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117.【ロイヤルワラント授与8 国王とのリバーシ】

 俺達が全ての貴族に挨拶が終わる頃になると、会場を後にする貴族が出てきた。そろそろパーティーもお開きの時間らしい。


「失礼します。アレン=クランフォード様、国王陛下がお呼びです。隣の部屋までお越しください」


 突然、王宮の執事に話しかけられた。


(国王が俺に!? え? なんで?? あ……リバーシか!)


 一瞬混乱しかけたが、すぐに挨拶した時に言われたリバーシの相手をする事だと思い至る。


「お待ちください。アレンは未成年者です。私も同行させて頂けますでしょうか」


 俺をかばうように父さんが、俺と執事の間に入った。


「申し訳ありませんが、国王陛下からアレン様お一人でと仰せ付かっております。恐れ入りますがご理解ください」

「え!?」


 断られるとは思っていなかったようで、父さんが驚いた声を出す。だが、国王から指名されている以上、行かないわけにはいかない。

 

「大丈夫だよ、父さん。1人で行ってくる」

「っ! ……分かった。アレン、()()気を付けるんだぞ」

「分かってるよ。下手なことは言わないさ」


 父さんの言わんとしていることは分かる。相手はこの国の王だ。言葉遣い1つ間違えただけで首が飛ぶ。それに、下手な約束をしてしまえば、どんなに理不尽な内容でも必ず履行しなければならないだろう。しかもその約束は、明確に約束だと分かる必要はない。『そう解釈できる』というだけで、権力者は『約束した』とごり推すことが出来るのだから。ゆえに、国王との会話は細心の注意を払う必要がある。


「では、アレン様。こちらへお願い致します」


 執事に案内されて、俺はパーティー会場を後にした。




 執事の後に続いて王宮内を歩いていると、見覚えのある場所に案内される。


(ここって……モーリス王子と謁見した部屋?)


「こちらで国王陛下がお待ちです。どうぞ、お入りください」


 執事が案内してくれた部屋に入ると、すでに国王がソファーに座っていた。


「よく来たな。そちらに座りなさい」


 国王に言われて、対面のソファーに座る。テーブルの上にはリバーシが用意してあった。


「さて、さっそくやるか。おっと、その前に――」


 国王がテーブルに手をかざして、防音の魔道具を起動させる。


(部屋の中に執事がいるけど、リバーシするだけなら防音の魔道具は必要ないよな? ってことは……)


「――これでいい。さて、()()()()()()()()()()()()、リバーシを始めるぞ」


 やはり、『リバーシの相手をする』というのは、俺と話をするための理由付けだったようだ。でなければ、父さんの同席を許可しない理由が無い。


「私に何かお話があるのでしょうか?」


 俺はリバーシの駒を置きながら国王に尋ねる。


「うむ。理解が早くて助かる。そちとは一度、この国の未来について話をしてみたかったのだよ」


 国王もリバーシの駒を置きながら答えた。予想以上に大きな話に、俺の駒を置く手が止まってしまう。


「はっはっは。そう難しく考えるな。雑談と思って話してくれればよい」


(そんなわけにいくか!)


 思わず、心の中で突っ込んでしまう。国王との国の未来についての会話がただの雑談で終わるわけがない。すでにリバーシどころではなかったが、執事さんが俺達の様子を見ている以上、駒を置かないわけにはいかない。俺は手が震えないように注意しながら駒を置く。



「そちは、モーリスに肩入れしておるな?」

「はい。その通りです」

「それはなぜだ? モーリスが国王になれば、この国が良くなると思うからか?」


 国王はよどみなく駒を置きながら俺に聞いてくる。


「はい。少なくとも、カミール王子やサーカイル王子が国王になられるより、良い国になるかと愚考しております」

「ふふ……そうか。やはりそちも気付いておるのだな。モーリスの危うさに」

「それは……」

「確かにあやつは頭が良い。実績も確かだ。だが、どうにも危うい。自分を過信しすぎている。自分にとって都合のいい未来が必ず来る、という思い込みに捕らわれているのだ」


 俺も、以前モーリス王子と謁見した時に感じた事だ。モーリス王子は自分を物語の主人公だと勘違いしていると。


「ゆえに、周りの声に耳を傾けず、保険も掛けない。リスクなどお構いなしに突き進む。今は運よく問題は起きていないが、いずれ大きな問題をひき起こす。そうは思わんか?」

「……否定はできません」

「そうであろう。だが、それでもカーミルやサーカイルよりましなのも事実。あやつを王太子にと推す者の気持ちも分かる。貴族達に余計な不安を与えぬためにも、あやつを王太子に任命しなければならないだろう。しかしそうなれば、もはやあやつに進言出来る者はいなくなる。余の声すら届かぬだろうな」


