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146【帰路1 頼れる義妹】

「なんか……見回りの人、多いね」


 家に向かう馬車の中でユリが言った。確かに治安部隊だけでなく、騎士までもが見回りを行っている。まだ王都に近い場所とはいえ、騎士が見回りをしているというのは普通ではない。


「サーカイル王子が東側にならず者を送り込んで治安の悪化を狙っているらしいからね。警戒してるんだろ」


 モーリス王子から聞いたサーカイル王子の妨害工作の1つに、国の東側の治安を悪化させて東側の貴族の力を落とそうとしているという物があった。見回りを強化する事で、盗賊の被害は増えてはいないものの、盗賊の検挙数は増えているらしい。ちなみに盗賊の検挙数が増えた事は、モーリス王子の良策の1つとして語られている。


(サーカイル王子の妨害工作のおかげでモーリス王子の株が上がってるんだから皮肉だよな)


「ま、私とお兄ちゃんがいれば、どんなに強い盗賊が出ても問題ないよね!」

「そういうフラグみたいなこと言わないの!」


 魔法を修める前のユリだけでも並の盗賊では相手にならなかった。今の魔法を修めたユリならば複数の盗賊がいきなり襲ってきても問題ないだろうし、俺にも魔法銃がある。仮に並の盗賊の10倍の盗賊に襲われても問題ないだろう。だが、旅は安全な方が良いに決まっている。


「何事もないのが一番さ」


(とはいえ俺とユリの2人旅って時点で、盗賊達が狙わないわけはないんだけどな)


 行きにさんざん狙われたので甘い考えなど持っていない。腰に下げた魔法銃に触れながら俺は馬車の手綱を握りしめる。


 その後、警戒しつつ馬車を走らせていたが、盗賊達もさすがに王都の近くでは襲ってこないようで、数日間は安全に旅をする事が出来た。だが、王都から離れると、見回りの兵達とすれ違う事も減っていく。


(行きの時はこの辺で襲われたし、そろそろ襲われるかな?)


 そんな俺の考えがフラグになったのかは分からないが、突然、ユリが声を上げた。


「お兄ちゃん! 盗賊がいる!」

「――! どこ!?」


 魔法銃を引き抜き、辺りを警戒するが盗賊の姿は見えない。


「前の方! 3キロくらい先!」

「…………お、おう」


 3キロ先の敵に気付くのは凄い事だが、そんな先の敵を警戒しても仕方がない。盗賊が弓矢を使ったとしても、その射程は30mもないのだ。


「どんな感じなの?」

「えっと……敵意を放っている人が8人いるの。道の真ん中に2人と両脇に3人ずつ」


 道にいる2人で足止めしての残りが挟撃するつもりだろう。盗賊達がよく使う手だ。だが、俺達を狙うにしては道で待機するのが早すぎる。盗賊達が3キロ先の俺達に気付いたとは思えないし、治安部隊の見回りがある以上、狙う獲物がいない時は隠れているはずだ。


「ユリ、盗賊達以外に人がいないか分かるか? 盗賊じゃなくて一般の人だ」

「待ってね。敵意じゃなくて人の生命反応を感じるようにして……いた! 盗賊達の手前400mに6人いる! 2人は商人で4人は護衛かな? なんか力強い感じがする」

「その人達が、盗賊に気付いてるか分かるか?」

「多分気付いてないと思う。緊張感とか感じないし……」

「…………まずいな」


 盗賊の存在に気付いていれば、多少人数が少なくとも何とかなるだろう。だが、奇襲を受けたとなるとそうもいかない。


(もう5分もしないうちに盗賊達が襲い掛かるはず。今から馬車を飛ばしても間に合わない。かといって見捨てるわけにはいかないし……どうする!?)


「私が行ってくるよ!」


 俺が葛藤している様子を見てユリが明るく言った。


「でも……」

「この辺に盗賊達はいないし、大丈夫だよ! 3分くらいで戻ってくるから心配しないで!」


 言うが早いか、ユリは馬車を飛び降りて走り出す。


(いや、俺の心配をしたわけじゃなくて、今から行っても間に合わないと思ったんだけど……あのスピードなら間に合うか……)


 前方を見ると、もうユリの姿は見えない。何となく何とかなりそうだと感じながらも、俺は出来る限り馬車を急がせる。




「たっだいまー!」

「うわっ!」


 馬車を急がせていると、俺の隣にいきなりユリが現れた。


「び、びっくりしたぁ……え? 今どこから? 前から来たの?」

「ううん? 帰りは『転移』で戻って来たよ?」

「あ、そっか。……盗賊達は?」

「ちゃんとやっつけて来たよ! 拘束具が無かったから『ピッ』ってしちゃったけど」


 ユリが自分の首を人差し指で『ピッ』っとしながら答える。頼もしくなったものだ。


「お疲れ様。前の商人さん達には何か言われなかった?」

「何も言われてないよ。多分、盗賊達にも気付いてないんじゃないかな? 商人さん達が来る前に終わらせちゃったし」

「お、おう……」


 まさか商人さん達に気付かれずに終わらせてきたとは思わなかった。終わった後に、商人さんがユリに護衛を依頼したりして面倒になるかもと思い、馬車を急がせたのだが、無駄だったようだ。


義妹(ユリ)が頼もしすぎる……」

「えっへん!」


 索敵に迎撃、そして『転移』までこなせるユリがいれば、帰り道は問題ないだろう。だが……


「次、盗賊が現れた時、他に人がいなかったら俺に対処させて。魔法銃を試しておきたいんだ」


 俺にも兄としてのプライドがある。それに、いつまでも義妹(ユリ)に頼りっきりでいるわけにはいかない。


(いい加減、俺も実践を経験しないとな)


「分かった! それじゃ、次は任せるね!」

「おう!」


(大丈夫。大丈夫だ)


 魔法銃さえあれば、並の敵なら倒せる。そう自分に言い聞かせ、高鳴る心臓の音を抑えながら、俺は馬車を走らせた。

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