1.【あの日~復讐の始まり1 だるま】
初投稿です! めちゃくちゃ緊張してます。
途中から視点が切り替わります。
【sideアレン 誕生日】
15歳の誕生日のあの日、俺の幸せは崩れ落ちた。
いつもと同じドアだった。いつもと同じようにドアを開ける。
いつもと同じように「ただいま」と言っても、いつも聞いていた「おかえり」という声が聞こえない。それどころか、静まり返った家からは何の生活音も聞こえない。聞こえるのはやけにうるさい自分の心臓の音だけだった。
家の中に入ると、所々荒らされた後があり、金目のものは何も残っていない。嫌な予感を振り払うように奥に進むと、だんだんと血の匂いが漂ってくる。そして見つけてしまった。
椅子にロープで縛り付けられている父さんの身体。その身体には左腕が無く、足元には血の池ができている。
複数の男に乱暴されたことがわかる母さんの身体。身体中に痛々しい痕があり、汚らわしい何かがこびりついている。
父さんを縛り付けているロープを切った。しかし、その身体が再び動くことは無かった。
母さんの身体を水で洗い、綺麗な布で拭いて、こびりついている汚れを落とした。しかし、その身体が再び動くことは無かった。
父さんに預けていた特許権が譲渡された事を、後から知った。特許権の譲渡には、保有者が同意している事を魔道具に記録させなければならない。父さんがどのような状態で同意させられたのか。そのために母さんがどれだけ苦しんだのか。嫌というほど理解できた。
(なんで――なんで、なんで!なんで!?)
明らかに特許権を狙った犯行だ。
(俺が特許権を預けたから? 色々開発したから? 裕福になったから? ……いや違う。俺達は何も間違っていない。こんなことをするクズどもがいるからいけないんだ。これ以上は絶対に奪わせない。奪われる前に殺してやる!)
相手がどこの誰であっても絶対に許さない。この世界はなめられたら終わりだ。やられた分はきっちりやり返す。
ここに1人の復讐者が生まれた。
【2年後 sideアイズ 復讐の始まり】
「――はぁ、はぁ、はぁ」
暗い森の中を全力で走る。
「なんなんだ……なんなんだよ、あいつは!!」
振り返るが、人影は見えない。
「はぁ、はぁ…………まいたか?」
息を整える。ここまで、かなり飛ばしてきた。精鋭部隊に属していた俺が全力疾走したのだ。まいたに違いない。
ドバン!
静かだった森の中に乾いた破裂音が響く。それと同時に、俺の左足が吹き飛んだ。
「いっ…………!? ぐあぁぁぁああ!!!!」
バランスを崩して、地面に転がる。遅れてやってきた激痛に耐えきれず絶叫した。
「足が! 俺の足が!!!!」
パキッ
「!!」
背後から枝を踏む音が聞こえた。足の痛みを忘れて振り返る。
「ぁぁぁぁ………………」
信じたくなかった。しかし、『そいつ』はそこにいる。右手には、煙を上げている魔砲銃が握られていた。
なぜこんなことになったのか。
■ ■ ■
【数分前】
仕事終わりに後輩と飲みに向かっていた。今日は新しくできたバーに向かう予定だ。引っ込み思案な後輩に、バーのママの口説き方についてレクチャーしながら歩いていると、急に足元が光り、気が付いたら見知らぬ森の中にいた。
「――転移魔法!?」
人間を転移させるとなると、かなり高度な転移魔法が必要だ。産まれて初めて転移を経験した俺達は呆然と立ち尽くす。
