125.【王都出店7 魔道具の作り方】
またまた説明回です。もう少しだけお付き合いください。
少し休憩した後に、マークさんがユリに聞いた。
「さて、ユリさん。お渡しした魔導書ですが、何が分からなかったですか?」
「あ、えっと……身体を動かしている『でんきしんごう?』の流れを早くするために……っていう所がよくわからなくて……」
「もうそこまでいきましたか! 素晴らしいです。では、別室で神経伝達速度についてお話しますね。こちらへどうぞ。あ、アレンさんはお好きな魔導書を手に取ってみてください」
「分かりました!」
ユリとマークさんが別室に移動する。俺はマークさんに言われた通り、新しい魔導書を手に取ってみた。
(次の魔法はどんな属性かな……ってあれ?)
しばらくしても何も起きない。『魔道具の作り方』を持った時のような手に吸い付いてくる感覚が無いのだ。
(この魔導書の属性と適性が無いって事かな? 残念……まぁ仕方ないか。次行ってみよう!)
魔導書を棚に戻して別の魔導書を手に取ってみる。しかし、今回も手に吸い付いてくる感覚は無かった。
(これもか! ……ってまさか!)
俺は嫌なことに思い当ってしまう。マークさんが俺に次の魔導書を手渡さなかったのは、俺に適性がもうないからではないだろうか。
その後、他の全ての魔導書を手に取ったが、どれも手に吸い付くことはなかった。
(そ、そんな……)
俺は思わず膝をついてしまう。
「やはり他の属性は厳しかったですか」
いつの間にか背後にいたマークさんが俺に話しかけた。
「そんなに気落ちしないでください。2つの属性を治めているだけで十分優れた魔法使いです。それに、アレンさんにとって『創作』は最適かもしれませんよ?」
「……なぜでしょうか?」
「アレンさんの周りに魔法使いがたくさんいらっしゃるからです。『創作』魔法は他の属性の魔法と組み合わせることで、その真価を発揮するのです」
「え? そうなんですか?」
「ええ。簡単な魔道具なら『創作』魔法だけでも作成可能ですが、高度な魔道具となるとそうはいきません。そうですね……例えばアレンさん、『灯り』の魔道具は作れそうですか?」
(『灯り』か……『魔力で光る素材』を作ればいいんだから……蛍光灯か? いや、豆電球のフィラメントをイメージして……お、出来そうだ)
「できると思います」
「では、『噓発見』用の魔道具は作れそうですか?」
(『噓発見』……嘘をついたら見抜ける物……あれ? どうやって作ればいいんだ?)
「……」
「無理そうでしょう?」
「……そう、ですね。作り方が分かりません」
「ふふふ。無理もありません。『噓発見』用の魔道具は複数の属性を組み合わせて作成された魔道具です。アレンさんお1人では作ることは出来ないでしょう」
「なるほど……」
「他には……そうですね。『整形』はアレンさんが開発された技術ですよね?」
「あ、はい。そうです」
「その中で『回復』魔法と『属性』魔法を同時に使っていますが、そのためには魔法使いが2人必要です。ですが、『創作』魔法を使い、『回復』魔法と『属性』魔法を使える魔道具を作れば、これが1人で行えるようになります」
「――!」
「まぁ現実的には、魔道具を使用して『回復』魔法をかけると、対象者が冷たい思いをするので、現実的ではありませんけどね」
ふと呟かれたマークさんの言葉が気になったので聞いてみる。
「なぜ、魔道具を使用してかける『回復』魔法は冷たく感じるんですか?」
「ああ、それは、『回復』魔法をかける際に術者の思いが反映されるからです。本来は、『回復』魔法の使い手の『対象者を治したい』という思いが反映されて、暖かさを感じるはずですが、魔道具には思いがありません。ゆえに、回復はされますが、冷たく感じてしまうのです」
以前、シャル様に回復魔法をかけて頂いた時は心地よい感触に包まれた。あれが、シャル様の治したいという思いなのだろうか。
「話は逸れましたが、『創作』魔法の強みについては理解して頂けましたか?」
「はい! でも、どうやって他の属性の魔法を使える魔道具を作るのかが分かりません」
「それは、これから説明します。と言っても難しい話ではありません。その属性の魔法が使える魔法使いに協力してもらえばいいのです。例えば、先ほど話に出た『治癒』の魔道具ですが、これを作りたければ、『治癒』魔法の使い手に協力してもらいます。具体的には、魔道具にしたい物の前で『治癒』魔法を使って頂ければいいのです。後は、アレンさんが『創作』魔法で『治癒』魔法を魔道具に定着させれば、『治癒』の魔道具の完成です」
(魔法の定着? あー、何となく分かる。魔法の概念を道具に定着させれば……うん、出来そうだ!)
「そして、アレンさん。貴方にとって1番幸運な点。それはユリさんの存在です」
マークさんがユリを見る。いつの間にか、ユリは先ほどの魔導書を手に持っていた。ゆっくりとだが、ページがめくられていく。
「ユリの存在……ですか?」
「ええ。ユリさんであれば、『創作』を除く全ての属性を修めることが出来るでしょう。少なくともその素質はあります。いずれは、私を抜いてこの国一の魔法使いになるかもしれません」
マークさんは笑みを浮かべながら嬉しそうに言った。自分以上の魔法使いの存在を歓迎しているようだ。
「そして、そんな彼女に協力してもらえば、アレンさんはこの国一の魔道具作りになれるかもしれませんね
「――!?」
「ふふふ。お二人がどんな魔道具を作成されるのか。考えただけでわくわくしますね」
本当に楽しそうにマークさんは呟いたのだった。