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149【帰路4 支店にて】

 俺達が隣町に着いたのは、丁度お昼時だった。


「半年振り……かぁ」

「うわぁ……なんか色々懐かしいなぁ。お兄ちゃん! 早くお店に行こう!」

「うん……そうだね」


 3年間働き続けた町なのに、半年いなかっただけで何もかもが新鮮に見える。わくわくする状況のはずなのだが、俺はテンションを上げることが出来ない。


(結局、俺は盗賊を殺せなかった……)


 どうしてもそのことが頭から離れないのだ。


「もー! クリスさんやバミューダ君達と半年ぶりに会えるんだよ! そんなんでどうするの! ()()()なら、また私が付き合うから。その時に克服すればいいの!」

「分かってる……分かってるんだけどね……」

「はぁ……もうしょうがないなぁ。ま、クリスさんならうまく慰めてくれるか。ほら、行こ!」


ユリに急かされて俺は支店向けて馬車を走らせる。


「あ! 見えてきた! 見えて来たよ!」

「本当だ。うわ、相変わらず大混雑だな」


 支店は、お店の外までお客さんで賑わっていた。向かいのベーカリー・バーバルもお昼で込み合っていたため、この辺一帯が人であふれかえっている。


「あちゃー、これじゃ皆に挨拶するどころじゃないね。お兄ちゃんものんびりクリスさんに甘えられそうにないし……お土産だけ渡して先に家に行く?」

「そうだね。そうしようか」


(今、クリスに甘やかされたら泣いちゃいそうだしな……)


 俺達は馬車を降りて、従業員全員用のお土産(お菓子の詰め合わせ)を手にお店に向かう。裏口から休憩室に入ると、バミューダ君とミーナ様が休憩中だった。


「「ただいま!」」

「あ! お兄ちゃん! お姉ちゃん! おかえりなさい! ……です!」

「アレン様! ユリ様! お久しぶりですわ!」


 俺達が顔を見せると、2人共、飛び上がらんばかりに喜んでくれる。


(うちの義弟(バミューダ君)義妹(ミーナ様)が可愛すぎる)


「休憩中にごめんね。お土産を持ってきたんだ。皆で食べて」

「わぁ。ありがとう! ……です! って、お兄ちゃん達どこか行っちゃう? ……です?」

「皆忙しそうだから先に実家に行ってくるよ。終業後に戻ってくるから」

「帰ってきたらゆっくり話そうね!」

「分かった! ……です! 皆に伝えておく! ……です!」

「今夜はパーティーですわね! 準備は任せてくださいまし!」

「あはは、いいね。話したい事がいっぱいあるし、皆でパーティーしようか。父さん達も連れてくるよ」


 俺達も皆と話したいことが山ほどあるのだ。個別に話すより、皆で集まって話した方がいいだろう。そう思ったのだが、バミューダ君達は怪訝そうな顔をした後、3人で内緒話をしていた。


「(お兄ちゃん、もしかして今日が自分の誕生日だって忘れてる? ……です?)」

「(そうかも……昔から誕生日忘れる事多かったし)」

「(まぁ! ではサプライズパーティーにしましょう。ユリ様、上手くお願いしますわ)」

「(任せて!)」


 3人は内緒話をしているつもりのようだが、その声は俺に聞こえている。


(あ、そっか。今日は俺の誕生日だっけ。前世の誕生日と変に近いから、いつも忘れちゃうんだよな)


 今日が自分の誕生日である事を思い出したが、せっかくサプライズパーティーを用意しようとしてくれているんだ。それなら、知らないふりをしておいた方が良いだろう。


「それじゃ、また後でね!」

「午後も頑張って!」

「いってらっしゃい! ……です! お土産ありがとう! ……です!」

「お気を付けて、ですわ!」


 テンションを上げられないと思っていたが、皆と話すと自然とテンションが上がってくれた。


「早く皆に会いたいな」

「あ、お兄ちゃん元気になってきたね。ふふ。良かった良かった」

「はは。心配かけてごめんね。お土産は渡せたし馬車に戻――!」


 裏口から店を出て、馬車に戻ろうとした時、店の外で客の整理をしているクリスが目に入る。


「クリス……」

「え? あ、本当だ」


 話しかけたいが、ぐっと我慢した。クリスは忙しそうに客の整理をしている。今、俺が話しかけたら邪魔になってしまうだろう。


「クリスさんと話してきなよ、お兄ちゃん。お客さんは私が整理しておくから」

「――! ありがとう。頼む!」


 言うが早いか、俺はクリスめがけて駆けだした。


「クランフォード商会に入る列の最後尾はこちらです! 入場を希望される方は――」

「――クリス!」

「――! アレン!?」


 俺に気付いたクリスが駆け寄ってきて、俺の両手を握りしめる。


「アレン! おかえりなさい!」

「ただいま、クリス。元気そうで良かったよ」

「お店が大繁盛していますからね! 元気でないと……って、あ! わたくし、お客様の整理の途中で!」

「大丈夫だよ。ほら」


 クリスが駆け寄ってきてくれた直後には、ユリが客の整理を開始していた。


「うちの義妹は気配り上手なんだ」

「ほっ……す、すみません。つい」

「ううん。俺こそ忙しい時に声をかけてごめんね。色々話したいけど今は時間内から後でゆっくり話そう。終業後に戻ってくるから」

「分かりました。楽しみにしていますね。(今日お渡しできそうで良かった……)」


 最後の言葉は、俺にきかせるつもりは無かったようだがしっかりと聞こえてしまう。どうやらクリスも俺にプレゼントを用意していてくれたらしい。嬉しさの余り、可愛く笑っているクリスを思わず抱きしめてくなるが、理性を総動員して抑える。


「それじゃ、また後で」

「ええ。また後で」


 名残惜しいが後でゆっくり話せるのだ。俺はクリスの手を放して、ユリの元へ向かった。


「ユリ、ありがとう」

「あれ? もういいの?」

「うん。挨拶は出来たし、後は終業後にゆっくり話すよ」

「そっか……うん! 分かった!」


 ユリと一緒に馬車に戻って、今度は実家に向かう。


「さぁ、次はいよいよ父さんと母さんだ!」

「早く会いたいなぁ。ふふ、びっくりするだろうね! 私達が魔法を修めたって知ったら!」

「ああ! 魔道具も見てもらいたいし、実験室も見てもらいたい。……俺の実験室、散らかってるって怒られるかな?」

「あ……お父さんはまだしも、お母さんは……」

「ちょっとその辺で止めて、実験室の片づけを――」

「――だめー! お兄ちゃん、片づけ始めると長いんだもん! 帰ってから皆で片づけよ?」

「片付けの前に母さんに怒られる気が……」

「それは甘んじて受けてください」

「うぅ……分かったよ」


 そんなことを話しながら、馬車を進めると、懐かしい景色が見えてくる。家まであと少しだ。


「もうすぐだね!」

「そうだな!」


(帰ったらまず何話そうかな。やっぱり魔法の事かな)


 そんなことを考えながら、俺は馬車を走らせた。

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