2017.10.20 運命の日⑦ 久方とサキ カラーの心の世界にて
久方と早紀は、2人が消えたあたりの空を呆然と見上げていた。
今の、どういうことですかぁ?
早紀が弱った声を出した。
新道が初島の良心とか言ってましたね。
つまり、2人は元々一人の人間だったってこと?
しかし、久方がショックを受けたのはそこではなかった。
僕は、橋本のために創られたのかと思っていた。
久方は言った。空を見たまま。
そうじゃなかったんだ──
自分は元々、普通に愛された子供で、初島は──あの人は後から狂ったのだ。
新道も消えちゃいましたけど、私達どうやって元の世界に戻ればいいんでしょうね。どこかに出口があるとか?夢から覚めるみたいにいきなり現実に戻るとか?
とりあえず、もう少し歩いてみよう。
久方と早紀は森の中の一本道を歩き始めた。心地よい風が吹き、木々の緑は輝き、鳥の鳴き声までする。モノクロの森とは大違いだ。
ここには、生命があふれている。
しばらく進んだ時、
あれ、新道じゃないですか?
早紀が横道の草原を指さした。そこには、先程消えたはずの新道隆が大の字になって倒れていた。メガネがずれ、服も傷んでいる。
新道さん、大丈夫ですか?
久方が駆け寄ってゆすると、
うーん──
新道はあっさり目を覚ました。ゆっくりと起き上がると、何かを思い出したように胸に手を当て、少し止まった後、
──どうやら、うまくいったようだ。
と小声で言い、微笑んだ。
どういう意味?
早紀が尋ねた。
こっちの話です。お気になさらず──よいしょっと!
新道はおじさんくさい掛け声とともに立ち上がった。
さて、色彩を取り戻したとはいえ、ここは君達のいる場所ではありません。実際、もう来る必要もなさそうだ。そうですね?創くん。
先生は知っていましたか?
ここが僕の創り出した世界だって。
おそらく、初島のためだったのでしょうね。
初島のため?
早紀が新道と久方を交互に見た。久方はどう答えていいかわからなかった。
とにかく、君達を元の世界に戻しましょう。きっとこれが俺の最後の仕事だろうな──
新道がひとりごとのようにつぶやくと、早紀と久方のまわりを風が取り巻いた。
もう、過去にはとらわれずに、
今と未来だけを見るんですよ。わかりましたか?
新道が先生らしい笑みを浮かべた。
ありがとう。
久方は空中に浮かびながら微笑んだ。
何なのおっさんが偉そうに──
早紀が文句を言い切る前に、風は2人を別世界へ運んでいった。




