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10.【開店準備2 フィリス工房】

本日1話目です。少し短いです。

 翌日、母さんに店番を任せ、俺達は隣町へ向かう。前回以上に緊張していたが、不思議と悪い気分ではなかった。今回はまず役所に向かい、正式に店舗を割り当ててもらう。2か月分の店舗の使用料を前払いし、店舗の鍵を受け取る。


 鍵を受け取った俺達は、店舗に向かう。鍵を使って中に入ると、少し埃っぽい匂いがしたが、備品などは特に問題なかった。


「軽く、倉庫の掃除をしよう。リバーシを置けるスペースだけ綺麗にできればいい。掃除が終わったら、フィリス工房に向かうけど、埃っぽいから窓は開けたまま行こう」


 俺は父さんとユリに指示を出す。支店長は俺なのだ。俺が判断して指示を出さなければいけない。




 ある程度綺麗になったところで、フィリス工房に向かった。今回は俺とユリも一緒に中に入る。


 フィリス工房の中は、工房特有の騒音で満ちていた。受付に女性がいたので、声をかける。


「すみません! クランフォード商会のものです。本日納品予定のリバーシを取りに来ました!」


 騒音に負けないように声を張り上げた。


「お待ちしておりました。確認のため、商会証をご提示ください」


 そう言われて役所から渡された商会証を提示する。女性が何かの道具を商会証に近づけるとピッ!という音が聞こえた。おそらく、商会証を確認する魔道具だったのだろう。


「確認が取れました。リバーシ600個の納品ですね。商会証の確認ができましたので、次回から店舗でのお渡しも可能ですが、いかがいたしましょうか。配送料は1000ガルドです」

「配送でお願いします!」

「承りました。次回から店舗でのお渡しとさせて頂きます。それでは本日の納品分について、お渡しさせて頂きます。こちらへどうぞ」


 女性に案内されて倉庫へ向かう。女性が倉庫の鍵を開け、入り口を開けると、裸の女性が酒瓶を抱えて寝ていた。


 次の瞬間、俺の視界が真っ暗になる。一瞬パニックになりかけたが、ユリが俺の目をふさいだのだと気づき、されるがままにした。


「…………マリーナ…………何してるんですか?」


 女性が心底あきれた声を出す。どうやら裸の女性が工房長のマリーナさんのようだ。


「くー……くー……」


 外と違い、倉庫の中は静かだった。遠くから寝息が聞こえる。


 カツ、カツ、カツと女性が歩く音が聞こえたと思ったら、何かを蹴っ飛ばす音が聞こえた。


「ぐえっ!!」


 どうやら女性がマリーナさんを蹴ったらしい。寝息が聞こえなくなり、代わりにマリーナさんのうめき声がきこえた。


「うぅぅぅ………………ミ、ミケーラ……なにするのよ」

「それはこっちのセリフです。工房長。こんなところで、そんな格好(・・・・・)で何してるんですか?」

「何って…………え!?」


 おそらくだが、マリーナさんが自分の格好を確認したのだろう。驚きの声を上げた。


「キャーーーー!!!」


 マリーナさんの悲鳴が響き渡る。


「わ、私! またやっちゃったの!?」

「はぁ…………とりあえずこれを着てください。お客様の目に毒です」

「お客様!?」


 マリーナさんの慌てた声がした。続いて、布が投げつけられる音と衣擦れの音が聞こえる。


 少しすると、視界が明るくなった。ユリが手を放してくれたようだ。


 目の前に、顔を真っ赤にしたマリーナさんと申し訳なさそうにしている受付のミケーラさんがいた。


「は、初めまして。変なものを見せちゃってごめんなさい。フィリス工房の工房長のマリーナ=フィリスです。こちらは妹のミケーラです」

「改めましてミケーラ=フィリスです。姉が大変失礼しました」


 姉妹だったのか。よく見ると、二人とも金髪で整った顔立ちがよく似ている。


 似たような顔立ちなのに、ミケーラさんは髪をまとめていて、非常に真面目そうな印象なのに、マリーナさんは髪がぼさぼさで、どこか抜けた印象を受ける。


 いかに、身だしなみが大事かをわからせてくれる姉妹だ。


「初めまして。クランフォード商会支店長のアレン=クランフォードです。こちらは妹のユリです」

「初めまして。ユリ=クランフォードです!」


 俺達も自己紹介をする。子供の俺が支店長ということに、二人とも驚いていた。


「自己紹介は済んだかな」


 ユリの自己紹介が終わったタイミングで倉庫の入り口から父さんが顔を出した。そういえば、倉庫に来るまでは一緒だったはずなのに、いつの間にかいなくなっていたことに今更ながら気付く。


「父さん! どこに行ってたの!?」

「いやぁ、倉庫の中は外と違って静かだからね。マリーナさんがここで寝てる可能性があると思って外にいたら、案の定、悲鳴が聞こえたから外で待ってたんだ。母さんに怒られたくないからね」

「ルーク様、イリス様にはいつもご不快な思いをさせてしまい、申し訳ありません。」

「うぅ……で、でも! イリスさんって嫉妬してるふりしてルークさんに迫ってますよね!? 不快な思いなんて――」


 バシッ!


「痛っ!」


 ミケーラさんがマリーナさんの頭を叩いた。


「痛ったー……何するの!?」

「子供の前で馬鹿な発言をする姉を止めました」


 ミケーラさんから苦労人のオーラが漂っている。


「はぁ……アレン様、ユリ様、馬鹿な姉で申し訳ありません。商品の品質は確かですので、今後もお付き合いいただければ幸いです」


 そう言ってミケーラさんが荷車まで案内してくれた。荷車にはすでにリバーシが積んである。その中の1つを手に取ってみると、確かに自作のリバーシより良いできだった。


「確かに、良いできですね。ありがとうございます。支払いは商会証でいいですか」

「もちろん結構です」


 そう言ってミケーラさんは先ほど受付で使用した魔道具に何かを設定する。俺が商会証を提示すると、商会証に魔道具を近づけた。受付の時とは異なる、ピピッ!という音がする。


「ご提示ありがとうございます。手続きは完了です。荷車は明日までにご返却ください。お疲れ様でした」

「お疲れ様でした。ルークさん! 今度はイリスもつれてきてね! 3人で飲みま――」

「お邪魔しました!」」

「「お邪魔しました!!」」


 父さんが荷車を押して外に出る。俺とユリも慌てて挨拶をして追いかけた。


「アレン君もユリちゃんも今度飲も――」


 バシッ!


「痛ったい!」 

「最後まで本当に申し訳ありません! これからもごひいきにしてください!」


 後ろでは、マリーナさんが頭を抱えてうずくまっており、その隣でミケーラさんが深々とお辞儀をしている。


(本当に苦労してそうだな)


 ミケーラさんに同情してしまう。品質も確かだったので、今後もこの工房を利用してあげようと心に留めた。


最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

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