2017.10.20 運命の日⑧ サキ テレビ局
「サキちゃん!ああ!よかった!気がついたのね!」
新橋早紀が目を覚ますと、そこはテレビ局の楽屋で、母、二宮由希が泣きそうな顔で自分をのぞきこんでいた。
「よかったあ〜!」
母は、起き上がろうとした早紀に抱きついた。
「死んじゃったかと思ったじゃないの〜!!」
抱きしめ方がきつすぎて骨が折れそうだと早紀は思ったが、母は放してくれそうにない。どうやら泣き出してしまったようだ。
困った40代の娘め。
そう思いつつも、早紀は嬉しさがこみ上げてくるのを感じた。母は自分のことをちゃんと愛して、心配してくれているのだ。ただ、行動がガキくさくて伝わらないだけで。
「あのう──」
スタッフが言いにくそうにやってきた。
「もう収録始めたいって──」
「それどころじゃないわっ!」
母が叫んだ。
「サキちゃんが頭を打ったのよ!すぐ病院に連れて行かなきゃ!」
「いや、あの、大丈夫だから」
早紀は慌てて言った。
「ねえ、私と一緒に初島──白髪の女の人も階段から落ちたんだけど、知らない?」
「白髪の女?」
母がよくわからないという顔で付き人を見た。
「倒れていたのはサキちゃんだけだったよ」
付き人が言った。
「それより早く救急車を呼んで!」
母が叫んだ。
「だから大丈夫だって言ってるでしょ〜!!」
早紀も同じくらい大きな声で叫んだ。
「私に嫌われたくなかったらちゃんと仕事しなさい!」
母は不満げに黙った。
「病院は後で行ってちゃんと検査受けるから」
早紀はそう言いながらスマホを取り出し、久方創にLINEを送ろうとした。しかしそこには、
僕はもう大丈夫だから、
テレビがんばってね。
という文字と、ソファーでくつろぐかま猫の写真があった。早紀はそれを見てホッと安心し、まだ不安そうな母をなだめながら一緒に楽屋を出た。




