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133【魔道具開発3 マークさんの失敗作】

 マークさんが実験室の扉を開けると、扉はマークさんの実験室につながる。


「どうぞ、こちらです」


 マークさんに先導されて魔道具が山積みになっている場所に向かう。


「アレンさんはもうご存じだと思いますが、制御装置を使えば、簡単にこの部屋に物を持ち込むことが出来ます。ですが、運び出すためには他の場所に『転移』させる必要がありまして……お恥ずかしい話ですが、運び出す事をさぼっておりましたらこんな状態に……」

「……お気持ちは分かります」

 

 今は母さんやユリが口うるさく注意するので、部屋もしっかり片づけているが、前世で1人暮らしをしていた頃は、散らかり放題だった。


(俺の実験室がこうならないように気を付けなきゃ……)


 いずれ、母さんやユリ、それにクリスを実験室に入れることもあるかもしれない。その時に怒られたりがっかりされないように今から気を付けるべきだろう。


「さて……ここにある魔道具でしたらお好きな物を持って行ってくださって構いませんよ。失敗作ですし、大して危険な物もありませんから。魔道具の機能についてはご自身で『鑑定』してくださいね。正直、私自身もうあまり覚えていないので……」

「分かりました! 本当にありがとうございます!」


 マークさんにお礼を言ってさっそく魔道具を『鑑定』していく。


『名称:なし 状態:放置 所有者:マーク=オーズウェル 特性:高温になる』


 今回は最初から魔道具を注視したため、最初から細かい情報が頭に流れ込んできた。


「……高温になる?」

「ああ、懐かしいですね。それは周囲の温度を上げる事を目的に開発した魔道具です」

「いいじゃないですか! 冬に重宝しそうですね。どうして失敗作なんですか?」

「それは……その…………『鑑定』で見てみてください」

「? 分かりました」


 俺はさらに魔道具を注視して『鑑定』する。


『特性:900度の高温になる』


「……これ、温度が高すぎませんか?」

「最初は25度くらいになる物を作成したのですが、部屋が全く温まらなかったんです。そこで、蝋燭の火と同じ温度になる物を作成したのですが、それでも部屋は温まらず、魔道具を固定していた木が燃えてしまって……これ以上温度を上げるのは危険だと思い、諦めてお蔵入りにしました」


(……確か木の発火温度って400度くらいだったよな。そりゃ燃えちゃうわ。それより、900度で部屋が温まらないのはなんでだ? ……あ、でも、寒い部屋に火が付いた蝋燭を1本置いても部屋は暖まらないか)


 空気は熱伝導率が低い。部屋を暖める魔道具を作るなら、『熱を発する』機能ではなく、『空気を暖める』機能が必要なのだ。


(空気を暖める機能を持たせる……あれ? 無理そうだ。暖める方法が明確にイメージ出来てないからかな? えっと、空気を暖めるには、空気の分子を振動させればいいんだから、そういう機能を持たせれば……お、出来そうだぞ!)


 『空気の分子を振動させて空気を暖める機能』であれば、魔道具に付与できることを感覚的に把握出来た。


「この魔道具、頂いていいですか?」

「もちろんです。起動するときは火傷に注意してくださいね」

「はい! ありがとうございます!」


 さっそく、制御装置を起動して、その魔道具を俺の研究室に『転移』させる。


(おお! 転移した!)


 アナベーラ商会お抱えの『転移』魔法の使い手である、シャムルさんが『転移』している所は何度も見たが、自分で物体を『転移』させたのは初めてなので、興奮してしまう。


 その後も、『洗濯物を乾かす』はずが、『洗濯物を燃やしてしまう』魔道具や、『遠くにいる人に音声を届けるが、常に起動し続けていないと受信できない』魔道具等を自分の研究室に『転移』させていく。


(なんか宝探しみたいで楽しいな)


 色々な魔道具を『転移』させたが、中でも、風の力で弾を撃つことが出来るが、威力も射程も低すぎる魔道具を見つけた時は思わず叫び声をあげてしまった。


(これ完全に『銃』じゃん! もし、この魔道具が完成したら、俺も戦えるようになるかも!)


 そんな調子で魔道具の山を『鑑定』していったのだが、山が半分くらいになった時に、めまいを感じて座り込んでしまう。


「うっ! うぅ……」

「アレンさん! 大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫です……ちょっとめまいがしただけで」

「どうやら大量に『鑑定』しすぎたようですね。歩けますか?」

「はい、何とか……。楽しくてやりすぎてしまいました」

「ユリさんといいアレンさんといい、張り切りすぎです。楽しいのは分かりますが、もう少し自制してくださいね」

「すみません……。気を付けます」

「分かって頂けたなら結構です。今日の所はここまでにして一度、店に戻りましょうか」

「はい! マークさん、本当にありがとうございました!」

「いえいえ。こちらとしても大変助かりましたよ。素材が足りなくなったら、またいつでも来てくださいね」


 マークさんと一緒に魔導書貸出店に戻るとユリが出迎えてくれる。


「2人共おかえりなさい! ずいぶん時間かかったね」


 お店の外を見るともう空が赤くなっていた。


「うわ、もう夕方か……」

「これは……色々見過ぎましたね。長い時間、お待たせしてしまって申し訳ありません」

「大丈夫です! おかげでゆっくり休めましたから! 今なら続きを読めそうです!」


 先ほどとは違い、元気そうな声でユリが返事をする。


「そのようですね。ですが、無理はいけません。魔導書の続きを読むのは明日にしましょう。アレンさんも何度も『鑑定』してお疲れでしょう? 早く『創作』されたいと思いますが、続きは明日にされてはいかかですか?」


 マークさんの言葉を聞いて、テンションで誤魔化されていた疲れを自覚した。何度も情報を流し込んだ頭が異様に重く感じる。


「……そうですね。今日の所はここまでにします。お邪魔しました」

「お邪魔しました! あ、ケーキとお菓子ご馳走さまでした!」

「ふふふ。はい、お二人ともお疲れ様でした。ゆっくり休んでくださいね」


 魔導書貸出店を後にした俺達は、メン屋で晩御飯を食べた後、すぐに眠気を感じて布団に入った。母さんにトレーニングしてもらった日とは違い、肉体的にはほとんど疲れていないのだが、その時と同じような感じだ。完全に熟睡してしまい、気付いたら朝になっていた。

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