2017.10.20 運命の日③ 久方創 モノクロの森
僕はもう大丈夫なはずなのに、
なぜここに来てしまったのだろう。
久方創は目の前の景色をぼんやりと見ていた。色のない木々と草。そう、ここはモノクロの森だ。しばらく足を踏み入れていなかった。もう一生来なくて済むだろうと思っていた。
なのに、草原を散歩していたら、いつの間にかまわりから色彩がなくなり、気がつくと、白黒の木々に囲まれていた。
もう平和な世界で暮らしているはずなのに。
色のない森を眺めながら、久方は前にここに来てしまった時のことを思い出していた。
あの人が近づいてきているとか?
そう思うと体に緊張が走った。昔言われた数々の暴言が頭をよぎった。でもすぐに頭を振った。
いや、もう昔の話なんだ。
もう大丈夫のはずだ。
出口を探そう。もしかしたらまた新道先生に会って、あっさり強制送還してくれるかもしれない。
久方は歩き出した。感覚のない森を。しかし、どこまで行っても景色に変化がない。色のない木々がどこまでも茂っているだけだ。新道先生も現れない。
このまま出れないんじゃないだろうか。
不意に思い始めた頃、斜め後ろからガサガサと音がした。
慌てて振り返ると、そこにいたのは──
サキ君!?
そう、鮮やかな赤いワンピースを着た早紀がそこに立っていた。
どうしてここにいるの?
私、テレビ局にいたはずなんですけど。
早紀が弱々しい声で言った。
廊下で初島緑に会っちゃって、走って逃げたんですけど捕まってしまって、振り払おうとしたら階段から落ちちゃって──気がついたらここにいました。
久方はその言葉が信じられなかった。
あの人が出たの?テレビ局に?なぜ?
こっちが聞きたいですよそんなの!
早紀が叫んで少し飛び跳ねた。
とにかく、出口を探そう。
サキ君はここにいちゃいけない。
『サキ君も』でしょ?
所長だってここにいちゃダメでしょ!?
サキが怒った顔で言ったので、久方は笑って、
そうだ、僕らはここにいちゃいけない。
出る方法を探そう。
2人一緒に歩き始めた。




