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122.【王都出店4 本屋?】

ようやくファンタジー要素が入ります。

説明回が続いてしまいますが、お付き合いください。

「「ごちそうさまでした!」」 

「おそまつさん! また来ておくれ!」


 笑顔のピリムさんに見送られ、『メン屋』を後にする。


「美味しかったね」

「うん! また来たい!」


 ベーカリー・バーバルといいメン屋といい、俺が店を出す場所の近くに美味しい飲食店がある事は非常にラッキーだった。


(今度、クリスと来たいな)


 そんなことを考えながら、今度はお店の右側の本屋に入る。本屋の看板には店名が無く、中は『シンッ』と静まり返っていた。


(明かりがついているから留守ってことはないと思うけど、営業時間外なのかな? それにしても思ったより本が少ない……)


 看板の印から本屋だとわかるし、入り口には数冊の本が置いてあるので、本屋であることは間違いないはずだ。だが、本は8冊しか置かれておらず、客はおろか店員の気配すら無かった。


(王都の本屋だからもっと本があるかと思ってた……隣町の本屋ですら、30冊位は本が置いてあったぞ)


 よく見ると、置いてある本の表紙には何も書かれていなかった。俺は気になって、近くの壁に置いてあった本を手に取ってみる。その瞬間、本が手に吸い付き、離れなくなった。


「なっ! なんだこれ!?」


 慌てた俺は手から本を離そうとするが、びくともしない。


「お兄ちゃん!?」


 ユリが驚いてこちらを見ていたが、俺はそれどころではなかった。本が勝手に開かれて、ページがめくられていく。ページがめくられるたびに頭の中に情報が書き込まれているのを感じる。


(何だこれ!? 頭になにかが……『物質は細かい粒の集合体である』……って原子の事か? 『物質の性質は粒の性質に決まる』……って元素の事だよな? 『魔力によって粒の性質を変えることが出来る』……って、え!?)



 どんどん流れこんでくる様々な情報に混乱しそうになったが、前世の知識と照らし合わせることで何とか理解していく。たまに前世の知識では理解できない内容もあったが、ファンタジーの知識を活用することで、漠然と理解できた。


(『粒に十分な魔力を持たせることで、実在しない性質の粒を作ることも可能。これを組み合わせて作られるのが魔道具である。 以上!』)


「ぐ……ぐぅぅ」


 最後のページまでめくられ、本が勝手に閉じた。

 

(頭が痛い。くらくらする。学生の頃、期末テスト前に徹夜で勉強した後みたいだ……)


「大丈夫?」

「あ……あぁ、大丈夫。何だったんだ? 今の……」


 俺は手の中にあった本を見つめた。その時、今までは何も書いてなかった表紙に文字が書いてある事に気付く。


「『魔道具の作り方』? こんな事書いてあったか?」

「? どこにそんな事書いてあるの?」

「? ここに書いてあるだろ」


 俺は本の表紙を指さして言ったが、ユリは怪訝そうな顔をしている。


「何も書いてないよ?」

「え?」

「――おや、もうその文字が読めるんですね」

「「――!?」」


 本屋のカウンターから声が聞こえた。今までは誰もいなかったはずだ。だが今は、銀髪で眼鏡をかけた長身の男性が笑みを浮かべながらこちらを見ていた。


「クスクス。驚かれましたか? 初めまして。この店の店主のマークといいます」


 マークと名乗る男性は優しく微笑んでいたが、その眼は俺達を注意深く観察しているのが分かる。


「は、初めまして。アレン=クランフォードです。今度、隣でお店を開くことになりました。よろしくお願いします」 

「あ、えっと、ユリ=クランフォードです。よろしくお願いします」

「おや、お客さんかつお隣さんでしたか。ご丁寧にどうも。こちらこそ、よろしくお願いします」


 マークさんの眼が鋭くなるのを感じる。だが、不思議と威圧感や不快感はない。


(何だろ……試されてる? いや、そういう感じじゃない……でも、マークさんが何かを計っているのは感じる)


「なるほど……面白いですね」

「え?」

「いえいえ、こちらの話です。……さて、ご覧の通りうちは本屋なのですが、ちょっと変わった本を取り扱っているんですよ」

「変わった本……ですか?」

「ええ。ここにある本は全て魔導書です」

「「魔導書!?」」

「おや、血がつながってないとは思えないくらいそっくりな反応ですね」

「「!?」」


 確かに俺とユリは似ていない。年が近いこともあり、兄弟ではなく、恋人などに間違われることもある。しかし、名前を言えば、皆兄妹だと分かってくれるし、今まで血がつながっていないことを言い当てられたことはない。だが、マークさんは血がつながっていない兄妹だと確信を持っているようだった。


「な、なぜ?」

「ふふふ。わかりますよ。『鑑定』は私の得意な属性の1つですから」

「『鑑定』ですか? それって……」

「魔法使いとしての適正の1つです。『強化』や『転移』と同じ物ですよ」

「――!!」


 頭の中で、『強化』魔法の使い手の母さんや『転移』魔法の使い手のシャムルさんを思い浮かべていた事をマークさんに見透かされたようだ。だが、心を読まれた驚きはあっても、なぜか不快感はない。


「……ここまでとは……素晴らしいですね。イリスさんのおかげかな?」

「え? え?」


 ここまで見透かされているのだ。母さんの名前を知っていてもおかしくはない。だが、マークさんの様子は、名前だけでなく母さんを知っているような口調だったのだ。気になった俺はマークさんに聞いてみる。


「あの……母をご存じなんですか?」

「ええ、知っていますよ。彼女が『強化』の魔法を取得した時に一緒にいましたから」

「「え!?」」

「良かったら魔法についてご説明しましょうか?」

「「――!!」」


 この店に来てから何度目か分からない衝撃を受ける。思わず、俺はユリと顔を見合わせた。今まで魔法について知りたいと思ってはいたが、母さんやクリスからは教えてもらえず、自分達で調べてみても何もわからなかったのだ。


「「ぜひお願いします!」」

「本当にそっくりですね。ではご説明します。長くなりますので、こちらにお座りください」


 そう言って4人掛けのテーブルを勧められた。いつの間に用意したのか、紅茶と茶菓子も用意してある。あっけにとられた俺とユリは勧められるまま席に着いた。

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