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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2015年11月

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2015.11.21 松井カフェ



 昨日久方さん来たのよ。よく話す方が。



 松井マスターは、平岸パパにそう言いながら、窓辺でくつろぐねこに目をやった。

 彼女は、来るたびに性格が変わる久方を、なんとなく2タイプに分類していた。


 おとなしくて無口な方と、

 陽気でよくしゃべるが、ねこが威嚇してよりつかない方に。


 常連の平岸パパにだけ、世間話のようになんとなく持論を伝えていた。

 最近店に入り浸っている平岸パパは、どちらの久方とも話したことがあった。


 でも、どちらが本人なのだろう。


 だれでも元気のいい日とそうでない日はあるが、あれは同じ人間にしては、あまりにも違いすぎる。話の内容からして、陽気なほうは歳だ。マスターの印象からすると、50代。トラックの運ちゃんとほぼ同じ調子で仲良くしゃべっていたこともある。静かな方はまず自分から話をすることはないが、感じがよくて礼儀正しい。二人?は互いを避けるように別々の時間帯に来る。例の金髪メガネはいつも無言だ。



 寒いし雪があるからなあ。あそこからここは距離があって、歩くには長いが車だとすぐだし、若い人には微妙だな。俺はどこだろうと車だけどさ。


 平岸パパは別なことを気にしていた。

 娘の奇怪な趣味と言動について。

 オタクなのは自分の娘だから仕方ないとして、噂話をむやみに言いふらしているのが気になる。

 特に、ヨギナミの件は目に余る。注意が足りなかったか。



 面白がって言いふらす人なんかどこにでもいますよ。特に色恋沙汰はねぇ。商店街の奥さんなんてみんなそうですよ。学校だってそう。私の学生時代からそうでしたよ。そこだけは昔から進歩しないのね。



 人の噂は時代に関係なしか。



 平岸パパは笑いながらため息をついた。コーヒーがいつもより苦く感じる。クッキーの枚数も増える。妻の『白い砂糖は体に悪い!』という説教が、本人がここにいないのにはっきりと聞こえる。



 カフェの電話が鳴った。

 マスターは取った瞬間に、



 あら珍しい。孫だわ。



 と言ってニコッと笑った。しかし、話しているうちに顔色が変わってきた。



 平岸さん、店じまいを頼んでいいかしら。鍵をかけてくれるだけでいいから。



 何が起きたのかと聞いてみたら、



 勇気が一人で函館まで来てて、お金がなくなったんですって。迎えに行かないと……一体何があったのかしら。



 マスターは動揺しているようだ。平岸パパは趣味で持ち歩いている時刻表で(オタクの彼に『検索したほうが早い』などと口走ってはいけない)函館行きの時刻と、それに乗り継げる秋倉駅からの発車時刻を調べた。早めに出たほうがよさそうだ。



 マスターからキーを受けとり、慌てて走っていくのを見送ると、平岸パパは臨時休業の札を出して、売り物のクッキーを取り、律儀に代金をレジ横に置いて、ポリポリと噛み砕き始めた。どこの家でもなにかしら起きてるもんだなと思いながら。



 おおい、なしたのよ?



 窓ガラスを叩きながら叫んでいるのは、奈良のとっつぁんだ。隣には保坂がいる。話題の渦中にいる保坂秀人の父親が。



 こりゃ、おもしろいことになったな。



 平岸パパは二人に向かってニカッと意味ありげに笑うと、カギを開けにドアに向かった。今日はオヤジ3人で貸しきりだ。楽しい話題は出なさそうだが。





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