2017.10.24 火曜日 サキの日記
大変なことに気づいてしまった。
もうすぐ秋浜祭なのに、歌うはずだった奈々子はもういない。
つまり、私がステージで歌わなきゃいけなくなったのだ!
出場取り消しにしてもらえないか頼めないかなと思ったけど、佐加には『え〜出ようよ〜』と言われるし、あかねにも『仮病を使って逃げたら暗殺してやる』とマジの目で脅された。もうやるしかない。
あと一週間で歌う予定の曲(奈々子が作った暗い感じの曲)をマスターしなければならない。私は保坂に伴奏を頼み、放課後に音楽室で練習することにした。ヨギナミと奈良崎も付き合ってくれた。
声量が足りねえ。
保坂がすぐにディスってきた。
歌より前に呼吸の練習を延々とさせられた。あまりにも長かったので見ていた佐加が飽きてしまい、
つまんね。
やっぱカラオケ行ってさ〜、好きな曲歌いまくろうよ。
その方が楽しいし早いって。
と言った。私もその意見に賛成だったので、明日みんなでカラオケに行くことになった。保坂は最後まで『腹式呼吸が』とか文句言ってたけど。
歌だけを残して、奈々子は消えた。
題名は『かなしむな』ポジティブなのかネガティブなのかよくわかんない歌。
ヨギナミは『人生ってそういうものだよ』と言っていたけど。
部屋に戻ると、やっぱり、まだ奈々子がどこかで見てるんじゃないかという気がして、無駄に壁や天井を見てしまう。でも、もう出てこない。
奈々子はどこへ行ったんだろう?
あの橋の向こう側には何があるんだろう?
天国って本当にあるんだろうか。それとも、死んだら消えるだけなのか。
いや、消えることはない。私の中には奈々子という女の子の存在が残っている。記憶からなくならない限り、彼女の存在が消えることはない。少なくとも私にとっては。
修平、私達には連絡くれないくせに、伊藤ちゃんには毎日いろいろ言ってくるらしい。今日は『先生がいなくなって静かすぎて怖い』と言っていたらしい。お見舞いに行きたいけど(私はいつでも行けるんだけど)、みんなにとっては東京行きの航空券の高さがハードルになっている。でも、勇気と奈良崎は、それぞれ松井マスターと奈良のとっつぁんを説得にかかっているらしく、そのうちお金を出してもらえたら行けそうだと話していた。
私も行こうかな。できれば伊藤ちゃんを連れて。
勇気と一緒は嫌だ。なんとなく気まずい。




