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120.【王都出店2 初めての2人旅】

「そうですか……王都に」


 父さん達と話をした翌日、俺はクリスに手紙を見せて今後の予定を話した。


「うん。それでクリスにはここに残って欲しいんだ」

「……それは、わたくしのためですか?」

「違う。俺のわがままだ。俺がクリスを王都に連れて行きたくないんだ」


 俺が言い切ると、クリスは意外そうな顔をして笑う。


「ふふふ。そうですが。アレンのわがままですか……なら、仕方ありませんね」

「……いいの?」

「ええ。『わたくしのためを思って』と言われたら何が何でもついて行くつもりでしたが、アレンのためなら仕方ありません。その代わり、成人したら、わたくしも連れて行ってくださいね。新居は一緒に探しましょう」


 成人して『結婚したら』、わたくしも王都に行く。言葉には出さなかったが、クリスの心の声が聞こえた。


(そうだな……それまでにしっかり地盤を固めておかなくちゃ!)


「分かった。誕生日の前にこっちに戻ってくるよ。その次王都に行くときは一緒に行こう」

「ええ。待っています」


 クリスは寂しそうな顔をしながらも笑顔でそう言ってくれた。


 翌週、一通りの引継ぎを終えた俺は、ユリと一緒に王都へ向かった。何度も往復した道のりだが、ユリと二人で行くのは初めてだ。ちなみに護衛は雇っていない。ユリが一緒なら大丈夫と母さんのお墨付きをもらっているためだ。


俺とユリの2人旅は、盗賊達にとって絶好のカモに見えたのか、途中、何度も襲撃を受けたが、ユリが危なげなく撃退してくれる。あまりに襲撃してくる盗賊が多く、母さんから預かっていた専用の拘束具は途中で尽きてしまったため、それ以降の盗賊達は片っ端から殺していった。


(頼もしくなったな……いや、それは俺もか)


 最初に王都に向かった時、母さんから『拘束できない場合は、必ず殺す事』と言われて戸惑っていた頃が懐かしい。特に問題を起こすことなく、俺達は王都にたどり着いた。


 王都についた俺達は、さっそく貴族院に行き、受付の人に手紙を見せる。明らかに田舎から来た俺達に対し、意外にも丁寧に対応してくれた。手紙を照会してもらい、黒いカードを渡される。

 

(お店の地図や鍵じゃなくてカード? なんで?)


「こちらは、あなた方に割り当てられたお店のマスターカードです。高価な魔道具ですので、取り扱いには十分注意してください。」


 おそらく、俺達と同じような反応をした人がこれまでにも大勢いたのだろう。受付の人は丁寧に説明してくれた。曰く、マスターカードは、入口の施錠機能、店までの道案内機能、店内設備の稼働機能が備わった魔道具であるとの事だ。


 一通りの説明を受けた俺達はさっそくマスターカードを使ってみる。すると、マスターカードの上に地図が表示され、続いて現在地とお店の位置が表示された。


(グー〇ル・マップみたいだな)


 前世で定番だったスマホアプリを思い出しながらお店に向かう。20分ほど歩いたところで、該当のお店が見えてくる。人通りの多い大通りに沿いにあったその店は、明かりこそついていなかったものの、周りの建物にも負けない立派な建物だった。


(支店だって本店に比べれば4倍以上の大きさなのに……ここはその倍以上の大きさがあるな。どことなく、前世でよく行った夢の国のお店に似てる……)


 マスターカードを扉にかざすと、ガチャという音が聞こえた。扉を開けると、埃っぽい空気が外に流れ出ていく。そして、俺が一歩足を踏み入れた瞬間、店の中の明かりがついた。照明も魔道具のようだ。


(中も十分広いな。今までのラインナップだけだと足りないかもしれない。ここなら、客層も良さそうだし、多少高価な遊具でもいいかも)


 店の中を一通り見た後、両隣の建物も見てみる。向かって左側が飲食店で、右側は本屋だった。ちょうどお腹も空いてきたので飲食店に入ることにする。看板を見ると『メン屋』と書いてあった。


(『メン屋』? メニューは……『パスタ』に『ソバ』に『ラーメン』に……、っておいおいおい! 『メン』って麺のことか! これ絶対転生者が考えたメニューだろ!)


「いらっしゃい! お客さんうちは初めてかい?」


 メニューをじっと見つめていた俺達を見て、いかにも食堂のおばちゃんといった感じの定員さんが話しかけてくれた。


「そうなんです。来月から隣に店を出すことになって、下見に来ました。アレン=クランフォードといいます。これからよろしくお願いします」 

「ユリ=クランフォードです! よろしくお願いします!」

「お隣さんか! まだ若いのに、王都に店を出せるなんてすごいねぇ! あたいはピリム=マチルダ。こちらこそ、よろしく! 見ての通り、うちは飲食店だからよかったら食べて行っておくれ」

「ありがとうございます! ちなみにこの『パスタ』や『ソバ』というのは……」

「ふっふーん! 聞きなれないよね? それはね。あたい達のご先祖様が開発したメン料理だよ! メン料理が食べられるのはこの国でここだけさ!」


(やっぱり転生者が作った料理か! 凄い! 麺食べたかったんだよね。作り方がわからなかったから諦めてたけど、そば粉とかどうしたんだろ……麺に詳しい転生者だったのかな? なんにせよ、ありがとう! ピリムさんのご先祖様!!)


 俺とユリはピリムさんにメニューの説明を受ける。やはり俺が知っている麺料理だった。さっそく俺達はソバを注文する。


「お隣さんが飲食店ってラッキーだね」

「そうだね。さすがに毎日私が作るのは大変だったから助かっちゃった」

「え? いや、さすがに毎日作ってもらうのは申し訳ないし、当番制にするつもりだったよ?」

「……お兄ちゃんが作った料理は食べたくない」

「――!?」


(そ、それは……、俺の作った料理ってそんなに不味いのか!? いやそんなことは……あれ、でもクリスも俺の料理を見た時、苦笑いしていたような……あ、でも、バミューダ君は『美味しい』って食べてくれたから……いや、あれってもしかしてバミューダ君の気遣いだったのか!?)


 この時の俺は気付けなかったが、後にユリから『お兄ちゃんが作る料理って味は普通なのに見た目がめちゃくちゃなんだもん。どうやったらあんな色の食べ物ができ上がるの? う……思い出したら吐き気が……』と言われて、盛り付けのみ他の人に任せるようになるのだが、それはまた別の話。


 そうこうするうちに、注文したソバが運ばれてきた。

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