 貴族達の間に、『モーリス王子の言う事は、凡人には理解できないが正しいのだろう』という風潮が流れていた。そのせいで、今まで進言していた部下達も、もはや盲目的にモーリス王子の言葉を信じて動いているらしい。


「だがなぜか、モーリスはそちの事だけは特別に扱っておる。自分と対等に扱っているようにすら見えるのだ。理由は分からぬがな」


 おそらく、モーリス王子はこの世界の住人を見下している。物語のキャラクターのように感じているのか、あるいは文明の劣る世界で過ごしている原始人だと思っているのかは分からないが、自分と対応の存在とは思っていないようだ。同じく前世の記憶を持つ俺を除いて。


「本題に入ろう。そちにモーリスの相談役になって欲しいのだ。むろん、表向きは、モーリスのお気に入りの商人として会ってくれればよい。そのうえで、モーリスが道を誤りそうなときに、そちから進言して欲しいのだ。むろん、政治的なことは、余や王妃がフォローする。どうだろう? 受けてもらえぬだろうか?」


 国王からの『お願い』は、本来一商人が断る事が出来るようなものではない。だが、この場はあくまで、リバーシの特訓の場であり、話している内容は『雑談』だ。断ることも出来なくはない。おそらく、父さんをこの場に呼ぶのを禁じたのも国王なりの配慮なのだろう。俺ならば断われる『お願い』もクランフォード商会会頭である父さんが断ることは難しい。ゆえに、俺は国王に答える。


「かしこまりました。その役目、引き受けさせて頂きます」


 恐らく、王命で強制的にその役目を押し付けられていたら、断ることは出来なくても、俺はその役目を全力ではまっとうしなかっただろう。一商人にここまで配慮してくれる国王だからこそ、力になりたいと思ったのだ。


「感謝する。アレン=クランフォードよ。この件はそちへの借りとしておこう。困ったことがあれば、余に相談するがよい」


 表向きは商人でとのことだったので、報酬は無いだろうと思っていたが、とてつもない報酬を貰ってしまった。


(国王からの借りとか……何に使えばいいんだよ!?)


「はっはっは! そう難しく考えるな。最後の手段の1つとして隠し持っておけばよいのだ。さて、リバーシもそろそろ終局だな」


 あまり考えずに打っていたが、リバーシの盤面はほぼ埋まりつつある。形勢は俺が有利だ。


「むむむ……話しながらでもちゃんと対応しておる。流石は開発者だな」

「いえ、それほどでも……」

「せっかくだ。話したいことは話せたが、もう2~3回付き合え」

「……かしこまりました」


(リバーシはカモフラージュ……なんだよな?)


 その後、結局5回も対局をこなして、ようやく解放された。


「いやぁ楽しかったわい。残念だが、これ以上遅くなると、王妃がうるさいからな。続きはまた今度にしよう」

「はっ! かしこまりました」


 国王が防音の魔道具を解除して宣言すると、執事がこちらに向かってくる。


「ご家族は控室でお待ち頂いております。そちらまで案内させて頂きます」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」


 執事が扉を開けて先導してくれた。執事について部屋を後にしようとした俺に国王が話しかける。


「アレン。頼んだぞ」

「はっ! 承知しております」


 国王の視線で、頼まれたのはリバーシの件ではなく、モーリス王子の件である事はすぐに分かった。国王からの信頼を損なうわけにはいかない。決意を新たに、俺は部屋を後にした。

 ロイヤルワラント授与編終了です。引き続き王都での話が続きます。


 ちなみに、国王がサーカイル王子を見限っているのは、改造ヘロインの件をミッシェルさんが貴族に触れ回っているからです。サーカイル王子が罰せられていないのは、ミッシェルさんが集めた証拠が『貴族達を納得させられる』が、『王子を罰することは出来ない』レベルの音声データだからです。国王に限らず、多くの貴族がサーカイル王子を見限っています。(もちろん、カミール王子の事も)

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