132【魔道具開発2 制御装置】
マークさんに実験室をプレゼントしてもらった俺は、さっそく、自分の実験室に入ろうとした。
「あ、アレンさん。中に入ったら、机の上を確認してください。実験室の制御装置が置かれているはずです」
「制御装置……ですか?」
「ええ。持ち主によって形が変わるので、どのような形をしているかはわかりませんが、机の上にあるはずです。使い方は『鑑定』して調べてください。もし分からなければ、聞いて下さって構いません」
「分かりました! 見てみます!」
俺は、実験室に入って机の上を確認する。
(制御装置……これか?)
置かれていたのはシンプルな形をした指輪だった。
(大きいな。サイズ的には……親指でぎりぎりかな? んーまぁ、左手でいいか)
左手の親指に指輪を付けると、『目標達成』の意味を持つというし、今の俺にはちょうどいいかもしれない。
さっそく指輪を『鑑定』してみる。
『名称:実験室の制御装置 状態:未登録 所有者:なし』
ざっと見ただけでこれだけの情報が流れ込んできた。さらに注意して見てみる。
『特性:3つの機能を有している。1つ目、マスター登録機能。2つ目、物質転送機能。3つ目、実験室の削除機能』
……1つ物騒な機能が備わっていたが、おおむね予想通りの機能だ。特に物質転送機能は色々使い道があるかもしれない。俺は『鑑定』魔法を解除して指輪を左手の親指に付けてみた。
(さすがに大き過ぎてぶかぶか――お? おぉぉ!)
指輪に指を通した瞬間、指輪のサイズが小さくなり、指にぴったりとはまった。それと同時に指輪から機械的な声が聞こえてくる
「部屋主、と、同じ魔力、を、確認、しました。マスター、の、登録、を、行います。お名前、を、述べて、ください」
「――!?」
いきなりの事に驚いたが、これがマスター登録だろう。俺は落ち着いて自分の名前を答える。
「アレン=クランフォード」
「マスター、の、お名前、を、『アレン=クランフォード』、で、登録、します。よろしい、ですか?」
「大丈夫です」
「マスター、を、登録、しました。この部屋、は、『アレン=クランフォードの実験室』、と、なります。続けて、制御装置、の、機能説明、を、開始、します。転送機能、に、ついて、聞きますか?」
「お願いします」
「転送機能、について、説明、します。転送、したい、物質、の、前で、制御装置、を、起動すれば、対象、の、物質、が、『アレン=クランフォードの実験室』、に、転送、されます。大きすぎる、物質、は、転送、できない、ので、注意、して、ください。また、『アレン=クランフォードの実験室』、から、部屋、の、外、への、転送、も、できない、ので、気を付けて、ください。続けて、削除機能、に、ついて、聞きますか?」
転送機能で物質を実験室の外に出せないのは残念だが、それ以外は予想通りの機能だ。それより気になるのは削除機能だ。うっかり使用して実験室を削除するわけにはいかない。俺は集中して指輪の声を聞く姿勢を取った。
「お願いします」
「削除機能、について、説明、します。削除機能、が、起動、すると、『アレン=クランフォードの実験室』、は、完全、に、削除、されます。起動条件、は、『制御装置、の、破壊』、および、『アレン=クランフォード、以外、の、者、が、制御装置、を、身につける』、です。誤作動、には、十分、注意、して、下さい」
(なるほど……削除機能って言うから驚いたけど、盗難や不正使用を防止するための機能だな。常に俺が身に付けて、壊さないようだけ気を付ければ大丈夫そうだ)
「以上、で、機能説明、を、終了、します。何か、ご不明な点、が、ありましたら、別途、制御装置、に、お尋ね、ください」
その言葉を最後に、指輪から声は聞こえなくなった。
(これで制御装置の登録は終わりかな? よし、それじゃさっそく『創作』をしていくか! まずは練習がてら『灯り』の魔道具を……って、この部屋まだ何もないんだよな……)
いくら『創作』魔法とはいえ、無から有を作り出すことは出来ない。『灯り』の魔道具の仕組みは非常に簡単なので、それこそ、石ころ1つあれば、作る事が出来るだろうが、この部屋には石ころ1つないのだ。
(……一旦外に出るか)
俺は研究室を後にする。
魔導書貸出店に戻ると、丁度ユリが休憩し始める所だった。
「あー、お兄ちゃんだー。お帰りー……きゅー」
それだけ言うとユリはテーブルに突っ伏してしまう。
「大丈夫? あまり無理しないでね」
「うん、わかってるよー。ちょっとだけ頑張り過ぎちゃったんだ。てへ」
可愛く言ってはいるが、その声はとても弱弱しい。相当疲れているようだ。
「いやいや。このスピードで読み進めているのは、相当頑張っている証拠です。素晴らしい事ではありますが、アレンさんの言う通り、無理はいけません。今はしっかり休んでください」
「うぅ……すみません」
マークさんがユリの前に紅茶を置いた。紅茶の優しい香りが、辺りを包む。ユリは置かれた紅茶を飲むと、ホッと一息ついた。
「美味しい……優しい味ですね」
「ふふふ。リラックス効果のあるお茶です。アレンさんもいかがです?」
「あ、頂きます」
俺が答えると、マークさんはユリの隣の席に紅茶を置いてくれる。俺もユリの隣に座って一息ついた。
「本当だ。優しい味……マークさん、紅茶を入れるのお上手なんですね」
「ふふふ、ありがとうございます。それで、アレンさんはどうされたんですか? マスター登録は問題なく終わったみたいですが」
「あ、えっと……試しに『灯り』の魔道具を作ろうとしたんですが、素材が何もなくて……」
「ああ、なるほど。新しい実験室には何もないですからね。……そうだ、よろしければ私の実験室に山積みにされている魔道具を使いますか?」
「いいんですか!?」
「ええ。私の実験の失敗作ですが、色々面白い物もあります。『鑑定』を使えるアレンさんならあれらを有効に使えるでしょう」
「ありがとうございます!」
マークさんの実験室に置かれていた大量の魔道具。失敗作とはいえ、魔道具であることには変わりない。『創作』の練習をするにはぴったりの素材だ。
「では、私の実験室に行きましょう。ユリさんはもうしばらく休憩していてくださいね」
「うー、分かりました……。いってらっしゃいー」
「では、アレンさん。行きましょうか」
「はい!」
俺はマークさんと一緒に、マークさんの実験室に向かった。