2017.10.22 そして、いつかの創成川
夜の創成川。
昔、奈々子が街をうろついていた頃の、まっすぐなフェンス。ぽつんぽつんと等間隔に照らす明かり。
その横に、久方、早紀、修平の3人が立っていた。そして、5メートルほど離れた所に、橋本と、奈々子と、新道先生がいて、生きている3人の方を見て微笑んでいた。
とうとう、別れの時が来ました。
新道先生が言った。
今まで迷惑かけたな。
橋本が言った。
本当にごめんね。
奈々子が言った。
あまりに突然のことだったので、久方も早紀も修平も、言葉がすぐに出てこなかった。
もう過去のことも俺のことも忘れて、
自分の未来を生きろよ。
橋本が久方に言った。
本当に、もう行ってしまうの?
久方が尋ねた。
本当に?
ああ、本当だ。ようやくな。
橋本がそう言って笑った。
サキ。
奈々子が言った。
お母さんと仲良くね。
大丈夫、もう仲直りしたから。
サキが言った。
本当にもうお別れなの?
本来いるべき場所に帰るだけ。
奈々子が笑った。
サキ、あなたと一緒にいたおかげで、面白いものをたくさん見れて楽しかった。
何より、あなた自身がとってもユニークで面白い存在なの。それを忘れないでね。
2人とも、そろそろ行きますよ。
新道先生が言いながら向こう側へ向かって歩き出した。その方向には光っている場所があった。橋本は久方に軽く手を振り、奈々子は『バイバイ』と言って、新道先生の後について歩き出した。
──先生!
修平がようやく言葉を発した。幽霊3人が振り返った。
あのっ──今まで、ありがとう。
先生に会えて、俺──俺──
そこで言葉を詰まらせてしまった。生まれた時から今までずっと新道先生と一緒にいて、いろいろな思いを共有してきたので、話したいことが多すぎて言葉が出てこなくなってしまったのだ。
先に行って待っていますが──
新道先生が言った。
なるべく遅く、来てください。
そして優しく笑うと、また歩き出した。
橋本!
久方が叫んだ。今度は橋本だけが振り返った。
ありがとう。
すると、
お礼を言わなきゃいけないのは俺の方だ。
お前と一緒にいて人生を貸してもらったおかげで、大切なことに気づけた。
ありがとうな。
そして3人の幽霊は川の向こうの光る場所へ去っていった。早紀は、3人が向かっている先に、女が立っているのを見た。それは、ヨギナミの母親によく似ていたが、誰でもないただの女のようにも見えた。




