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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2017年10月

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2017.10.1 日曜日 ヨギナミ

 草原の真ん中にぽつんと建つ与儀の家。今は誰も住んでいない場所。そこに、おっさんとヨギナミがいた。冬が来る前にまわりを整えておこうと、壁を覆うほど伸びていた草やツタを刈り、窓の汚れを落とし、屋根や壁に痛みがないかどうかを確認した。

 それから、家の中に入り、お茶をいれて休んだ。


 あさみは、自分が完璧だってことに気づいてなかったな。


 不意におっさんが言ったので、ヨギナミは驚いた。


 お母さんのどこが完璧なの?


 窓辺にいて、外を眺めている姿を思い出すんだよ。

 

 おっさんが窓辺を見ながら言った。


 俺にとっては、あさみがそこにいて世界を眺めてる、それだけで完璧だったんだよ。ただ存在しているということがな。

 でも、わかんないよな。あさみにも、お前にも。

 何か社会に認められるようなことができなきゃ自分には価値がない。そう思い込んでいる奴が多すぎる。

 でも、そんなのは関係ないんだよな。

 存在自体が尊いんだ。


 かつて母が眺めていた窓を、今はヨギナミとおっさんが見ていた。秋は深まり、木々や草の色は変わり始めていた。晴れているが、夏のようなきらめきはない。世界は穏やかに、眠りの季節へと移行していた。


 俺はそのうちいなくなる。


 おっさんがつぶやいた。


 お前に何も残せないよな。


 そんなことないよ。いろいろ助けてくれたもん。


 そうか。ならいいんだけどな。

 俺のことは早く忘れていいぞ。


 いや、一生忘れないと思う。


 ヨギナミは言った。


 ここで起きたことは、一生、忘れない。


 するとおっさんは、


 ありがとう。


 と言った。

 それから、二人は黙って、移ろいゆく窓の外を眺めていた。雲が多くなり、青空は隠れ始めていた。亡き人の思い出がくすぶっている部屋。そこに、二人は暗くなるまで座っていた。

 まるで今でもあさみがそこにいるかのように。






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