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114.【ロイヤルワラント授与5 王妃と側室への挨拶】

 王妃の前にひざまずくと、王妃から話しかけてくれる。


「クランフォード会頭、それにイリスもお元気そうね」

「はっ! 王妃様におかれましても、お元気そうで何よりです」

「アレン君も久しぶりね。私の近衛兵に『整形』を施してもらった時以来かしら? あの時はありがとうね」

「はっ! もったいないお言葉に感謝します」

「ブリスタ子爵令嬢も久しぶりね。()()()()()()()()()()ケーキ屋さん、美味しかったから『ロイヤルワラント』に推薦しちゃったわ」

「光栄です。王妃様」


 今日何度目か分からない衝撃が、貴族の間を駆け抜けた。かくいう俺も驚いてクリスを見る。


(キュリアス商会を王妃様に紹介したのってクリスだったの!? いやでも、

クリスも驚いていたよな?)


 ふと、ファミール侯爵家に挨拶をしていたカートンさん達の方を見ると、皆、驚いた顔でこちらを見ていた。


(カートンさん達も知らないみたいだし……どういう事だ?)


 後で聞いた話だと、クリスは王妃に俺との前日のデートの事を話しただけらしい。『デートの最後で行ったケーキ屋さんが美味しかった』と聞いた王妃が気になって取り寄せてみたら、本当に美味しかったので『ロイヤルワラント』に推薦したとの事だ。


 しかし、そんな事情を知らない物から見れば、王妃とクリスがとても親密な仲であるように見えるだろう。何人かの貴族がクリスを見る目が変わったのを感じる。


(……あれ? これってまたクリス狙いの貴族が増えちゃうんじゃ……)


「それにしても残念ね。貴女とアレン君がこんなに親密じゃなければ、シャルをアレン君の婚約者にしたかったのに」

「我が身に余る光栄に感謝致します。しかし――」

「――いいのよ。貴方とブリスタ子爵令嬢の仲は良く知っているわ。『整形』を開発したのが貴方達2人だという事もね。これからも2()()()この国のために尽くして頂戴」


(上手い! これで、クリスに変な縁談をねじ込もうとする貴族はいなくなる!)


 実際、先ほど目の色を変えていた貴族達が諦めの表情を浮かべていた。王妃の言葉にはそれだけの力があるのだ。


「はっ! 微力ながら尽力させて頂きます」

「もったいないお言葉に感謝しつつ、誠心誠意努力致します」

「ふふふ。頑張ってね。この後、何か言われるかもしれないけど、私は貴方達の味方だから」


 王妃が側室をちらりと見て言った。側室は先ほどから扇子で手を隠しており、表情は読み取れないが、その眼が鋭くなったように感じる。




 その後、父さんと王妃が簡単な挨拶を交わして、王妃との挨拶は終了した。次はいよいよ側室への挨拶だ。側室の前に歩いていき、膝をついた瞬間、側室が言葉を発した。


「挨拶は不要よ。この後()()()、私の生家に挨拶に行くのでしょう? ならば私から話すことはありません」


 俺達を見ずに発せられた言葉を理解するのに時間がかかってしまう。


(『すぐに』って……ファミール侯爵家より先にって意味だよな? は? なんで? なんで俺達が、王妃様の生家より、側室様の生家を優先するって思ってるんだ?)


 混乱する俺の横で父さんが冷静に対応する。


「お言葉ですが、我々は王家の皆様へのご挨拶が終わった後はファミール侯爵家へご挨拶に伺うつもりです」

「あら? でも今ファミール侯爵家はキュリアス商会の方達が挨拶しているわよ。」

「であれば、我々はキュリアス商会の方達の挨拶が終わるまで待たせて頂きます」

「そんなことをすれば、キュリアス商会の方達のプレッシャーになるわ。あの方達は王妃様から推薦されたのだから、話が長くなってしまうのも仕方ないでしょう。そうならないためにも、貴方達はバージス公爵家に挨拶するべきではなくて?」


 ここに来て、ようやく俺は父さんが言った『そう簡単な話ではない』という言葉の意味を理解した。要は側室が、『ロイヤルワラント』を授与された2組が両方とも先にファミール侯爵家に挨拶するのが気にくわないのだろう。ゆえに、王妃から直接推薦を受けているキュリアス商会は仕方ないが、クランフォード商会は先にバージス公爵家に挨拶に来いと言っているのだ。おそらく、俺達がキュリアス商会より先に王族に挨拶していても同じことを言ったのだろう。


「いい加減にしろ!」


 父さんと側室が押し問答を続けていると、横からカミール王子が口をはさんだ。


「黙って聞いていたが……貴様、母上の命令が聞けぬのか?」

「お言葉ですがカミール王子。挨拶の順番は我々が決めることです。側室様と言えど、勝手に決めることは出来ません」

「王命が聞けぬというのか!?」


 カミール王子の発言に周囲がざわついた。


「王命であるというのであれば従います。ですが、その場合、王印の押された命令書の提示をお願い致します」

「我は王子だぞ!」

「ならばこそです。国王陛下であれば口頭の命令で王命とすることもできますが、側室様や王子様からの口頭での命令は王命ではありません」

「き、貴様……」


 カミール王子は怒りに肩を震わせていたが、父さんは毅然と言い返している。


(な、なんというか……この王子、馬鹿過ぎないか!? 話がすり替わってるし、論点ズレまくりだし……)


 周りの貴族達も呆れていた。何人かは諦めの表情を浮かべている者もいる。おそらく、第一王子派閥の者だろう。


「まぁまぁ兄上、落ち着いて下さい」


 暴走気味のカミール王子をサーカイル王子がなだめる。


「サーカイル……しかし――」

「――彼らの言い分にも一理あります。ここは冷静に……ね?」

「むぅ……」


 一理どころではなく、全ての理がこちらにあるのだが、口には出さない。


「母上も落ち着いて下さい。彼らはモーリスの推薦でここにいるのです。であれば、モーリスの実母である王妃の生家を優先するのも仕方ないでしょう。そんなことに拘って、彼らとの関係を悪化させてしまっては元も子もありません。違いますか?」

「う……まぁ……そうですね」


 そのまま側室の事も言いくるめた。3人のパワーバランスを垣間見た気がする。


「さて……お騒がせしてしまい申し訳ない。私はサーカイル=ルーヴァルデン、この国の第2王子です。以後、お見知りおきを」


 王子とは思えないほど柔らかい物腰のサーカイル王子に毒気を抜かれそうになるが、そうもいかない。


(サーカイル王子……ガンジールに改造ヘロインを渡していた件の黒幕で、王国の東側を弱体化させようとした思われる王子だ。見た目通りの王子じゃない)


 本質的に敵であることを思い出し、俺は、笑顔を浮かべながら、気を引き締めた。

学生の皆さんが夏休み突入と聞いて早目の投稿にしてみました!

少しでも、面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、ブックマーク、高評価を頂けると嬉しいです。

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