136【魔道具開発6 武器の『創作』】
「ご馳走様! 今日も美味しかったよ。ありがとね! それじゃ!」
「お粗末様――ってもう行っちゃった。食後ぐらいゆっくりすればいいのに」
「おや? ではユリさんは休憩しますか?」
「いえ、私は魔導書の続きを読みます! もう少しでページがめくれそうなんです!」
「……本当にそっくりな義兄妹ですね」
2人の会話を聞きながら、実験室へと向かった。
(やるべき事が決まったんだ。休んでる時間はないさ!)
実験室に戻ってきた俺は、魔道具の山の中から目当ての魔道具を探していく。
(割と小さかったから多分下の方に……お、あったあった)
探していたのは当然、昨日『転送』した『風の力で弾を撃つことが出来るが、威力も射程もほとんどでない』魔道具だ。試しに壁に向かって1発撃ってみたが、壁に届く前に失速して床に落ちてしまう。
(今は風の力で弾を押し出そうとしているだけだからな。『弾に風の力を加えて威力を上げる』ならまだしも、『止まっている状態の弾を風の力で飛ばす』のは無理があるみたい)
そこで俺は、『創作』を使って『風の力』を『爆発の力』に改良した。元が『風の力』なので、『爆発の力』自体は大した力ではないが、銃の発射に使うには十分だろう。
(よし、これで魔道具を起動すれば、爆発が起きてその勢いで弾を飛ばせるはず! 試し打ち……いや、その前に一応『鑑定』しておくか!)
問題なく『創作』出来たとは思うが、この魔道具は武器だ。何か問題があれば、自分や他の誰かを傷つける事になるかもしれない。そう思い、念のため『鑑定』を行ったのだが、とんでもない情報が頭に流れてきた。
『名称:なし 状態:危険 所有者:アレン=クランフォード 特性:爆発の力で弾を飛ばす。強度が足りないため、暴発する危険性が高い』
「――って暴発!?」
思わず自分の『鑑定』の結果に突っ込みを入れてしまう。
(暴発って……銃身が詰まってたりして銃が爆発しちゃうアレだよな。下手すると指を失うこともあるっていう……)
魔道具の『爆発の力』が大した力ではないので油断していた。そもそも銃は爆発の力を内部でため込み、その力を1点集中して弾を押し出すことにのみ使うことで強力な威力を発揮している。つまり、爆発の力を内部にため込めるだけの強度が無いと、銃は暴発してしまうのだ。そして暴発した時の『力』は力をため込んだ反動で、元の『爆発の力』とは比べ物にならないほど強い力になる。
(危なかった……それにしても強度か……)
『強化』魔法を使えば強度を強めて暴発を防ぐことが出来るはずだ。そのためには、『強化』を修めた魔法使いの協力が必要になる。
(さっそくユリの力を借りるかな)
俺は魔道具を手に、魔導書貸出店に戻った。
「おや、アレンさん。お早いですね。どうされたんですか?」
魔導書貸出店に戻ると、マークさんが話しかけてくる。
「武器用の魔道具を改良していたのですが、強度が足りなくて……ユリに協力してもらおうかなと」
「なるほど。強度不足でしたら『強化』の魔法で解決できるかもしれませんね。それではもう少しお待ちください。少し前に魔導書を読み始めたのでそろそろのはずです」
「? そろそろ?」
そろそろ何なのかは言ってもらえなかったが、マークさんに言われた通りに待っていると、魔導書のページがめくれあがってきた。
「う……うぅぅ……」
ユリの口からうめき声が響く。かなり辛そうだが、ここで俺が声をかけると逆効果になることはマークさんから聞いている。今の俺は心の中で応援することしかできない。
(頑張れ! あともう少し! もう少しだ!)
そしてついに、魔導書のページが完全にめくられる。
「――! う、ぐぅぅう……」
次の瞬間、ユリの顔が険しい物になり、机に突っ伏したが、その手は魔導書から離れなかった。以前マークさんが言っていた通り、新しいページの情報が強制的に頭に入り続けているのだろう。
「うぅぅ……っぷは! はぁ……はぁ……はぁ……」
少しすると、ユリの手から魔導書が離れた。ユリは荒い息を繰り返している。
「はぁ……はぁ……ふー。……んー! 難しい。場所は分かるけど次元って――」
「――そこまでです。アレンさんがいらっしゃるので、魔導書の中身は話さないでください」
「え? ……あ、お兄ちゃん!?」
どうやら今俺に気付いたらしい。
「ごめんね。声かけるタイミングなくて」
「ううん、私こそごめん。マークさん、お兄ちゃんは大丈夫ですか?」
「あの程度ならまず大丈夫ですが、絶対ではありません。十分注意してくださいね」
「うぅ……ごめんなさい」
魔導書の内容を、魔導書を読まずに知ると、因果が壊れる。以前、マークさんから聞いた話だ。『絶対に魔導書の内容を口外しないよう』とに言われた時は『そんな事はしない』と思っていたが、つい口が滑ってしまう事は十分ありえそうだという事を実感した。
「お互い気を付けようね」
「うん。……ところで、お兄ちゃんはどうしてここにいるの? 実験は?」
「ああ、そのことでユリにお願いがあって来たんだ。武器の魔道具を作ったんだけど強度が足りなくてさ。『強化』の魔法を付与して魔道具の強度を上げたいんだ」
魔道具として『強化』を付与しても、通常時の強度は変わらないが、魔道具を起動すれば、強度が上がる。撃つときに強度が上がればいいのだから、それで十分なのだ。
「それはもちろんいいけど……マークさんじゃダメだったの?」
「………………え?」
「え? だってマークさんも『強化』の属性を修めてるでしょ? マークさんに協力してもらうのじゃダメだったのかなって……」
「……」
ユリに言われてマークさんを見ると、マークさんは驚いた表情を浮かべた後、必死に笑いをこらえていた。
「ふふ……ええ。もちろん『強化』も修めていますし、頼まれれば協力しますよ。てっきりユリさんと協力して作りたいのかなと思って……。まさか、気付いていなかったとは……ふふふ」
「――!」
顔が赤くなるのを感じる。『強化』と聞いてユリが思い浮かんだので、マークさんの事は失念していたのだ。
「お兄ちゃんってさ。やっぱり天然だよね」
「――そんなことは……うぅ」
自分を天然だと思ったことは無いのだが、否定の言葉を発することは出来なかった。