141【魔道具開発11 魔道具の使用料】
「凄い! 凄すぎる! これはほんま凄いで! ほんにすごい魔道具や!」
ミッシェルさんが語彙を失うほど興奮している。『部屋を暖める』魔道具を起動してからずっとこの調子だ。
「落ち着いて下さい。ただ部屋を暖かくしているだけですよ」
「あほか! それが凄いんやないか! あんさんは天才やけどあほやな! ええか? 今まで部屋を暖めよう思うたら、暖炉で薪を燃やすしかなかったんや。当然、金に余裕がある連中しかそないな事できへん! 金のない連中は皆寄り添って暖を取るしかなかったんや! そんなんで冬の寒さを乗り越えられるわけない。孤児院や病院で人が一番、人が死ぬんは冬なんや」
この地域は特別寒い場所ではないが、それでも冬の夜には氷点下になるし、雪が降ることもある。体の弱い子供や病人には厳しい寒さだろう。
「せやけどこの魔道具さえあれば、部屋を暖める事が出来る! しかもこれは魔道具や。一回買うてまえば、壊れるまで使える。それこそ、何百、何千という人がこの魔道具で救われるやろな!」
俺としてはただの暖房器具だったのだが、
「後は販売価格なんやけど……アレンはん。商人として間違った頼みなのはわかっとる。せやけど、この魔道具の使用料、安くしてくれへんか? わてらも原価ギリギリで売る事を約束する。頼む、この通りや!」
ミッシェルさんが深々と頭を下げた。後ろにいたシャムルさんも驚愕の表情を浮かべた後、俺に頭を下げる。
魔道具の販売価格とは、材料の原価と商会の利益、そして特許を持っている者への使用料を合わせた価格だ。ちなみに、俺が改良した魔道具は、開発者は俺になっているが、特許保有者はマークさんになっている。これは、俺がまだ未成年であるため、マークさんの名前を借りているだけであり、マークさんから販売については俺の好きにしていいと言われている。よって、特許を持っている者への使用料とは、俺への使用料の事だ。
話を戻すが、この様子だと、ミッシェルさんは人助けになるこの魔道具で儲ける気はないのだろう。とはいえ、大商会の会頭であるミッシェルさんは損をしてまで人助けをすることは出来ない。ゆえに、商会の利益を0にすることは出来ても、材料の原価と俺への使用料を合わせた価格以下で売る事は出来ないのだ。つまり、この魔道具を安く売れるかどうかは俺への使用料次第で決まる。そして、俺としても、人助けになる魔道具で利益を得るつもりはない。しかし……。
「もちろんですよ。孤児院や病院へ売る分については、使用料はいりません。ただ、もし貴族等の金持ちに売る場合は、しっかり使用料を頂きます。良いですよね?」
ミッシェルさんは一瞬ぽかんとした後、笑って答えた。
「あはは! せやな! 機能性を優先した安いモデルと、装飾品をふんだんに使った高いモデル、両方作ろうか! 安いモデルについては使用料なし、高いモデルについては使用料3ば……いや、4倍でどうや?」
安いモデルは高いモデルより数が多く売られるだろう。その分、使用料を高くしてくれたのだ。
「ありがとうございます。それでお願いします」
「よっしゃ! 決まりや! いやぁ、しょっぱなから凄いもん見せてくれたなぁ。ふふ。先が楽しみや」
それから俺は『洗濯物を乾かす』魔道具等の改良が終わっている魔道具を見せていった。『部屋を暖かくする』魔道具ほど気に入ってもらえる魔道具は無かったが、それでもおおむね好感触だった。
「いやぁ相変わらず凄いもん作りよるな。これで全部なんか?」
「ええ。お見せしたかったのはこれで全てです。こっちの棚の物はまだ、改良が済んでいないので」
ちなみに銃については話していない。ミッシェルさんを信用していないわけではないが、売る気が無い以上、言わない方が良いだろう。
「こっちにあるんも改良していくんか……ほなら、定期的に通わせてもらおかな。まだまだお宝がありそうや。楽しみが増えたで」
その後、ミッシェルさんは1週間おきにお店を訪れて、魔道具の改良状況を確認していった。毎度、魔道具を見せる瞬間は緊張するが、それが楽しみになっている自分もいる。
3週間が過ぎるころには、ユリが『転移』や『属性』の魔法を修めた。銃の改良はユリが全ての属性を修めてからと思っていたが、改良方法が分かっている魔道具の改良は『気晴らしになるから』と言われたので、ちょこちょこ手伝ってもらう。
さっそく『遠くにいる人に音声を届けるが、常に起動し続けていないと受信できない』魔道具に『属性』を付与して、『起動すると相手の魔道具が振動する』機能を付け加えて、『振動を感じた相手が魔道具を起動してくれれば、音声の送受信ができる』魔道具に改良した。
他の失敗作も色々改良して、全部まとめてミッシェルさんに見せると、これがまた大好評で、特に『音声の送受信ができる』魔道具については、革命的な魔道具だと褒めてくれる。
『すぐにでも量産して主要都市や貴族達に売り込まなあかん!』と言って大興奮のまま、店を後にした。その後、主要都市や有力貴族は『音声の送受信ができる』魔道具があるのが当たり前になって言ったので、ミッシェルさんはきっちりと売り込みをしてくれたようだ。他の魔道具も面白いように売れていく。
そして、2ヶ月の時が経過した。