131【魔道具開発1 実験室】
メン屋を後にした俺は、魔導書貸出店に戻ってきた。
「おや? アレンさん。どうされましたか?」
入店した俺に気付いたマークさんが話しかけてくれる。ちなみにユリは、魔導書を開いて固まっていた。
「すみません。『創作』魔法を使ってみたくて……」
「ああ、なるほど。でしたら奥に実験室があるので、そちらを使ってください。頑丈な作りになっていますので、よほどのことが無ければ周りに被害を及ぼすことはありませんよ」
「ありがとうございます!」
初めて『創作』魔法を行使するので、失敗しても平気な場所でやりたかったのだが、マークさんは俺の意図を正しくくみ取ってくれたようだ。
「ふふふ。ちょうどよかった。実はアレンさんにプレゼントを用意したんです」
「プレゼント……ですか?」
「ええ。少々お待ちください」
そう言うとマークさんは『実験室』と書かれたプレートのついている扉の前で何かの操作をする。
「準備ができました。アレンさん、この扉を開けてみてください」
「はい!」
言われた通り、お店の奥の扉を開くと、その先には広さ30畳ほどの部屋が広がっていた。
「えっと……ここが実験室ですか?」
実験室と言うから色々実験道具が置かれているのかと思ったのだが、その部屋の中には机と空の棚があるだけで他には何も置かれていない。まるで、『引っ越してきた直後の部屋』を連想させる部屋が広がっていた。
「ええ、その通りです。アレンさん専用の……ね」
「……え?」
「ふふふ。一度、扉を閉めてください」
言われた通り扉を閉めると、マークさんが俺の代わりに扉の前に立つ。
「開けますよ」
「――!?」
マークさんが扉を開けると、そこにはまさに実験室と言った感じの部屋が広がっていた。机の上や棚にはよくわからない器具が散乱しており、部屋の隅には実験の失敗作と思われる魔道具が山積みになっている。
「ここは私の実験室です。散らかっているのであまり見ないでください」
「あ――」
恥ずかしそうにそう言ってマークさんは扉を閉めてしまった。興味を惹かれる物がたくさんあったので、もっと見たかったのだが、仕方がない。
「さて、実験室がどういう仕組みか分かりましたね? アレンさんには、アレンさん専用の実験室をプレゼントします。今は何もないただ丈夫なだけの部屋ですが、これからご自分で好きなようにカスタマイズしていって下さい」
「ありがとうございます! 嬉しいです!」
自分だけの部屋と言うのは秘密基地的な感じがしてテンションが上がる。どんな風にカスタマイズしようかと考えていたのだが、ふとある事に気付いてしまった。
「あれ……でも、良いんですか? マークさんのお店の中に私の部屋を頂いてしまって……」
よく考えたらここは魔導書貸出店の中だ。人のお店の中に自分の部屋を置いてもらうというのは、いくら何でもマークさんの好意に甘え過ぎている気がする。
「ご心配には及びません。実験室はお店の中にあるわけではありませんから」
そう言うとマークさんは『実験室』と書かれたプレートを手に取って扉から外した。すると、確かにそこにあったはずの扉が跡形もなく消えて、ただの壁になってしまう。
「扉が!」
「ふふふ。大丈夫ですよ」
マークさんがプレートを扉があった壁に掲げると、壁に再び扉が現れた。
「えっと……どういう事でしょうか?」
「そうですね……ご説明してもいいのですが、せっかくです。このプレートを『鑑定』してみてください」
「あ、はい!」
『鑑定』を修めたことを忘れていた俺は、マークさんに言われてプレートを『鑑定』してみる。
『名称:実験室のプレート 状態:使用中 所有者:マーク=オーズウェル』
以前、黒曜石を『鑑定』した時と似たような情報が頭に流れ込んできた。
「……よくわかりません。『実験室のプレート』という名前なのは分かりましたが……」
「もっとよく見てください。表面的な事だけでなく。深層的な事まで見通すつもりで。大事なのは先入観に捕らわれず、出来ると信じる事です。アレンさんなら魔道具の特性まで『鑑定』出来るはずです」
「もっとよく見る……」
マークさんに言われた通り、プレートをじっくりと見つめてみる。
(そうだ。『鑑定』は物体が反射した魔力を見て、そこから情報を得る魔法だ。魔道具を見れば、そこに付与された魔法を読み取ればどんな効果がある魔道具なのか分かるはず。もっとよく見るんだ!)
プレート見つめているとだんだん細かい情報が頭に流れ込んできた。
『特性:壁に『転移』用の扉を作成する。『転移』先は感知した魔力によって指定する』
「……『転移』?」
てっきり実験室を小さくして収納でもしているのかと思ったのだが、プレートの機能は『転移』する扉を作成するだけで、実験室に関係する機能は無かった。
「どうやら見えたようですね。このプレートがどのような魔道具か分かりましたか?」
「『転移』用の扉を作る魔道具だという事は分かりました。……もしかして、実験室は別の場所に存在していて、このプレートはそこに『転移』する扉を作成する魔道具、ってことですか?」
「ご名答です。やはり、アレンさんの『鑑定』は物体の『鑑定』が得意なようですね。しかも魔道具の特性を見ただけで、その仕組みまで理解されるとは。これは『創作』魔法使いとしての期待も高まりますね」
マークさんが褒めてくれる。
「が、頑張ります……」
「ふふふ。まぁ、そういうわけですので、お店の中に実験室があるわけではないのです。ですので、お気遣いは不要ですよ。色々な実験をして、素敵な魔道具を開発してくださいね」
「はい! ありがとうございます!」
こうして、俺は自分専用の実験室を手に入れた。