっておく。死亡届が受理されれば、明日にでもお二人のご遺体を教会の方が搬送して下さるだろう。それまでに2人とお別れを済ませておきなさい。ここまではいいかな?」

 

 俺とユリは黙って頷く。


「よろしい。出来ればゆっくりお別れさせてあげたいんだが……アレン君、君には他に急いでやってもらわなければならない事があるんだ」


 おじさんが申し訳なさそうに俺を見る。


「構いません。なにをすればいいでしょうか?」

「……隣町の役所に行って、支店で取り扱っている商品の特許権の状況を確認してくるんだ。もし、特許権が譲渡されていたら、急いで支店の在庫を処分してきなさい。それと、追加で受注している分があれば、それもキャンセルしてくるんだ」

「………………ぇ?」


 思いもよらぬ言葉に思わず言葉を失ってしまう。


「奴らは君の誕生日の前日、つまり今日、特許権を譲渡させた。君が成人して、ルーク殿から特許権を譲渡される前に、実行したんだろうな。いいかい? やり方が強引だろうが、犯罪だろうが、正式に譲渡されてしまったんだ。つまり、君達の支店で取り扱っている商品の特許権は、もう君達の手にはない。譲渡の手続きがあるから1日くらいは猶予があるが、それまでに支店の在庫を処分しておかないと面倒なことになるぞ」


 確かに、特許権を失った以上、今までと同じように販売することは出来ないだろう。だが、それよりも俺はおじさんの言葉に引っ掛かりを覚えた。


「えっと……おじさん。俺の誕生日、今日だよ?」

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