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148【帰路3 『殺す』という事】

本話も残酷な描写があります。苦手な方はご注意下さい。

 その後も俺達は盗賊を倒しながら帰路を進んだ。2回目以降は、最初のようにパニックになることもなく、冷静に対処できたと思う。


(ちょっとはましになったかな?)


そんな甘い事を考えていると、ユリから指摘が入る


「さて、問題はここからだね。お兄ちゃん」

「……? 問題?」

「拘束具、今ので最後でしょ? 次、盗賊が出たら、()()()()()()()()()

「――あ! ……そっか。そうだね」


 今まで盗賊達の、足を吹き飛ばしたものの、命を奪った事は無かった。だけど、拘束具が無い以上、次の盗賊は()()()()()()()()()いけない。俺にそれが出来るだろうか。


(大丈夫、出来るはずだ。大丈夫、大丈夫……)


「お兄ちゃん。『大丈夫だと思ってるって事は大丈夫じゃない証拠』、だよ。それに、『人を殺す事を大丈夫にしちゃいけない』ってお母さんも言ってた。『大丈夫じゃないけどそれでも()らなきゃいけないから()るの』って」


(『()らなきゃいけないから()る』。そうだ。これは殺されないための義務なんだ。他の人を殺させないための義務なんだ。やりたいわけじゃない。義務だからやるんだ)


 そう考えると、気持ちが少し楽になってくる。


「……ありがとう。もう大丈夫だよ」

「だから……」

「――あ」

「ふふ。まぁ、その先は本番になってみないと分からないよね。私もそうだったから。――というわけで、お兄ちゃん。2キロ先、盗賊5人だよ」


 まるでチュートリアルのように盗賊が現れた。


「分かった」


 今までと同じように、気付いていないふりをして馬車で近づいていく。


「こっちに気付いたみたい。道に1人残して道の両脇に2人ずつ分かれたよ」

「了解」


 これも今まで通りだ。もう少し近づけば、俺にも足止め役の盗賊が見えてくるだろう。


(いた!)


 道の真ん中にうずくまっている男がいた。まだ距離はあるが、俺は馬車を止めてから、何も気付いていないふりをして、男に声をかける。


「大丈夫ですかー?」

「あ、足をくじいてしまって……助けてください!」

「(茂みの中の盗賊達がこっちに向かってきてるよ)」

「(分かった)」


 俺は馬車を降りて男の方に向かう。戦いになった時に後ろに下がれるスペースがあった方が戦いやすい事に気付いたのだ。当然、魔法銃は引き抜いておく。


(前は、馬車越しに撃って危うく馬車を壊すところだったからな。あと、10m……そろそろか)


俺は左の茂みに魔法銃を向けて声を張り上げた。


「動くな!! 大人しく投降しろ! さもなくば撃つ!」


 今回は拘束できないので投降しても殺すのだが、それを盗賊達に教える必要はない。


「は? ぶっ! あはははは! なんだそれ子供のおもちゃか!?」

「そんなんで俺達をどうしようってんだ? あぁ!?」


 左の茂みから、2人の盗賊が出てきた。だが、右の茂みの2人はまだ隠れたままでいる。


 俺は、左の茂みに魔法銃を向けて声を張り上げた。


「そっちの2人もだ! 隠れているのは分かっているぞ!」


気付いていないふりも出来たが、それでは挟撃されてしまう。前の戦いで、敵は目に見える範囲に固まっていた方が戦いやすい事に気付いたのだ。


「ほう? 俺達にも気付いていたか……」

「っけ。索敵はお上手、ってか?」


 右の茂みから、2人の盗賊が出てきた。道の真ん中でうずくまっていた盗賊も含めて、5人全員が視界に入っている。


(よし! 後はこいつらを()()()()()


 魔法銃の照準を盗賊の頭に合わせた。引き金を引けば、殺すことが出来る。


(殺すんだ。ここでこいつを殺さなきゃ、こいつはこれからも大勢の人を殺す)


 後は引き金を引けばいいだけ。だが、その引き金が異様に重くて引くことが出来ない。


(指に力が入らない!? なんで!?)


 足に照準を合わせていた時は、引き金を引く事が出来た。だが、頭に照準を合わせているだけで、引き金を引いたら相手を殺すという、ただそれだけの違いで、引き金を引くことが出来ない。


()るんだ! ()ることが俺の義務だ! やりたくない。でもやらなきゃいけないんだ!)


 魔法銃を持つ手が震える。引き金を引く指も震えてしまい、力が入らない。


「はぁ……はぁ……」


 視界が暗くなっていくのを感じる。魔法銃と照準を合わせた男の事しか見えない。


「お兄ちゃん!」

「――!?」


 ユリの言葉で暗くなっていた視界が開けた。それと同時に、盗賊達がこちらに向かって歩いてきていることに気付く。


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


ドバン! ドバン! ドバン! ドバン! ドバン! ドバン! ドバン!


 とっさに俺は盗賊達の足めがけて魔法銃を乱射した。


「ギャー!」

「あ、足! 俺の足が!」

「なんだ!? 何がおきた!?」

「いてぇ……いてぇよお……」


 目の前の四人の盗賊達が、足を失って地面に転がる。


「はぁーはぁーはぁーはぁー」


 俺は息を切らして、その場に座り込んだ。手だけでなく、身体中が震えてしまい、足に力が入らなかったのだ。


「人を殺すって難しいよね」


 道の先から戻って来たユリが声をかけてきた。


「え……あ……」

「最初の足止め役の人、逃げようとしたらから殺しておいたよ」


(最初の足止め役の人……そうだ。せっかく視界に入れておいたのに、また俺は周りが見えなくなって……)


「……ごめん」

「気にしないで。お兄ちゃんは優しいから」


(違う。こんなのは優しさじゃない。ただ臆病なだけだ)


俺が何も言えないでいると、ユリは地面に転がった盗賊達の首を切っていった。


「ぐ……」

「が……」

「ぎゃ……」

「――! 投降する! 俺は投降する!」


 最後の1人となった盗賊が、無慈悲に片付けをしていくユリを見て叫んだ。


「拘束具がもうないの。だから投降しても殺すよ」

「な……て、てめぇらには慈悲はねぇのかよ!」

「もちろん。盗賊にかける慈悲はないよ」


 そう言ってユリは最後の盗賊の首を切り落とす。結局俺は、ユリが盗賊を殺すところをただ見ていただけだった。


「……ごめん。ごめんね」

「仕方ないよ。最初の1人が一番大変なんだもん。私はお母さんに強制的に乗り越えさせられたけど……。()()()だよ! お兄ちゃんが乗り越えられるまで、私が何度でも付き合うから!」

「……うん。ありがとう」


 この先、ユリと別れて行動することもあるだろう。そうなった時、俺は()()()()殺さなければいけない。そうしなければ、俺が臆病なせいで罪のない人が死んでしまうかもしれないからだ。


(やる。やるんだ!)


 だが、その後何度盗賊に襲われても、俺は盗賊を殺すことが出来なかった。魔法銃の照準を盗賊の頭に合わせると、どうしても引き金を引く事が出来ないのだ。毎回、俺は足を撃つだけで、とどめはユリがさしていた。そんなことが何度も続き、ついには、俺が支店を構えた隣町が見えてくる。


結局、俺はこの旅で、盗賊を1人も殺すことが出来なかった。

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