「ここは………………どこだ?」
あたりを見渡すも、見えるのは木ばかりで、動物の気配すらなかった。静寂につつまれた森は薄気味悪く、下手に動くことができない。
「――誰か! 誰かいないのか!?」
転移魔法でここに飛ばされたなら、誰かが意図的に俺達を飛ばしたはずだ。そいつが俺達に友好的かはわからない。むしろ敵である可能性が高い。それでも、声を出さずにはいられなかった。
声が届いたのか、黒いフードをかぶった男が現れる。
「アイズとブルーだな?」
『そいつ』は俺達の名前を呼んだ。どうやら俺達の素性はばれているらしい。
「そうだが……貴様は誰だ?」
『そいつ』は答えない。何もしゃべらず、フードの奥から俺達のことをじっと見つめてくる。
「……目的はなんだ?」
俺は沈黙に耐えられなくなり、さらに質問をした。
「俺達を転移させたのは貴様だろう? 何が目的だ? 答えろ!!」
「――――俺の質問に答えてもらうぞ。2年前、お前達はある家を襲ったな?」
心当たりはある。2年前の極秘作戦だ。成金野郎を襲い、強引に特許を譲ってもらった。なかなか譲らなかったから色々苦労した事を覚えている。しかし、作戦の詳細は極秘事項だ。たとえわずかな情報でも、漏らすことはできない。
そもそもなぜ、極秘作戦を知っている? 逆に問い詰めようと『そいつ』に詰め寄る。
「貴様…………どこでそれを知った!?」
俺が相手に詰め寄り、相手の視界から後輩を隠す。相手の注意が俺に向いているうちに、後輩が拘束用の魔道具を起動する。いつもの流れだ。
「答えろ!? どこでその――」
ドバン!
「……!?!?」
突然聞こえた破裂音に、頭がくらくらする。目の前の『そいつ』が後輩に何かの魔道具を向けていた。見たこともない魔道具だ。その魔道具からは煙が上がっている。先ほどの破裂音はこの魔道具から発せられたようだ。
「貴様、何を――」
ドサッ!
背後で人が倒れる音がした。振り向くと後輩と思われる身体が倒れている。しかし、その身体に頭はついていなかった。
「…………ブルー?」
耳も口もないのだ。返事があるわけがない。
「ブルー? おい、ブルー?? どうしたんだ、おい!」
現実を受け入れられず、話しかけるが、返事はない。ようやく後輩が死んだことを理解した。
「貴様!! よくもブルーを!! いきなり何をするんだ! なんなんだ、その魔道具は!?」
「これか? 『魔砲銃』と言って命中すると破裂する弾を発射する魔道具だ。俺からは絶対に逃げられない。まぁ、安心しろ。質問に答えたら痛い思いはしないから。もう一度聞くぞ。お前達は俺らの家を襲ったな?」
「『魔砲銃』? 聞いたことな…………ん? 待て! 貴様、あの家の子供か!?」
極秘作戦の後、子供を捕まえようと別の部隊があの家に向かったが、だれも生きて戻らなかった。送り込んだ部隊の死体は、全て身体の一部が破裂していたと聞く。ブルーの頭も破裂していた。まさか――。
「ああ、そうだ」
「お、お前が!? ひぃ! ひゃーぁぁああああ!!!!」
俺は逃げ出した。逃げて逃げて逃げて。そして捕まったのだ。
■ ■ ■
「だから逃げられないってのに。繰り返すけど、痛い思いをしたくなければ俺の質問に答えろ。いいな?」
「し……知らない! 何も知らない!」
「…………そうか」
ドバン! ドバン! ドバン!
