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153【悪夢4 ミルマウス家】

「さてと……いつまでもこうしてはいられない。さっきも言ったけど、マナの両親に相談してみよう」

「そうだね。……うん、行こう!」


何とか空元気が出せる位には落ち着いてきた。それに、いつまでもここにいるのは危険かもしれない。早く、次の行動に移るべきだろう。


俺とユリは、荒らされた自分達の家を出て、マナの家に向かった。


「マナピの家は大丈夫だよね?」

「……多分な。あいつら、俺達を狙ってたみたいだし」


 国の外れにあるこの町では家と家の間は離れている。俺達の家を襲うために、わざわざ周りの家を襲うような事はしない……と思いたい。


 途中から小走りになってマナの家に向かう。


マナの家に着き次第、俺は玄関を叩きながら叫んだ。


「すみません! アレンです! おじさん、おばさん! いらっしゃいますか?」


 返事はない。嫌な予感が脳裏をよぎる。


「おじさん? おばさん? いないんですか? 開けますよ?」


 玄関の扉に手をかけると、ガチャリと音がして扉が開いた。


「……鍵が開いてる」

「――!」

「――おじさん! おばさん!」


 俺とユリは慌てて家の中に駆け込んだ。


(血の臭い……は、しない。でも、床が汚れてる……)


 血の臭いがしない事に安堵したが、何かが起きたのは間違いない。


「お兄ちゃん!」


 ユリが何かを指差しながら叫ぶ。


「――!」


 ユリの指さす先を見ると、そこには両手を縛られ、猿ぐつわをされたマナの両親の姿があった。俺は慌てて2人のもとに駆け寄り、2人に『鑑定』を使う。


「……大丈夫! 息はあるし、怪我もしていない。だけど……睡眠薬?」


 『鑑定』によると、かなり強力な睡眠薬を摂取している事が分かった。


「睡眠薬なら『回復』魔法で解毒出来るよ! 任せて」

「頼む!」


 ユリは俺と場所を変わり、さっそく『回復』魔法をかけ始める。その間に俺は、家の中からナイフを探し出し、2人の拘束を解いていく。


「ん……」

「あれ……なんで床で?」


 少しすると、ユリの回復魔法が効いてきたのか、2人が目を覚ました。


「おじさん! おばさん!」

「……アレン君? ユリちゃん?」

「2人共どうしてここに? ――! イリス様! 早くイリス様の所に! うっ……」


 おばさんがはっとした表情になり、立ち上がろうとするがすぐに座り込んでしまう。


「無理しないでください! こちらに座って……」

「私、お水持ってきますね!」

「そ、それより君達! ここは危険だ! すぐに逃げなさい!」

「そうね! マナの所に行って、あの子と一緒に隠れていて! あの子ならうまくやるから!」


 何とか立ち上がったおじさんとおばさんが、水を取りに行こうとしたユリを制して俺達を逃がそうとする。


「どういうことです? 何か知っているんですか?」

「イリス様に危険が迫っているんだ。悪いが、詳しく説明している時間がない。早く逃げてくれ!」


 そう言っておじさんは壁に掛けられた剣を持って出て行こうとした。おばさんも武器の準備を始めている。


「待ってください! 俺達の家にいた敵なら倒しました。だから、ちゃんと話をしてください!」

「………………え? 倒したって……君が、かい?」

「ええ。俺とユリで倒しました」


 おじさんは信じられない物を見る目で俺達を見た。おばさんも、手が止まっている。


「そ、そうか……それならよかった。それで? イリス様とルーク殿は今どちらに?」

「…………その……父さんと母さんは亡くなりました。殺されたんです」

「な――!」

「そんな……あぁ、なんてこと……」


 今度は、おじさんは固まってしまい、おばさんは泣き崩れてしまう。


「何を知っているんですか? 全部説明してください!」

「………………分かった。すべて話すよ。こうなっては隠す意味はない。少し長くなるからそこに座りなさい」


 おじさんは俺達にテーブルを勧めて、自分はその向かいに座った。

 

