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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2017年10月

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993/1131

2017.10.21 1996年

 初雪の中を、創が走っていく。

 この子は雪が大好きだ。子供とはそういうものだ。大人になると雪は渋滞や交通障害、面倒な雪かきなどのイメージでゆううつなものになってしまうが、何も知らない子供にとっては、ただ『空から落ちてくるとてもきれいなもの』なのだ。

「そんなに急ぐと転ぶわよ」

 声をかけると、振り返って笑う。なんてかわいらしいのだろう。

「雪だるま作る!」

「まだ早いわよ。もっと積もってからね」

 そう言うと、一瞬不満そうな顔をした。でもすぐ笑顔に戻ってまた走り出した。

 私が子供の頃は、そんなに無邪気ではいられなかった。


『お前は悪い子だ』


 また、あの声が聞こえる。

 そして思い出す。私が殺した者のことを。

 橋本のことを。


 ああ、そうだった。私は罪を犯した。

 私は、幸せになどなってはいけないのだ。


「お母さん、どうしたの?」

 

 立ち止まって動かなくなった私を見て、創が不思議がっている。

 この子は、何も知らない。

 私は創を抱きしめた。でも、一度よみがえった黒い影は消えてはくれなかった。


『お前は悪い子だ』


 私が悪い子なら、

 この子だって悪い子に違いない。


 私は今まで起きたことを話した。子供の頃父親に『悪い子』と言われて殴られていたこと。橋本という仲間がいたのに死なせてしまったこと。その後父親を殺して逃げ回ったことも。

 それは、小さな子供が理解できるような話ではなかった。

 「お母さん、かなしいんだね」

 創が理解したのは、それだけだった。

「ぼく、どうしたらいいの?」

 

 その時だった。


『橋本を蘇らせればいい。()()()()()()()()()


 そんな声がどこからか聞こえてきたのは。

 そうやって償うべきなのだ。

 なぜなら、私のせいで橋本は死んだのだから。

 そして私には、よみがえらせる力があるのだから。


「協力してくれない?」

 私は創に言った。

「創が助けてくれれば、死んだ友達を呼び戻すことができるの」


 ああ、駄目よ。

 こんなかわいい子を犠牲にするなんて。

 心が叫ぶ。

 でも、もう一方ではこんな声がする。

『お前は悪い子なのだから、お前の子供が生きていていいはずがない』

 なぜ、あの男は殺したはずなのに、

 まだ、私を責め続けるのか。


「うん!わかった!」

 創は嬉しそうに言った。お母さんの役に立てるのが嬉しいのだ。

 こんな純粋な子を。

 いや、

 私の子が純粋であるはずがない。

 生かしておいたら、きっと()()()()()()()

 それならば──

「ぼく、何をすればいいの?」

 無邪気な子供にこんなことを言うのは酷だ。

 でも言わなくては。

「そうねえ──」


 誰か



 私を



 止めて。






「まず、あなたには、消えてもらわなくてはいけないわ」








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