3発の銃声が響き、男の右足と両腕が吹き飛ぶ。
「ぐがぁぁぁああああ!!!!!!」
「思い出したか?」
「が……ぐ……ぁぁ……し、知らない。本当に…………知ら……な……い」
痛みと出血で意識が朦朧としてくる。薄れていく意識の中で、もうすぐ死ぬ事を悟った。恐怖はない。むしろ、死んで楽になれることに安堵さえ感じる。
「まだダメだよ。死ぬ前にお兄ちゃんの質問に答えて」
『そいつ』以外の声に顔を上げると、いつの間にか『そいつ』の隣に少女がいた。『その子』が、こちらに手をむけている。自分の体が暖かい光に包まれているのを感じた。
「これで大丈夫。ほら、もう痛くないでしょ? ちゃんと答えて」
『その子』が手を下ろす。両腕両足こそ無かったが、痛みは消え、出血も止まっている。驚愕した。これでは、死ぬ事ができない。
「あ……あ、あぁ…………」
「もう一度聞くぞ。2年前、お前達は俺達の家に強盗に入ったな? 目的はなんだ?」
「お、俺達は……か、金が欲しくて……」
「へーー、そっかぁーー…………でもそれだけなら、父さんを痛めつけたり、母さんを辱める必要は無いよな?」
「い、いや……その……」
こいつがどこまで知っているのか分からない。下手なことは言わない方がいいだろう。
「同じ日に父さんが持ってた特許権が譲渡されたんだ。お前達が父さんに無理やり、譲渡を迫っただろ?」
「それは……」
「知ってるだろうけど特許権の譲渡には保有者の同意が必要なんだよ。それは知ってるよな」
「それは……知っているが……」
『そいつ』はにっこりとほほ笑む。
「今の保有者のダーム=マグゼムなんてやつ、俺は聞いたことないんだよ。なぁ、あんただったら知らないやつに特許権譲渡するか?」
「いや………………しない」
『そいつ』はさらににっこりとほほ笑んだ。
「そうだよなぁ。つまりだ。お前達が強盗に入ったあの日、父さんを拷問して譲渡に同意させようとしたってことだよな? でもさ。考えてもみろよ。特許権の価値は凄まじいだろ? 父さんが持ってた特許権の1個か2個持ってるだけで一生遊んで暮らせるだろうな。そんなもん、そうそう簡単に譲渡しないよな?」
「……」
俺は何も言えなかった。
「しかもだ。あの特許、開発者は俺なんだ。父さんは俺が成人するまで預かっててくれただけなんだよ。息子からの預かり物、たとえどんなに痛めつけられても渡さなかっただろうな」
「……」
「だからさ。お前たちは、父さんの目の前で母さんを辱めたんだろ? 違うか!!」
「ひっ!」
「母さんの死体な? 舌が嚙み切ってあったんだよ。きっと父さんの負担にならないように自害したんだろな」
「……ぅ」
「知ってるか? 舌って嚙み切るとめちゃくちゃ痛いけど簡単には死ねないんだぜ。喉が詰まって窒息するか、舌からの出血で出血死するか。まぁいずれにしても地獄の苦しみだよな」
「ぅぅぁぁ」
「お前試してみるか? 因果応報って言葉知ってるよな? 何か悪い事したら、自分に帰ってくるんだぜ?」
俺は体の震えを止めることができなかった。『そいつ』は全部知っていたのだ。あの日、確かに俺達は家に押し入り、父親に特許権の譲渡を迫ったが、断られたから父親と母親を拷問した。『そいつ』は全部知っていて俺達を転移させたんだ。
『そいつ』の目的が俺達への復讐ならまだいい。あの時、その場にいた仲間の情報が目的ならとっとと話すのが賢明だ。しかし、もしそうでないならヤバいことになる。
だけど、俺には舌を噛み切って自殺する勇気はない。それに即死できなければ、『その子』に治されてしまう。
「問題はな? 誰がそれを指示したかって事なんだよ。実行犯であるお前達3人を許す気はないが、所詮下っ端だ。黒幕がいるんだろ? そいつが知りたいんだ。さっさと吐け!!!!」
「う……うぅ…………」
やはり、こいつは全部知っていた。下手な誤魔化しが通用しない事を悟る。しかし、話すことはできない。話せば、『あの人』が許すわけがない。『あの人』にだけは逆らえない。『あの人』の恐怖に支配される。沈黙するしか無かった。
「…………」
「……話す気はない、か。なら仕方ないな」
本日中に後3話投稿します。
次話は拷問回です!