2017.10.2 月曜日 サキの日記
自分に呪いをかけられるのは自分しかいない。
朝起きた瞬間にそう感じた。なぜかはわからない。明け方、どっかの小さな飲食店みたいな所で商品が届くのを待つ夢を見た。何を待っていたのかはわからない。で、うとうとして、こっちの世界に戻ってきた瞬間に思った。
『自分に呪いをかけられるのは自分だけ』
そのことについてずっと考えながら朝ごはん食べて、授業を受けて、帰りなんとなく研究所へ行った。こういうことを話せるのは所長しかいないと思ったから。
所長は、私のよくわからない一人語りを黙って聞いてくれた。話してるうちに少しは考えがまとまってきた。
つまり私は、自分で自分に勝手に呪いをかけていたのではないか、ということ。もちろん嫌な事件とかきっかけはあったけど、そこから『同年代の男子は信用できない』とか『母は私を愛していないのかもしれない』とか、そういう結論を出したのは自分だ。つまり、怖いものを自分で決めて、自分で自分に恐怖や不安を教えてしまったのかもしれない。
僕にも似たような所があるよ。
所長はそう言った。
昔起きたことがひどく大きく感じられて──実際、僕にとっては辛くて重い経験だった、それは間違いない──だけど、それはもう昔のことなんだ。
今はもう、何も起きていない。
こんな穏やかで静かな所に住んでいるのに、
何かに脅かされている気がするなんて、
よく考えたらおかしな話だよね。
いや、決しておかしいことじゃない。
何か大きなことが人生に起きると、それを忘れられない限り、それは何度でもまた起こるのだ。頭の中で、体感を伴って、どこへ行っても。
それを断ち切るには、自分が変わるしかない。
過去ではなく、今を見るように。
平穏で、何も起きていない今を。
所長は入院中のシュネーのことが心配で、他のことが考えられないらしい。誰のせいでもないから気にしなくていいですよ、猫だって病気になるときはなるでしょ、と私は言ったけど、やはり飼い主として責任を感じるとかブツブツ言う。
自分を責めてもなんにもなりませんよと言ってから、かま猫と遊んで帰った。
帰り道でふと思った。
自分に自分で呪いをかけることができるなら、逆のこともできるのではないかと。呪いの反対語ってなんだろう?祝福?よいことが起こるおまじない?
とにかく、いい方に自分を変えることだってできるはずだ。
少なくとも今私は平和な町に住んでいて、まわりの人も(変人だけど)いい人ばかりだ。
だから、これからはもっと世界を信頼したい。




