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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2017年10月

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2017.10.5 木曜日 サキの日記

 10月20日のテレビ収録が迫ってきてる。母とはこないだケンカしてから口きいてない。こんな状態で親子インタビューなんて受けて大丈夫なのか?テレビカメラの前で親子ゲンカして、週刊誌にでかでかと醜悪な記事を載せられる場面ばかり想像してしまう。授業なんて全く耳に入らない。

 昼休みもそのことを愚痴ったけど、あかねも佐加も『テレビに出る』とか『有名人に会う』ことでキャーキャー言うだけで、私の話聞いてない。ヨギナミは『お母さんともう一度話し合ったら?』と言ったけど、それも嫌。

 なんとなく晴れない心で、保坂を追って研究所に向かう。毎週木曜のピアノ教室は順調に進んでいるらしい。私の(奈々子のか)歌のレッスンは強制終了されたのに。

 トッカータが完成して、奈々子がそれに満足したせいか、

 最近、結城さんは、私に興味がなくなったみたいだ。

 奈々子も出てこない。いなくなったのかと思うくらい姿を見せない。


 所長はやっと戻ってきたシュネーにブラシをかけていた。安心してリラックスした表情をしていた。ここんとこずっとシュネーの心配ばかりしてたもんな。


 そういえば、高谷君は大丈夫なの?


 聞かれたので、症状が重くて起き上がれないらしいことと、出席日数が足りなくて留年しそうなこと、保坂と勇気と奈良崎が授業を中継して病院でも見れるようにしようとしていること、でも、先生と学校側はそれを認めていないことなどを説明した。


 高谷君、かわいそうだね。


 所長が悲しげな声と表情で言った。クラスのみんながそう思ってる。何かできることがないか必死に考えている。私も一応本人に聞いてみたけど、『サキにできることなんかないよ。何もしなくていい』と返ってきてちょっとイラッとした。

 そして今、私は所長と結城さんのことを考えている。

 私は冷たい人間なんだろうか。同じグループの友達が重い病気なのに、自分のことしか考えられない。

 天井からは保坂と結城さんが交互にピアノを弾く音がしていた。また難しい曲を練習しているらしい。私がどうでもいいこと(いや、私にとっては大事なことだけど)で悩んでいるうちに、保坂はどんどんプロみたいな曲を弾けるようになってる。

 早めに帰ることにした。

 勉強しよう。受験も近いし。

 何もできないのならせめて大学には受からないと。

 受かったら大学に通いながら文章を書こう。

 自分の人生を。

 やっぱり私は架空のシナリオを書くより、実際に起きたことを書く方が向いてる。




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