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111.【ロイヤルワラント授与2 授与式】

 俺と父さん、そしてカートンさんともう一名のキュリアス商会の方と一緒に、案内役の男性の後ろについて歩く。


「そういえば、ちゃんと紹介しておりませんでしたね。こちら、息子のアレンです」

「おお、そうか、アレン君というのか。何度も店で見ているから初めましてというのも変な気がするが、改めてよろしく頼むよ。こいつは息子のケニーだ」

「ケニーです。よろしく、アレン君」

「こちらこそ、よろしくお願いします!」


 ケニーさんは、20代くらいの青年で、その顔にはカートンさんと同じく、柔らかい笑みを浮かべていた。


 しばらく歩くと、とても重厚感のある豪華な扉の前で案内役の男性が立ち止まり、俺達に最後の確認をする。


「この扉の奥が、謁見の間です。皆さん準備はよろしいですね?」


(この扉の奥に国王がいるのか……あれ? ……え、あ、やばい。なんか緊張してきた)


 扉の向こうを想像したら、急に怖くなってくる。


 モーリス王子と謁見した時は、豪華ではあるが一般的な応接室に近い部屋での謁見だった。今思えば、あれはモーリス王子の、こちらを緊張させないようにする心遣いだったのだろう。


 あの時とは違う、いかにも『高貴な身分の方がいる場所』だと主張してくる扉を前に、俺は動けなくなってしまう。


(待って! やばいやばい! もうすぐ授与式が始まる! 落ち着け! 落ち着け!!)


「アレン」


 焦る俺の肩に父さんが手を置いた。


「お前、クリス様とキュリアス商会のケーキ食べたのか?」

「え? ……あ、うん」

「美味かったか?」

「そりゃ、美味しかったよ」

「そっか。なら、明日案内してくれ。もちろん母さん達も一緒にな。でないと、お前とクリス様だけずるいって怒られちまうぞ?」


 父さんがニヤリと笑う。


「そう……だね。皆で行こうか」


 父さんにつられて俺も笑顔になる。先ほどまで重くのしかかっていた緊張が大分薄れた。


「はっはっは! それはいい。ぜひいらしてください。歓迎しますよ」

「あ、ありがとうございます。必ず行きます」


 カートンさんも笑ってくれる。


(父さんもカートンさんも凄いな……)


 2人のおかげで、重苦しい空気も感じなくなった。


「準備ができたようですね。それでは、扉を開きます」


 案内人の男性によって扉が開かれ、俺達は謁見の間へと足を進める。




 次の瞬間、全身に視線を感じた。


 扉から国王の下まで続いている赤いカーペットの両脇に、40人近い貴族達がいたのだが、そこにある全ての眼が俺達を観察していたのだ。


(大丈夫……大丈夫だ)


 視線の圧力を感じるが、下を向くことはしない。堂々と胸を張って歩き続ける。


 貴族たちの間を抜け、王の前まで歩み出て、膝をつき、頭を下げた。


「面を上げよ」


 威厳のある声が頭上から聞こえた。ゆっくりと顔を上げる。


「そちらがキュリアス商会とクランフォード商会か」


 国王が俺達を見渡した。貴族達から感じた以上の圧力を感じて、思わず目を逸らしそうになるが、全身に力を入れて顔を上げ続ける。


「ふむ。まぁ良いだろう。――みな、聞くがよい! この度、王妃とモーリス王子から『ロイヤルワラント』の推薦があった! 王妃がキュリアス商会のケーキを、モーリス王子がクランフォード商会のリバーシとチェスを、それぞれ『ロイヤルワラント』に推薦したのだ!」


 国王が話している最中なので、声を上げるような貴族はいなかったが、貴族達からの圧が強くなったように感じる。


「厳選な調査の結果、それぞれの商品は『ロイヤルワラント』を授与するにふさわしい商品であることが証明された! よって、キュリアス商会のケーキとクランフォード商会のリバーシとチェスに『ロイヤルワラント』を授与することを、余の名に置いてここに宣言する!」


 国王の宣言の直後、謁見の間は拍手に包まれた。


「双方とも、『ロイヤルワラント』の名に恥じぬよう、より一層精進せよ」

「「はっ! 身に余る光栄に感謝し、日々精進致します!」」


 父さんとカートンさんが声を揃えて返事をした。ちなみにこの返事は授与式のしきたりで決まっている言葉だ。


「うむ。この後、そちらの『ロイヤルワラント』授与を祝うパーティーを行う。より多くの者と交流を深め今後に活かせ。さがってよい」

「「はっ! ありがとうございます!」」


 国王から退出の許可が出たので、立ち上がって来た道を戻る。行きよりも強い貴族達の視線を感じながら、俺達は謁見の間を後にした。




 謁見の間の扉が閉まった直後、俺はよろけて転びそうになってしまう。


「……あっ!」

「おっと! 大丈夫か?」

「ご、ごめん! 大丈夫! ……ってあれ? 足が……」


 父さんが支えてくれたので転ばずに済んだが、足に力が入らず自力で立つことが出来ない。


「お疲れさん。よく頑張ったな」


 そんな俺を父さんがおんぶしてくれる。


「ちょ! 恥ずかしいよ」

「無理するな。歩けないだろ?」

「それは……そうだけど……」


 とはいえ、この年でおんぶは恥ずかしい。


「謁見の間で倒れなかっただけ立派でしたよ。なぁ?」

「ええ。その年で大したものです。正直、僕もギリギリでした」


 カートンさんとケニーさんも褒めてくれる。


(いや、確かに外見年齢は12歳だから変じゃないけど……でも恥ずかしい!)


 結局、控室まで父さんにおんぶしてもらったが、控室に入る前に降ろしてもらう。


(父さんには悪いけど、こんな姿、クリス達に見られたくない!)


 父さんの背で少し休めたからか、問題なく自分の足で立てた。控室に入るとクリスが出迎えてくれる。


「アレン! お疲れ様です。大変だったでしょう」

「ただいま。本当に大変だったよ。たったあれだけの距離を歩いてこんなに疲れたのは初めてだ……」

「謁見の間は独特の雰囲気がありますからね。パーティーまではまだ時間があります。少し休んでください」

「ありがとう。そうするよ」


 女性陣はパーティーに向けて色々準備があるようだが、俺は服を着替えるだけだ。急いで支度する必要はない。


 クリスの言う通りソファーに座って一息つくと急に眠気が襲ってくる。突然に襲ってきた眠気に抗う暇もなく、俺は眠りに落ちた。

 授与式からパーティーまではそれなりの時間があります。これは、参加者が授与式用の服装からパーティー用の服装へ着替えるためです。男性は数分で済みますが、女性は着替えの他に髪のセットやメイクも行うため、とても時間がかかります。そのため、パーティー開始までは時間があるのです。

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