「何から話そうか……そうだな。まず私達の事から話そうか」


 話し始めたおじさんにおばさんが水を差しだす。おじさんは差し出された水を飲んでから続きを話しだした。


「私達ミルマウス家は、いわゆる普通の家ではないんだ。ミルマウス家は、イリーガル家の諜報組織の一員なんだよ」

「――え?」


 予想だにしていなかった話に、俺は言葉を失う。


「……もしかして、マナピも……ですか?」


 幼いころからマナと友人だったユリが、おじさんに聞いた。


「そうだよ。ミルマウス家の人間は、幼い頃から諜報員となるための教育を受けて育つからね」

「そうだったんですね……」


 普通の家に産まれたはずのマナが読み書きだけでなく、計算まで出来るのはそういう理由らしい。


「マナは、ユリちゃんと遊ぶ時間を作るために、必死に勉強を終わらせていたよ」

「そうなんですか?」

「ああ。別に任務でユリちゃんと仲良くしていたわけじゃないから、そこは誤解しないでやって欲しい」


 マナが諜報員と知ってショックを受けているユリにおじさんが言った。


「あ、はい。大丈夫です。ただ、私の知らないところで、マナピが苦労してたんだなって思うと……」

「ユリちゃんが気負う事はないよ。私達が諜報員である事は極秘事項だからね。むしろ、ユリちゃんに『知られていなかった』ってマナが知ったら、喜ぶだろうな」

「確かに! そうですね」


 『やったね! 私の擬態完璧!』。そんなマナの声が聞こえてくるようだ。


「話を戻すが……諜報員としての私達にイリーガル家から課された任務は『平民となってしまったイリス様の身に危険が迫った時に、イリス様の身を守る事』だったんだ。イリーガル家には敵が多いからね。平民になられたイリス様の事を心配されたのだろう」

「……そう、だったんですね。驚きました」

「隠していてすまないね」

「いえ……それで、お二人はなんで倒れていたんですか?」

「それが……分からない。記憶にないんだ。覚えているのは、仲間の諜報員から私達の元に暗号書が届いて……イリス様に危険が迫っているのを知って、慌ててイリス様のもとに向かおうとしたところまでしか覚えていないんだ」

「奴らのせいよ」


 おじさんが申し訳なさそうに答えた後、おばさんが続けて答えた。


「貴方が家を出ようとした時、急に黒子のような格好をした男達が侵入してきたの。貴方は何かを注射されてその場に倒れて、私も捕まってしまって……気付いたら床で寝ていたわ」


 おそらく、2人共その時に睡眠薬を注射されたのだろう。侵入者達は父さんの身体を椅子に縛り付けていたし、母さんの身体にも()()していた。その間、邪魔されないようにおじさん達を眠らせたに違いない。


「アレン君、それにユリちゃん。本当に申し訳ない! 私達が不甲斐ないばかりに……」

「イリス様達を守るのが私達の任務だったのに……本当にごめんなさい!」


 俺達が黙っていると、おじさん達が謝ってきた。


「そんな……頭を上げてください。悪いのは襲撃した奴らです」

「そうですよ! おじさん達が謝る事じゃないです!」


 そうは言ってもそうそう割り切れる物ではないのだろう。おじさん達はなかなか頭を上げない。


「父さん達の事は……まだ割り切れてはいなんですが……それでも、今考えるべきはこれからの事です。これからどうするべきか、相談させてください!」

「これからの事…………そうだな。確かにその通りだ。まずは、ここを離れるべきだろう。敵を倒したなら、そこまで急がなくても大丈夫だとは思うが、奴らはまた来るぞ」

「そうですね……奴ら、ユリを狙っているようでしたから」

「いや、厳密に言えばそうじゃない」

「え……どういうことですか?」

「ユリちゃんじゃないんだ。奴らの目的は君なんだよ。アレン君」


 おじさんは俺を見ながら言った。


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